ひろば 川崎高津公法研究室別室

川崎から、徒然なるままに。 行政法、租税法、財政法、政治、経済、鉄道などを論じ、ジャズ、クラシック、街歩きを愛する。

近鉄内部線・八王子線は存続の方向へ/名鉄の赤字支線、JR西日本三江線についても少しばかり

2013年08月28日 10時34分18秒 | 社会・経済

 今回は三題噺のような構成(?)です。

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 昨日(8月27日)の21時5分付で、中日新聞社が「近鉄内部・八王子線、公有民営で存続方向」として報じています(http://www.chunichi.co.jp/s/article/2013082790210522.html)。

 これは、昨日、定例記者会見の席で四日市市長が明らかにしたことです。まだ完全に交渉がまとまった訳でもないようですが、基本線は決まったということでしょう。近鉄は、当初、両線のBRT化を提案していましたが、鉄道として存続するなら公有民営方式が妥当であると主張していました。8月9日付の「近鉄内部線・八王子線は存続の方向に進むか」においても「近鉄は線路などの施設や車両を四日市市に無償で譲渡するという姿勢を見せているようです」と記しましたが、結局、この方向が四日市市にも受け入れられた、ということになります。

 四日市市は、土地についても無償譲渡を求めています。しかし、これは難しいでしょう。施設や車両であれば、減価償却などの関係で、近鉄側に法人税の負担が生じませんが(または、生じても大した額にはなりませんが)、土地となるとそうはいかないからです。法人税法第22条第2項は、益金について「別段の定めがあるものを除き、資産の販売、有償又は無償による資産の譲渡又は役務の提供、無償による資産の譲受けその他の取引で資本等取引以外のものに係る当該事業年度の収益の額」と定義しており、無償で資産の譲渡等を行っても「当該事業年度の収益」は生じるものとしているからです〈このあたりのことは、私の「租税法講義ノート」〔第2版〕の「16    法人所得その1」(http://kraft.cside3.jp/steuerrecht16-2.html)を御覧ください〕。過去には、全廃を決めた高千穂鉄道の例(別の会社に土地や施設などを無償譲渡しようとしたところ、法人税の負担が発生することがわかったという事例)もあります。もとより、譲渡先が四日市市という地方公共団体であるため、この辺りについては特例があるかもしれません。租税特別措置法などをよく調べなければならないので、この辺りのことは、今回、これ以上踏み込んで記しません。

 もう一つは、やはり赤字の負担割合です。中日新聞社の記事にも、この10年間では毎年3億円ほどの赤字が出ていると書かれています。営業係数がどの程度なのかわかりませんが、三重県以外には(黒部峡谷鉄道を除いて)類例がない特殊な鉄道だけに、相当の企業努力がなければ存続が難しいと思われます。

 何せ、近鉄が廃止を急ぐ理由の一つが車両の問題であり、4月28日付の「やはり、近鉄内部線・八王子線はBRT化されるのか」でも述べたように、2015年8月28日に予定されている定期点検の際に1両が廃車になる、と言われています。14両もあって予備の車両がないのか、など、突っ込もうと思えばいくらでもできそうな話ではありますが(電動車が廃車されるのでなければ、3両編成を2両編成に減らしてもよい訳です)、代わりとなる車両を製造するまでにかなりの時間がかかることも事実です。他の鉄道から購入する訳にもいかないのがつらいところでもあります。

 車両以外にも難関はあります。中日新聞社の記事の表現を借りるならば「老朽化が目立つ安全設備の更新に20億円が、保守点検に年間3千万円が必要」であるとのことです。馬鹿にならない額で、これでは四日市市が三重県に支援を求めるのも理解できるというものです。

 公共交通機関に安全性が求められるのは当然で、そのためには「安全設備」(これは信号機やATSなどのことを指しているのでしょう)の更新や保守点検が必要です。しかし、私が昨年の11月に両線を利用して感じたことを記すならば、現在の施設ではスピードアップを望めないし、最高時速45キロメートルでは厳しいでしょう。大量・定点輸送の観点からすれば、内部線・八王子線の存続を図るのであれば、単に現在の水準を維持するというレベルでは足りないでしょう。かつて近鉄の路線であった北勢線は、三岐鉄道に譲渡されてからスピードアップが図られており、駅の統廃合なども実施されています。スピードアップのほうはまだ完全に実現していないのですが、存続のためにそれなりの投資はなされているのです。

