アエラのサイトに「子どもの『手書き離れ』で学力低下の恐れ 筆圧も低下傾向で『書いてあることが判別できない』」という記事が掲載されています(https://dot.asahi.com/aera/2021060200012.html?page=1)。昨日(2021年6月3日)の8時付で、元はアエラの2021年6月7日号に掲載された記事のようです。都合上、以下においてはアエラ記事としておきます。
読んでいて、あれこれと思い当たることがあります。
もう6年前のことですが、このブログに「小さい字、薄い字では、必ず損をする!」という記事を載せました。その頃、いや、それよりも前から、期末試験や小テストの答案の中に、字が小さい、あるいは薄い、あるいはその両方というものが少なくないのです。逆に濃すぎて他の答案まで汚しかねないというものもあるのですが、少ないほうです。
小さい字もそうですが、薄い字では採点しづらくて仕方がありません。前掲記事でも書きましたが、薄い字ですと蛍光灯などの光が反射してしまい、加減によっては紙と同化してしまい、字の形がわからなくなります。そこで、私は次のように続けたのでした。
「①基本的にはシャープペンシルを避けるのが無難ですが、そうも言っていられないでしょう。私が実際に使っておすすめするのは、1.3ミリまたは2.0ミリのシャープペンシルです。本体も替え芯も少々高いのですが、これらのHB以上の濃さの芯であれば、大きく濃い字を書くことができるでしょう。0.3ミリとか0.5ミリの芯よりも、楽に書けます。私は高校時代に溝口の文具店で2.0ミリの芯のシャープペンシル(補助軸とも言います)を見つけて以来、溝口、二子玉川、六本木などで何本も買い、使ってきました。鉛筆のような使い心地なので、書きやすいのです。」
「②筆圧が弱い人は、HBをやめ、Bか2Bの芯を選んでください。これらより濃いほうが本当は良いのですが、あまり濃いと消しゴムを使いにくくなりますし、紙も汚れます。」
「③社会人ともなれば、鉛筆やシャープペンシルは、特殊な仕事でもなければ全くの私用でしか使うことがありません。ボールペンか万年筆を使うことになります。早いうちから使いましょう。」
繰り返しますが、以上は6年前にも書いたことです。まさか、ここでまた書くことにあるとは考えてもいませんでした。このブログを読んでおられた方もいらっしゃるのでしょうか。
少しばかり、私の想像を超えていたということかもしれません。
アエラのサイトでは、アエラ記事のイントロダクションとして「小学校で鉛筆の濃さの指定をHBから2Bに上げる動きが広がる。一方、デジタルツールの導入で、手書き離れがますます進む可能性もある」と記されています。1970年代の中頃、私が小学生1年生であった時には2Bが指定されていたような記憶がありました。また、その頃からドイツのステッドラー(Staetdler)が製造しているノリス、マルスを知っていて、黒と黄色の縞模様であるノリス(まるで一昔前の阪神タイガースですね)をよく使っており(実はもらい物なのですが)、ノリスのHBのほうが日本のUNIやトンボ鉛筆などのHBより濃かったような記憶もあります。成長して補助軸を使うようになってからも、同じFやHBでも日本製の芯とドイツ製の芯とでは濃さが違うと感じていました。
そう言えば、最近、いや、この10年ほどの間に、Fという芯を見なくなりました。補助軸で愛用していたのですが、使う人が少ないからでしょうか。
それはともあれ、HBから2Bにあげるというのは、全般的に字が薄くなる傾向が強いということなのでしょう。私が大学生の字を見て感じていたということは、最近の話ではなく、もう10年以上も前からそのような傾向であったということでもあります。
小学生のお子さんがいる家庭は大変でしょう。アエラ記事にも書かれていますが、2B、3B、4B(私も小学生時代に使っていました)の鉛筆で漢字の練習などをすれば、手の側面は黒くなります。油断しているとノートを汚しますし、テーブルや椅子まで汚します。また、絵を描いたりするなら濃い芯のほうがよいでしょうが、コンパスを使ったりする場合には少し薄めのほうがよいという気もします(あまり硬い芯ですと消しゴムで消しにくいという難点はありますが)。
どうして2Bなのかということですが、東京学芸大学付属小金井小学校の副校長さんによると、書かれている字が判別できない、テストの答案が読めないということからだそうです。手の力が弱いのか、というようなこともコメントされていました。
さらに読むと、確かに深刻です。例えば、正しいものを選んで○を付けるという問題を出したとすると、その答えがわかりにくいというのです。鉛筆で○が付けられても薄すぎるのでわかりにくい、消しゴムで消した跡と鉛筆で書かれた○との区別が付かない。まるで私が6年前に書いたことと同じです。そこで、この小学校の入試では、学校が試験のために用意する鉛筆を2Bにしたそうです。筆圧が低下しているから、ということでしょうか。
また、副校長さんは手の力の低下を指摘されています。その例が鉄棒です。鉛筆との関連性があるのかどうかは疑問もあるところですが、この点は脇に置いておきましょう。ただ、生活スタイルという面において無関係とも言えないということだけを記しておきます。
最近では小学校などでもデジタル化の波が押し寄せています。日本は周回遅れなのかもしれませんが、ノート型やタブレット型のPCが導入されるようになり、宿題もこうしたPCで仕上げたりするため、鉛筆を持つ機会が減っているらしいのです。鉛筆と消しゴムという常識的セットも過去のものになりつつあるということでしょうか。
