私は直接見ていないのですが、ニコニコ生放送の番組に内閣総理大臣が出演し、布マスク配布政策のおかげでマスクの流通が進み、価格も下がったという趣旨を語ったというニュース記事をいくつか読みました。本当にそうなのかどうか、論拠(根拠)が示される必要があるのですが、どうやら具体的には示されていないようです(いつものことだ、という声も聞こえてきます)。
ただ、私が思ったところは、もし内閣総理大臣の御主張の通りなら、4月の早い段階でもっと流通が進み、価格が下がっていてもおかしくない、ということです。実際は逆でした。5月に入って久しく、今はたしかに価格が下がっていますが、近所の店を見てもまだまだ品不足状態です。5月17日、久しぶりに高津区内のドラッグストア2件で不織布マスクが売られているのを見ましたが、スーパーマーケットやコンビニエンスストアではみかけません。ある所にはあるとしても、偏りが目立ちます。
むしろ、効果があったというのであれば、うちの近くのお茶屋さん(武州茶復活で有名)や文房具店で布マスクが売られるようになったり、マスクを自作する人が増えたり、シャープ、ミズノなどの企業が独自にマスクを製造・販売したりしたことでしょう。
何よりも、布マスク2枚が配布された世帯は今でも僅かなものであり、枚数は1400万枚ほどに留まるそうです。予定は1億3000万枚ほどですから、1%を超えた程度ということになります。しかも、4月17日から配布中であるはずの東京都でも、まだ届いていない世帯が少なくないそうです。
そのような中で、布マスク2枚配布のおかげでマスクの価格が下がったという見解が、内閣官房長官から示されたという報道が目につきました。朝日新聞社が、5月20日の13時48分付で「アベノマスクのおかげで『価格が低下』 菅氏、効果強調」として報じています(https://www.asahi.com/articles/ASN5N4FSKN5NUTFK009.html)。
内閣官房長官の発言は20日の記者会見によるものです。見出しだけを読んでも、ついこの間まで連呼されていたアベノミクスの自賛ぶりを想起させるものですが、内閣官房長官の発言の趣旨は次のようにまとめられています。
「布マスクの配布などにより需要が抑制された結果、店頭の品薄状況が徐々に改善をされて、また上昇してきたマスク価格にも反転の兆しがみられる」
「東京などに届き始めてから、店頭でマスクが売られはじめたんじゃないんでしょうか。非常に効果があると思う」
最初の引用文の「需要が抑制された」というフレーズはどういう意味なのかと疑いました。抑制されたのであれば4月の中旬か下旬には店頭に出回っていたはずです(日本、海外での生産状況や輸入状況を考慮に入れたとしても)。また、マスクを新たに製造・販売しようとする企業も現れたり、布マスクを自作する人も増えたりしたことからすれば、「需要が抑制された」とは言えないのではないでしょうか(抑制されているならば、そのような動きはあまりみられないはずですから)。実際に「抑制された」というのであれば、何らかの論拠が必要でしょう。上の二つの言葉については、いずれも具体的な根拠(論拠)は示されなかったということです。記者会見という場であるとはいえ、多少は出せるのではないかと思われます。
「店頭の品薄状況が徐々に改善をされて、また上昇してきたマスク価格にも反転の兆しがみられる」という言葉は、事実を捉えているのでしょう。ただ、これは結果です。原因と結果との関係、つまり因果関係が明確にされていると言えないのです。時間という軸も大事になってきます。
二番目の引用文も、結果論としてはその通りと言えるかもしれませんが、それは、布マスクが届かない地域が圧倒的に多い中で、シャープ、ミズノなどが製造・販売したことなどの効果が大きいからでしょう。
ただ、この記事を読んでいて、やはり売り惜しみなどもあったのではないかという、私がこのブログで何度か記した懸念も否定されていないのだろう、とは感じました。