一昨日(2023年11月15日)の21時30分付で朝日新聞社が「千葉科学大、銚子市に公立化要望 加計学園が経営、安倍晋三氏とも縁」(https://digital.asahi.com/articles/ASRCH6K44RCHOXIE02Z.html)として報じていたのを読んで、「やっぱり」と思いました。あれこれと曰く付きの所、「もりかけ」問題にも関係のある所だけに、公立化は難しいであろうし、すべきでもないだろうと考えられるのです。
千葉科学大学を経営する加計学園が理事長名で銚子市に公立化の要望を出したのは10月11日のことです。1か月ほど経過して11月15日に明らかにされた理由はよくわかりませんが、突然の話でなければ10月11日より前に何度か非公式の打診があったと考えられます。
一方、銚子市は、来年1月に検討会を設置するとのことです。ただ、銚子市は財政危機宣言を出しており、今も借金の返済に追われていますから、安易な結論が出されるとも予想されるとは言え、財政状況の改善を第一にして回答(解答)を出すべきでしょう。
「もりかけ」問題が盛んに報じられていた頃に知られたことではありますが、ここでも少しばかり記しておきます。千葉科学大学が開学したのは2004年であり、銚子市が誘致した結果によります。しかも、銚子市はおよそ10ヘクタールの市有地を無償で提供しており、77億5,000万円を建設費として助成しています。直接の参考になるかどうかわかりませんが、今年度の銚子市一般会計の歳入予算および歳出予算の総額は25,120,000千円、つまり251億2,000万円、2018年度のそれは231億3,700万円です。2004年度以前の財政規模が2023年度や2018年度と同じくらいの規模と仮定すると一般会計予算の3割ほどが助勢に充てられたこととなります。さらに、この助成のために銚子市は市債を発行しています。具体的な発行額はわかりませんが、2017年度末における市債現在高が285億5,000万円であり、2013年5月に銚子市が財政危機宣言を発していることから、千葉科学大学の建設費に対する助成のためにかなりの額にわたる市債の発行が行われたことが推察されます。銚子市のサイトには「銚子市緊急対策について」というページがあり、次のように書かれています。
銚子市の財政は、財源手当ての乏しい大規模事業(大学建設費助成、市立高校整備、給食センター整備)を短期間に集中して実施したことによる市債・公債費の増加、市立病院への繰出金の増加、社会保障関係経費の増加などにより急激に悪化しました。
このため平成25年5月、『財政危機宣言』を発し、三度にわたる事業仕分け、使用料・手数料の見直し、未収金対策、市立病院の指定管理者変更と経営改善、職員数・人件費の削減など、財政健全化の取組を進めてきました。
しかし、市の貯金にあたる財政調整基金は平成28年度末に4億2,500万円まで回復したものの、平成30年度は普通交付税や市税の落ち込みなどにより、財政調整基金を全額取り崩しても赤字決算が見込まれる状況にあります。何の対策も講じなければ、今後は年間7億円から8億円の単年度赤字が蓄積し、平成33年度に財政健全化団体、34年度に財政再生団体に転落する恐れがあります。財政再生団体になれば、国のコントロール下に置かれ、厳しい事業制限と大きな市民負担が強いられることになります。
子どもたちにツケを回さないための改革を進め、財政危機という銚子市の難局を乗り越えて健全な財政を確立するため、5年間(平成31年度から35年度)の緊急財政対策を取りまとめ、実行します。
銚子市緊急財政対策は2018年11月22日に出されており、これは現在も施行されています。毎年およそ4億円が返済に充てられているとのことで、銚子市に千葉科学大学を引き受ける余裕はないと考えられます。
加計学園は、10月11日の要望書において「公立化による授業料の値下げで応募の増加や、地方交付税の収入などの利点を挙げている」とのことですが、具体的なことは記事にも書かれていません。たしかに、これまでいくつかの私立大学が公立大学に変更されており(このブログでも京都府福知山市にあった成美大学が福知山公立大学に変わったことなどを取り上げています)、志願者数が増加するなど一定の成果を出している大学もあります。しかし、いつでもどこでも通用する手であるとは言えないでしょう。地理的に見ても、銚子市は関東地方の最東端にあり、学生を集めにくいのではないでしょうか。余程の宣伝材料となるものがなければ、銚子市立か千葉県立と頭に付く公立大学(実際には公立大学法人です)の存続は難しいでしょう。ただでさえ、大学の都心回帰が喧伝される世の中です。
