ひろば 川崎高津公法研究室別室

川崎から、徒然なるままに。 行政法、租税法、財政法、政治、経済、鉄道などを論じ、ジャズ、クラシック、街歩きを愛する。

Miss Ann

2021年06月03日 08時00分00秒 | 音楽

 以前、このブログに、私が高校生になったばかりの1984年4月にエリック・ドルフィーの名を知り、秋葉原で"Last Date"をLPで買ったことを記しました。その時以来、このLPの最後に収録されている"Miss Ann"という曲を好んで聴いています。

 この曲が最初に録音されたのは1960年で、"Far Cry!"というアルバムのB面1曲目です。"Last Date"を買ってから1年経過した頃であったか、六本木WAVEでアメリカ盤(LP)を見つけて買いました(日本盤より安かったからです)。トランペットがブッカー・リトル、ピアノがジャッキー・バイヤード、ベースがロン・カーター、ドラムがロイ・ヘインズです。ドルフィーはこの曲を何度となく演奏していたためか、録音、録画も多く残っており、ヨーロッパでの演奏はドイツのエンヤ(Enja)などから発表されましたし、YouTubeでも見ることができます。

 それでも、最初に聴いたからなのかどうか、私は"Last Date"での演奏を好んでいます。オランダのヒルベルサムで録音されたこのアルバムのメンバーは、ドルフィー、ミシャ・メンゲルベルク(ピアノ。有名な指揮者であるウィレム・メンゲルベルクの親族)、ジャック・ショールズ(ベース)、ハン・ベニンク(ドラム)です。"Last Date"といえばYou Don't Know What Love Isでの名演(ドルフィーはフルートを吹いています)が有名ですが、そればかりでなく、どの曲も名演という表現に値するでしょう。私は、あのセロニアス・モンクの"Epistrophy"を最初に聴いたのがドルフィーの、まさに"Last Date"であったためか、この演奏こそ"Epistrophy"の最高傑作ではないかと思っていたほどです。この曲でのメンゲルベルクのピアノによるソロはなかなかのもので、後にベニンクらとともにICP(Instant Composers Pool)の設立者になったことも納得がいきます。

 同じことが"Miss Ann"にも言えます。私も色々なヴァージョンを聴いてきましたが、"Last Date"での演奏を除くと、ドルフィーがせっかく新しいアプローチを提示しても、他の奏者がハード・バップの枠内に留まっていたりしており、ドルフィーが吹き出すアドリブだけが浮いて聞こえるのです。しかし、おそらくはメンゲルベルクのためでしょう、"Last Date"での"Miss Ann"ではドルフィーも自らの枠を超えてさらに進むかのような、コルトレーンもインタヴューで「ドルフィーはもっと先へ行く」と答えたことが形として現れたような演奏になっていますし、この曲でのメンゲルベルクの演奏もハード・バップの枠から逸脱したようなものとなっており、このメンバーによるレギュラー・グループ(生前のドルフィーはメンゲルベルクかベニンクに手紙でアイディアを送っていたそうです)が実現しなかったことが惜しまれるほどのものとなっています。さらに、ICP 015における"Epistrophy"を聴けば、ドルフィーによる音楽表現の可能性の拡大がうかがえるところです。極端に悪い音質と反比例するかのような演奏は、もし生で聴いたらどのようなショックを受けただろうかと思わせます。ICP 015を六本木WAVEの4階で見つけた時には、心の中で狂喜し、すぐに手に取り、購入しました。

 もし、"Last Date"、とくに"Miss Ann"を聴かなかったら、ICPやFMP(Free Music Production)のアルバムを買って聴くようなこともなかったでしょう。ジャズを聴き続けることもなかったかもしれません。


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