 四日市市が施設などを譲り受けた場合には、どのような戦略を立てるかが重要です。一つは車両で、思い切って1編成くらいは新車を入れる必要があるかもしれません。技術的にも可能であるならばVVVF制御車でしょう。また、これはあくまでも私見ですが、塗装は見直す必要があると思います。車両によって色が違うのは、金ばかりかかるでしょうし、統一性がないので見苦しささえ感じられます。せめて編成ごとの統一を求めたいところです。そして、このように書いておいてどうかとは思うのですが、広告車両を導入する手もあります。

 また、予算、財政の面からは難しいと思うのですが、やはりスピードアップでしょう。たしか日永駅の近くの橋梁の辺りに急カーブがあるのですが、ここで減速を強いられるのは厳しいところです。軌間762ミリメートルで最高速度をどの程度にまで設定できるのか、技術的なところはわかりませんが、時速60キロメートルは欲しいところです。

 少しばかり余計なことを書いたかもしれませんが、とりあえずは存続の方向が採られたことは喜ばしいというところでしょう。

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 さて、大手私鉄の支線の存廃問題ということでは、名鉄を忘れてはなりません。現在の懸案は西尾線の西尾~吉良吉田、蒲郡線の全線(吉良吉田~蒲郡)、広見線の新可児~御嵩です。

 名鉄といえば、かつては近鉄の次に営業キロ数が長く、愛知県と岐阜県に大きな路線網を抱えていることで知られていました。現在も営業キロ数では近鉄、東武に続いて第3位ですが、輸送密度が大手私鉄では最も低いと言われています。モータリゼイションの影響をまともに受ける地域で、1960年代以降を見るならば、名鉄の歴史は支線の廃止の歴史と言えるほどに多くの路線が廃止されています。厳密に比較したことはないのですが、路線の廃止を重ねたという点では、北九州線、福岡市内線などを次々に廃止して最長の時期からすると実に半分ほどの営業キロ数となった西鉄の歴史と似ているとも言えるでしょう。

 様々な原因があるのですが、とくに西尾線・蒲郡線との関係で記すならば、JR東海の攻勢が重要でしょう。所要時間と運賃の両方で、JR東海の東海道本線のほうが名鉄の名古屋本線に勝るという状況になっています。これでは乗客もJR東海に流れます。近畿地方でも、JR西日本が攻勢をかけて阪急、阪神などから利用客を奪っています(福知山線の事故で、阪急宝塚線の凋落を思い知らされた方も少なくないでしょう)。中京圏と京阪神地区で同じような現象が起こっている訳です。

 御多聞に洩れず、名鉄も合併を繰り返して巨大化した会社です。名古屋本線や犬山線のようなドル箱路線もあれば、過疎地域を走る支線もあります。収益を生み出す路線があるから支線を維持できる訳でして、主要路線の収益力が下がれば、支線を維持する体力も下がります。名鉄の支線については、機会を見て改めて記したいと思っています。

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 先に京阪神地区におけるJR西日本の攻勢を記しました。南海本線のことを考慮に入れるならば和歌山県を入れてもよいでしょう。しかし、JR西日本にも赤字路線はたくさんあります。とくに中国地方の状況がよくありません。2003年に可部線の可部~三段峡が廃止されていますし、木次線などについても存廃が議論されてしまいます。利用したことがないのでよくわからないのですが、保線管理の状態も悪く、「合理化」のために最高速度が時速15キロメートルに制限されている区間もいくつかあるそうです。おそらく本数も少ないでしょうから、バス(とくに高速バス)や自家用車に負けてしまうのも当然というところです。

 そのような赤字路線の代表格は三江線(江津~三次)でしょう。2007年度の輸送密度が1日あたり94人、2008年度については1日あたり83人と、岩手県の岩泉線に次いで低いのです。そもそも、三江北線、三江南線と分断されていた時期に赤字83線に選ばれており、1980年代の国鉄改革では特定地方交通線に指定されて廃止とされてもおかしくなかったほどです(代替道路の未整備が理由で存続となりました)。陰陽連絡線の一つであるものの、どう考えても山陰と山陽を連絡するには疑問だらけとなるルートで、江津から三次まで3時間以上もかかります。

 さて、この三江線は、現在まで何度となく災害に遭っていますが、最近では2006年7月の豪雨で実に38箇所の土砂崩れによって全線が不通となっています。これは1年ほど続きました。その時点で廃止という意見もあったようです。2012年秋からは社会実験としてバスの増便が行われています。そして今年、今月です。1日、豪雨による土砂流入と道床流出のために石見川本~浜原が運休となりました。12日に復旧となったのですが、24日、やはり豪雨のために井原川橋梁の橋脚1本が流出し、三江線の全線が運休となっています。JR西日本がどのような方針を出すのかが注目されます。

コメント (2)
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