ひろば 川崎高津公法研究室別室

川崎から、徒然なるままに。 行政法、租税法、財政法、政治、経済、鉄道などを論じ、ジャズ、クラシック、街歩きを愛する。

改正と廃止が混同されることがある

2023年11月23日 08時00分00秒 | 法律学

 時折、鉄道関係の専門書で鉄道敷設法という法律が取り上げられることがあります。日本国有鉄道改革法等施行法(昭和61年12月4日法律第93号)第110条第2号によって廃止された法律なのですが、現在まで尾を引く赤字ローカル線問題の原因とも言えるものであり、その一部についてはこのブログでも何度か取り上げています。

 今回は、その鉄道敷設法の内容ではなく、専門書でよく見られる誤りをここに示し、正しておきたいと考えました。

 実は、鉄道敷設法という名称の法律は二つ存在していました。専門書で取り上げられることが多いのは大正11年4月11日法律第37号(以下、大正鉄道敷設法と記します)のほうですが、もう一つ、明治25年6月21日法律第4号(以下、明治鉄道敷設法と記します)があります。

 よく見られる誤りとは、大正鉄道敷設法のほうを「改正鉄道敷設法」と記し、大正鉄道敷設法が明治鉄道敷設法の改正によって成立したと読みうる説明を行うことです。

 日本法令索引国立公文書館デジタルアーカイブを参照するとすぐにわかりますが、大正鉄道敷設法は明治鉄道敷設法の改正によって生まれたものではありません。大正鉄道敷設法の附則は次のように定めていました。

 「明治二十五年法律第四號鐵道敷設法、北海道鐵道敷設法、明治二十七年法律第十二號乃至第十五號、明治二十九年法律第七十二號乃至第七十七號、明治三十年法律第十一號、同年法律第三十二号、同年法律第三十三号及同年法律第三十五号ハ之ヲ廢止ス」

 大正鉄道敷設法が明治鉄道敷設法の改正によって成立したものでないことは一目瞭然です。両者は名称こそ同一であれ全く別の法律なのです。敢えて記すなら大正鉄道敷設法は明治鉄道敷設法を全面改正したものであるとも言えなくはないのですが、正確を期すのであれば、やはり大正鉄道敷設法によって明治鉄道敷設法が廃止されたと表現すべきです。実際に、両者を読み比べてみるとわかりますが、明治鉄道敷設法と大正鉄道敷設法は、趣旨こそ共通するものの、規定の内容がかなり異なります。改正という手法を採らなかったのも理解できるでしょう。

 鉄道敷設法について書きつつ思い出したのが、行政不服審査法です。このブログに掲載した「行政法講義ノート〔第7版〕」の「第29回 行政救済法とは何か/行政不服審査法」において、私は昭和37年9月15日法律第160号を旧行政不服審査法、平成26年6月13日法律第68号を行政不服審査法と記しています。行政不服審査法の目次の前に「行政不服審査法(昭和三十七年法律第百六十号)の全部を改正する」と書かれているからですが(日本国憲法も同様でしたので、憲法に倣ったのかもしれません)、要は行政不服審査法によって旧行政不服審査法が廃止されたのであり、そのことを示したかったからでもあります。日本法令索引は、旧行政不服審査法を「廃止法令」、行政不服審査法を「現行法令」と表現しており、多くの行政法の教科書より正確であると言えることでしょう。

 法律の改正と廃止は全く異なるものです。しかし、全面改正という言葉により、改正と廃止との区別が付きにくくなる嫌いはあります。安易であるとは言え、成文法の条文を読み、その記述に従うしかないのかもしれません。

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 前述のように、大正鉄道敷設法は日本国有鉄道改革法等施行法第110条第2号によって廃止されました。日本国有鉄道改革法等施行法第110条によって廃止された法律には、他にどのようなものがあるか。それを記しておきます。

 鉄道国有法(明治39年3月31日法律第17号)

 国有鉄道運賃法(昭和23年7月7日法律第112号)

 鉄道公安職員の職務に関する法律(昭和25年8月10日法律第241号)

 日本国有鉄道新線建設補助特別措置法(昭和36年6月7日法律第117号)

 日本国有鉄道経営再建促進特別措置法(昭和55年12月27日法律第111号)

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