しかし、デジタル化も行きすぎると学力低下につながりかねないという研究もあります。確かに、PCやスマートフォンに頼りすぎると、いざという時に漢字を思い出せなかったり書けなかったりということがあります。以前、ネットの記事やコメントで「意外」と「以外」の混同が見られることを指摘しましたが、これも鉛筆やボールペンなどで書くという習慣がなくなりつつあることの象徴かもしれません。あるいは、単に字を知らないだけ、辞書を読む習慣がないだけなのかもしれませんが、いずれにせよ意味がわかっていないということにはなるでしょうか。
アエラ記事には東京大学の酒井邦嘉教授のコメントも掲載されています。なるほどと思ったのは「ノートを取るとき、脳はただ文字を書き出しているのではなく、複数の情報を同時に脳に記憶させています」という部分です。これに続いて、記事では「教師が書いた板書に疑問を持って“意味?”などとメモを残すと、脳にはノートのどの辺にこの書き込みをしたかという空間的な情報も一緒に記憶される。思い出す時にはこうした位置も取り出したい情報の手がかりとなるため、想起しやすくなるという」、そして酒井教授の「教科書の場合、線を引いたり、メモすることもありますが、紙媒体に書いた方がスマホやタブレットに記録するよりも記憶に残りやすいという実験結果もあります。脳の働きで見れば、紙の教科書の方がはるかにハイテクと言えると思います」という部分です。最後に引用した文については私も思い当たることがあります。紙の書籍などであれば線を引いたりすることは簡単にできますから、読み返すと「ここは重要だな」などと思い返すことができるのですが、電子書籍などではそうもいきません。また、これは私の経験でしかないのですが、電子書籍よりも紙の書籍のほうがじっくり読めるという気がします。電子書籍が優れているのは保存のスペースなどをとらないということくらいかもしれません。
ヨーロッパでは、完全にデジタル教材へ移行するということが行われていないようです。アエラ記事ではノルウェーとドイツの例があげられていましたが、すぐにピンときたのはドイツの例です。東京でも、例えばスミス、ノイエといった文房具店(どちらも二子玉川ライズにありますが、スミスは渋谷やたまプラーザなどにもあります)や東急ハンズに行くと、子ども向けの万年筆が売られています。ドイツのペリカン、ラミーといったところです。私も購入したことがあります。とくに赤インクの場合、すぐに書けなくなるボールペンなどより断然便利なので、採点などの際に重宝するのです(あとは赤鉛筆です)。そう、ドイツでは小学校で万年筆を使っているのです。
ちなみに、長崎大学では教職課程の学生にドイツ製の鉛筆を薦めているというようなことも、アエラ記事に書かれていました。ステッドラーなのかファーバー・カステルなのか、詳しいことは書かれていませんが、東京でも売られているかもしれません。
ハイテクといわれるものをよく見ると、本当にそうなのかと疑いたくなるものもあります。案外、アナログのほうがデジタルより高度なのかもしれません。デジタル化は資料の保存などの面において大きな進歩と言えますが、アナログを完全に切り捨てることはできないと考えておくべきでしょう。いざメモをという時には紙と筆記用具のほうがはるかに早い(速い)ですし、字であれ楽器であれ、やはり体を使って覚えるほうが確実に身につくということです。鉛筆はその代表のようなもので、字の濃さ、大きさなどを自在に調整できるようになるためにも、字を覚えたりするためにも、子どもの頃から使うのが最善ということでしょう。
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そう言えば、私が高校生であった頃、入試などでシャープペンシルはなるべく使わないようにと指導されたことを思い出しました。しっかりと聞いて実践していた生徒は少なかったはずですが、やはり字が薄くなるからでしょう。薄いと読めないということで採点してくれないかもしれませんし、マークシートですと読み取れないということもあるようです。鉛筆のHBよりもシャープペンシルのHBのほうが薄く見えるという気がします。
もっとも、私はそう指導されなくともシャープペンシルをあまり使わなかったと記憶しています。日本で一般的に売られている0.5mmの芯は少し硬めですし、すぐに折れます。私には書きにくいのです。それに、時々0.5mm用のシャープペンシルを買ったりしますが、壊れやすいこともあげておきます。
たまたま、溝口の、今はない三田文具店で見つけて以来、高校生時代から現在に至るまで使い続けている補助軸、わかりにくければ2.0mmの芯のシャープペンシルと言い換えたほうがよいかもしれませんが、このほうが鉛筆に近く、私にとっては書き易いのです。しかも、補助軸は製図用品であり、高価であるだけに壊れにくく、長持ちしますから(私は同じ補助軸を10年以上、どうかすれば20年以上は使っています。そのような補助軸がうちには何本かあります)、結局は得です。また、0.5mmのシャープペンシルと比べれば、芯も折れにくいのです。鉛筆の芯と同じくらいの太さであり、時々芯を削らなければならない(専用の芯削り器もあります)、芯そのものが少々高価であり、販売されている店も限られる、という難点はあります。しかし、一旦手に入れて使用してみたら、手放せなくなります。私は、黒の他に赤、青の芯も購入し、うちで使用しています。
また、1.3mmのシャープペンシルを使うこともあります。二子玉川ライズにあったハンズワークでたまたま見つけ、購入して使ってみたら書き易かったので、現在も使用しています。ただ、2.0mm以上に手に入りにくいという難点もあります。
仕事ではMacBook Proなどを使って原稿を書いたり教材を作ったりしていますが、アイディアなどはメモ、ノートに書き付けておくので、補助軸、ボールペン、万年筆、サインペンなどは手放せません。
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