或る事情により、「所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法」、略して所有者不明土地法に取り組んでいますが(税理という雑誌に掲載された記事で私の論文が参照されていたのには驚きました)、この法律の意味なり目的なりが今ひとつ明確でないことが気になっていました。第208回国会で同法の改正法が成立していますが、その改正法の審議においても野党の議員から趣旨・目的について疑念が示されていました。
また、所有者不明土地法に目を通すと、空き家問題と重なる部分もあり、「空家等対策の推進に関する特別措置法」との関係も問われます。
さらに、所有者不明土地法は相続・遺贈にターゲットを絞っているようにも見えるのですが、所有者不明土地は別に個人の相続・遺贈によって発生するだけのものではありません。勿論、相続・遺贈は重大な原因の一つですし、民法や不動産登記法などの改正、関連法律の制定は必要です。しかし、不十分です。例えば、登記簿において土地または建物の所有権が法人にある旨の登記がなされているが、実はその法人は既に消滅している(法人格が消滅している)場合には、所有者が存在しないことになり、結局のところ片付けようにも片付けられない問題となります。考えようによっては個人の相続・遺贈より深刻と言えるでしょう。何故なら、相続・遺贈であれば相続人などをたどればよいということにもなりますが(但し、この作業が大変なものであることを忘れてはなりません)、消滅している法人の名義となっている場合には、そもそも地方公共団体が手を付けられるようなものでもなく、破産だの何だのという話ともつながり、ただただ厄介な後始末をしなければ登記簿上の名義などを改めることができないのです。
このように書いてきたのは、吉川祐介さんの著書『限界ニュータウン 荒廃する超郊外の分譲地』(2022年、太郎次郎社エディタス)を入手し、読み進めてきたからです。吉川さんは、YouTubeの「資産価値ZERO-限界ニュータウン探訪記-」で有名な方で(私も時折視聴させていただいております)、動画でも破産などの手続を経て法人格が消滅している法人の名義のままとなっている土地や建物に関する問題を取り上げられています。相当に深刻な問題であり、長い時間がかかっても解決しなければ、結局その場所なり地域なりの荒廃は進むだけになってしまいます。
吉川さんの著書で、所有者不明土地法の不十分な点などが明確に指摘されている箇所があります。少し長くなりますが、引用させていただきます。
「解散法人が所有者となっている不動産については、そもそも所有者が消滅して存在しないのだから、当然のことながら相続人などいるはずもなく、国庫へ帰属させると決められる者も存在しない。破産であれば法人の所有財産は整理されるものだし、休眠会社になるとしても、売却益が望める物件であれば放置されるケースは少ないと思う。不動産を所有したまま法人格が消滅する事態を想定していなかったのかもしれないが、それにしてもこれでは、土地の購入や管理を希望する者が現れようにも、民間レベルでは管理や取引をおこなうすべがなくなってしまう。」(前掲書144頁)
すぐに「なるほど」と思いました。実際のところ、経営破綻を来した法人について破産手続が開始されても、費用不足による破産廃止→法人格消滅ということになり、その法人が所有していた土地や建物が他人に譲渡されることなく放置されるということが少なくないようです。吉川さんの著書や動画では主に千葉県北東部が取り上げられているのですが、程度の差はあれ、全都道府県において見られる現象でしょう。
バブル期であったと記憶していますが、NHKなどで日本の土地問題が取り上げられており、諸外国に比して日本は土地などに対する規制が緩く、乱開発が行われやすい旨が指摘されていました。バブル崩壊後の長期低迷の下、あまりにひどい爪痕が残されて地域に暗く重い影(陰)がのしかかっていることは、例えばリゾート法に絡めて1990年代以降によく論じられましたし、私も何箇所かをこの目で見たのですが、実はdéjà vuだったとも言えます。何故なら、限界ニュータウンの問題はバブル期よりも前、高度経済成長期、列島改造論に端を発するものであるからです。その頃に住宅地や別荘地という名目で乱開発が行われており、後に実質的な放棄が行われたりしていました。こうなると、バブル期のリゾート開発などは形を変えた繰り返しであるということがわかります。
「もしかしたら」と思うことがあります。所有者不明土地問題は、これまでの日本における土地政策の帰結であるにすぎないのではないか、と。
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