「公立化による授業料の値下げで応募の増加や、地方交付税の収入などの利点を挙げている」という部分には、何度も引っかかります。たしかに、一般的には私立大学より国公立大学のほうが授業料が低く設定されています。また、地方交付税の算定の基礎となる基準財政需要額には大学の設置および管理のための経費が含まれています。しかし、公立大学の学費に関しては地方独立行政法人法に公立大学法人の特例を含めて規定がなく、公立大学法人の定めるところによるということになります。
国立大学等については「国立大学等の授業料その他の費用に関する省令」があるので、公立大学もこの省令を基準にしているものと思われます。しかし、文部科学省から公立大学法人に向けて発せられていると考えられる通知などは公表されていないようですし、「公立化による授業料の値下げ」の法的根拠は十分に明らかにされている訳でもありません。
地方交付税についても、たしかにそれによる収入は増えるかもしれませんが、その収入がどこまで公立大学の運営に充てられるかはわかりません。地方交付税の使途は限定されていませんから、基準財政需要額には大学の設置および管理のための経費が含まれているからといってその経費の全額が公立大学の運営に充てられる訳でもありません。地方交付税の総額をどのように配分するかは総務省の権限に属しますし、公立大学が設置される都道府県および市町村はいくらでもあります。実際に、公立大学の経費は地方交付税で足りるはずがないのです。私立大学から公立大学に転換することで交付金や補助金が増える可能性はありますが、具体的な見通しがない以上は単なる可能性の指摘を超えません。
一方、千葉科学大学のほうは、入学者の定員割れが続いており、2023年度の入学者は228人で定員の46.5%でした。在学者は学部および大学院を合わせて1500人ほどです。千葉科学大学のサイトに沿革が掲載されているので眺めてみると、学科の募集停止が多く見られます。その多くは学部・学科の改組によるもののようですが、2019年4月の薬学部生命薬科学科および危機管理学部環境危機管理学科の募集停止、2023年4月の大学院薬学研究科薬科学専攻(修士)の募集停止は改組を伴っていません。
詳細は文部科学省のサイトを御覧いただきたいのですが、国立大学には運営費交付金、私立大学には経常費補助金が国から支出されています(リンク先の資料が古いことを御承知おきください)。学部によって違いはあるのですが、学生収容定員に対する在籍学生数の割合が概ね90%以下となると経常費補助金が一定の割合で減額され、50%以下となると経常費補助金が交付されないこととなります。千葉科学大学の学部毎の学生収容定員に対する在籍学生数の割合はわかりませんが、入学者の定員に対する割合が46.5%であることからすれば、経常費交付金の不交付または大幅な減額がなされていることは容易に想像がつきます。そして、ここまで入学者数が少ないとすれば、卒業者数もさらに少なくなることも簡単に推測できます。2024年度あるいは2025年度の入学者数が大幅に上昇するとも考えられないので、公立化しなければ、早くて2024年度にも大学全体の募集停止を表明するに至ることが予想できます。
しかし、銚子市の財政状況からして、銚子市立の大学に転換することは現実的であると考えられません。そうすると、残るのは、千葉県立の大学になるか(これも千葉県の意向次第ですが、現実的ではないことを承知しています)、加計学園が経営する他の大学(岡山理科大学など)と統合するか、加計学園以外の法人(設置形態を問いません)が経営する大学と統合するか(この場合には大学以外の学校に転換することも含みます)、純粋に閉校とするか、ということになります。
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今年、東京都多摩市にある恵泉女学園大学が学生の募集を停止しました。2018年度の入学者が定員の88%、2022年度の入学者が定員の56%であったことから募集停止の決断が下されたようです。しかし、恵泉女学園の場合は中学校および高校があり、それなりの実績などもあるようで、中学校および高校は存続します。同様の例としてカリタス女子短期大学(横浜市青葉区)や東京女学館大学(東京都町田市)があります。いずれも短期大学や大学は閉学したものの、その他の学校は存続しています。
このような話は、千葉科学大学に当てはまりません。そもそも千葉科学大学は女子大学ではありません。また、同大学の附属高校などは存在しませんし、岡山理科大学附属中学校・高校があるとは言え、地理的にカリタス学園や東京女学館のようなことは無理でしょう。岡山県にある学校は存続するでしょうが、千葉科学大学は難しいということになります。