最初にお断りしておきますが、私は「ふるさと納税」に批判的な立場をとり続けています。月刊自治総研に、直ちに廃止すべきであるという趣旨を書いたほどです。
「ふるさと納税」ほど、地方自治法や地方税財政法の原則などを捻じ曲げる制度もないでしょう。返礼品云々をいうのであれば、地方公共団体自体が事業に取り組むなり助成をするなりして市場でのブランドを確立すべきでしょう。それをしないのは怠慢です。また、結局のところはただの(という表現では片付けられないかもしれない)高所得者優遇政策にすぎません。一昨年大阪高裁から出された泉佐野市の逆転敗訴判決は、或る意味で非常に正しい結論と言えます(細かい内容は脇に置いたとして)。
そのため、以下に取り上げる判決についても、あれこれ考えてしまうところがあるのですが、とりあえずということで、朝日新聞2025年1月22日付朝刊27面13版Sに掲載された「ふるさと納税の返礼品交付『町に義務』 横浜地裁川崎支部判決」を紹介しておきましょう。なお、朝日新聞社のサイトには2025年1月21日21時04分付で「ふるさと納税の返礼品交付『町に義務』 2840円支払い命じる判決」(https://www.asahi.com/articles/AST1P3Q9HT1PULOB01MM.html?iref=pc_preftop_kanagawa)として掲載されています(紙面とサイトでは文の一部が異なっています)。
判決文を手に入れた訳ではないので、上記の記事に従いますと、事案は次のとおりです。
2021年某月某日、川崎市に在住するX(原告)は、「ふるさと納税」のサイトを経由して宮崎県にあるY町(被告。都農町)に「ふるさと納税」として1万円の寄附をしました。Xは「数量限定【緊急支援品】宮崎牛赤身肉(切り落とし)計1・5キロ以上」を返礼品として選択したのです。しかし、Y町に寄附が殺到したということで、Y町から委託を受けた業者が返礼品を準備することができなくなったそうです。そこで、Y町は、Xなど寄附を行った者に対して「返金か、代替品として宮崎牛赤身肉(切り落とし)計500グラムかを選ぶよう書面で要請」しましたが、Xはその要請に応ずることなく、出訴したのでした。請求の内容は、3000円、つまり寄付額の3割相当額をY町がXに支払うことです。
ここでの争点は、おそらく、「ふるさと納税」によってXとY町との間に贈与契約が成立するか、というところです。
横浜地方裁判所川崎支部は、2025年1月21日、Y町に対し、Xに2840円の支払いを命ずる判決を下しました(この金額は返礼品の調達費用に相当するものです)。つまり、贈与契約が成立していたと判断したのです。
Y町は、返礼品の交付が寄附者との契約に基づく義務ではないこと、業者が返礼品を調達できなくなったのであればY町にその返礼品を交付する義務はない、というような主張をしていたそうですが、こうした主張は認められなかった訳です。判決は、Y町が寄附者に返礼品の送付の可否を連絡することなく送付を予定した上で情報を提供している、返礼品の交付義務は受託業者の事情で消滅することではない、というような理由によって贈与契約の成立を肯定したとのことです(記事の表現を一部改めていますが、趣旨は同じです)。
既に記したように、判決文を入手していませんし、判例集に掲載されるのは早くても数ヶ月後、裁判所のサイトで紹介されるのは早くても来月、そもそも判決が判例集なりサイトなりにおいて紹介されるかどうかはわかりません。現段階では記事に書かれているところから判断する限りですが、「ふるさと納税」のサイトなどを見るならば、返礼品の交付は寄附者との契約に基づく義務であると言えるでしょう。試しに世田谷区のサイトを見ると、まず「世田谷区外にお住まいの方は、返礼品を受け取ることができます」、「世田谷区にお住まいの方には、制度上返礼品をお送りすることができません。ご了承ください」と書かれています。ここから「世田谷区ふるさと納税特設サイト」へ飛ぶと、何処かの百貨店かギフトショップのサイトかと思われるような内容で、たとえるならばカタログギフトのようなものになっています。誰が見ても「寄附をすればこんなものがもらえるんだ」と思うでしょう。
判決のY町こと都農町の「都農町ふるさと納税/都農ページ」も見てみました。すると、「ふるさと納税返礼品について」として「返礼品受領後、すぐに内容のご確認をお願いいたします」、「ご確認後」に「1 申込時の返礼品と届いた返礼品が異なっている場合」、「2 返礼品が破損している場合」または「3 異物が混入している場合」には「速やかにお電話もしくはメールにてご連絡いただきますようお願い申し上げます」、「その際に、返礼品の状態が分かるお写真等を撮影していただけますと幸いです」と書かれています。都農町の場合は、寄附の受付や返礼品などについて、アマゾン、ANA、au PAY、さとふるなどのポータルサイトに委託しており、これはこれで「どうなんだ?」と思わされますが、それはともあれ、寄附金が町に入れば返礼品を送付する(寄附者が返礼品を不要とする意思表示をしない限り)という仕組みになっていることは明白です。
つまり、世田谷区であれ都農町であれ何処であれ、表現は悪いですが、明らかに、あれこれの返礼品を餌にして「うちに寄附してね」、「うちにお金をちょうだい」と言っているのです。これで返礼品の交付義務がないと言うのは、一体どういう屁理屈でしょうか。また、業者への委託はあくまでも返礼品の発送などの業務に関するものであって、契約の主体は地方公共団体です。
以上から、横浜地方裁判所川崎支部は妥当な判決を下したと言うことができます。
ただ、今回の判決は、「ふるさと納税」に潜む問題点の一つ(だけではないかもしれません)を浮き彫りにしたと言えます。今後、都農町が控訴するかどうかはわかりませんが、判決を離れて「ふるさと納税」そのものを再考すべき、できれば廃止すべきであると考えるのですが、現在の内閣にそれを望むのは無理筋でしょう。
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