ひろば 川崎高津公法研究室別室

川崎から、徒然なるままに。 行政法、租税法、財政法、政治、経済、鉄道などを論じ、ジャズ、クラシック、街歩きを愛する。

審議未了に終わってしまいましたが(2−2)

2018年12月28日 00時00分00秒 | 国際・政治

 今回は、2018年12月26日00時05分25秒付の「審議未了に終わってしまいましたが(2−1)」の続きです。「違法な国庫金の支出等に関する監査及び訴訟に関する法律案」(第197回国会参議院議員提出法律案第61号。以下、「法律案」)の第3章「違法な国庫金の支出等に関する訴訟」を取り上げましょう。

 章の題目からして、地方自治法第242条の2に定められる住民訴訟の国家版であることがわかります。「法律案」の第10条は「訴えの提起」という見出しの下に、次のように定めています。

 第1項:「監査請求人は、第八条第一項の規定による会計検査院の監査の結果若しくは勧告若しくは同条第五項の規定による各省各庁の長若しくは職員の措置に不服があるとき、又は会計検査院が同条第一項の規定による監査若しくは勧告を同条第二項の期間内に行わないとき、若しくは各省各庁の長若しくは職員が同条第五項の規定による措置を講じないときは、裁判所に対し、第三条の請求に係る違法な行為又は怠る事実につき、訴えをもって次に掲げる請求をすることができる。

 一 当該行為の全部又は一部の差止めの請求

 二 行政処分たる当該行為の取消し又は無効確認の請求

 三 当該怠る事実の違法確認の請求

 四 当該行為若しくは怠る事実に係る各省各庁の長若しくは職員又はその相手方に損害賠償又は不当利得返還の請求をすることを求める請求

 第2項:「前項の規定は、前条第一項に規定する会計検査院の検定の結果若しくは当該検定に係る弁償の命令に不服があるとき、又は会計検査院が同項に規定する検定を同条第二項において準用する第八条第二項の期間内に行わないとき、若しくは弁償命令権者が前条第四項の規定に基づく弁償を命じないときについて、準用する。この場合において、前項中「次に掲げる請求」とあるのは「第二号から第四号までに掲げる請求」と、同項第二号中「行政処分たる当該行為」とあるのは「当該検定又は弁償の命令」と、同項第三号中「当該怠る事実」とあるのは「当該検定又は弁償の命令を行わないこと」と、同項第四号中「各省各庁の長若しくは職員又はその相手方に損害賠償又は不当利得返還の請求」とあるのは「職員に弁償の命令」と読み替えるものとする。

 参考のために、地方自治法第242条の2第1項を示しておきます。 

 「普通地方公共団体の住民は、前条第一項の規定による請求をした場合において、同条第四項の規定による監査委員の監査の結果若しくは勧告若しくは同条第九項の規定による普通地方公共団体の議会、長その他の執行機関若しくは職員の措置に不服があるとき、又は監査委員が同条第四項の規定による監査若しくは勧告を同条第五項の期間内に行わないとき、若しくは議会、長その他の執行機関若しくは職員が同条第九項の規定による措置を講じないときは、裁判所に対し、同条第一項の請求に係る違法な行為又は怠る事実につき、訴えをもつて次に掲げる請求をすることができる。

 一 当該執行機関又は職員に対する当該行為の全部又は一部の差止めの請求

 二 行政処分たる当該行為の取消し又は無効確認の請求

 三 当該執行機関又は職員に対する当該怠る事実の違法確認の請求

 四 当該職員又は当該行為若しくは怠る事実に係る相手方に損害賠償又は不当利得返還の請求をすることを当該普通地方公共団体の執行機関又は職員に対して求める請求。ただし、当該職員又は当該行為若しくは怠る事実に係る相手方が第二百四十三条の二第三項の規定による賠償の命令の対象となる者である場合にあつては、当該賠償の命令をすることを求める請求」

 「法律案」第11条は被告適格、同第12条は訴訟の管轄について行政事件訴訟法を準用する旨の規定です。

 住民訴訟に出訴期間があるように、「法律案」第10条の訴訟にも出訴期間があります。これも地方自治法第242条の2第2項および第3項と同じようなものとなっています。「法律案」第13条を御覧ください。

  第1項「第十条の規定による訴訟は、次に掲げる期間内に提起しなければならない。

 一 会計検査院の監査の結果若しくは勧告又は検定若しくは再検定の結果に不服がある場合は、当該監査の結果若しくは当該勧告の内容又は当該検定若しくは再検定の結果の通知があった日から三十日以内

 二 会計検査院の勧告を受けた各省各庁の長若しくは職員の措置又は弁償命令権者による弁償の命令に不服がある場合は、当該措置又は弁償の命令に係る会計検査院の通知があった日から三十日以内

 三 会計検査院が第三条の規定による請求をした日から六十日を経過しても監査若しくは勧告を行わない場合又は検定若しくは再検定を行わない場合は、当該六十日を経過した日から三十日以内

 四 会計検査院の勧告を受けた各省各庁の長若しくは職員が措置を講じない場合又は会計検査院が弁償責任があると検定若しくは再検定を行ったにもかかわらず弁償命令権者が弁償を命じない場合は、それぞれ当該勧告に示された期間又は当該検定若しくは再検定の結果の通知があった日から十五日を経過した日から三十日以内

 第2項:「前項の期間は、不変期間とする。

 続いて「法律案」第14条です。「別訴の禁止」として「第十条の規定による訴訟が係属しているときは、他の監査請求人は、別訴をもって同一の請求をすることができない」と定めています。これも地方自治法第242条の2第4項とほぼ同じ趣旨です。

 次に「差止めの制限」を定める「法律案」第15条です。規定ぶりは地方自治法第242条の2第6項と同じです。

 「第十条第一項第一号の請求に基づく差止めは、当該行為を差し止めることによって人の生命又は身体に対する重大な危害の発生の防止その他公共の福祉を著しく阻害するおそれがあるときは、することができない。

 「訴訟告知」を定める「法律案」第16条第1項は地方自治法第242条の2第7項が、「法律案」第16条第2項は地方自治法第242条の2第8項が、「法律案」第16条第3項は地方自治法第242条の2第9項が基になっています。また、「法律案」第17条が「仮処分の排除」を定める点も地方自治法第242条の2第10項と同様です。

 さて、監査請求人が訴訟を提起し、その結果として損害賠償請求または不当利得返還請求を認容する旨の判決が出たとします。控訴がなされなければ、判決は確定します。その効果はどのようになるのでしょうか。「法律案」第19条は「損害賠償の請求等」の下に、次のように定めています。

 第1項:「第十条第一項第四号の請求に係る同項の規定による訴訟について、損害賠償又は不当利得返還の請求を命ずる判決が確定した場合においては、各省各庁の長は、当該判決が確定した日から六十日以内の日を期限として、当該請求に係る損害賠償金又は不当利得による返還金の支払を請求しなければならない。

 第2項:「前項の規定により損害賠償金又は不当利得による返還金の支払を請求した場合において、当該判決が確定した日から六十日以内に当該請求に係る損害賠償金又は不当利得による返還金が支払われないときは、国は、当該損害賠償又は不当利得返還の請求を目的とする訴訟を提起しなければならない。

 御覧になっておわかりの方もおられるでしょう。基本的な構造は地方自治法第242条の3と同じです(見出しは「訴訟の提起」となっていますが)。念のために示しておきます。

 第1項:「前条第一項第四号本文の規定による訴訟について、損害賠償又は不当利得返還の請求を命ずる判決が確定した場合においては、普通地方公共団体の長は、当該判決が確定した日から六十日以内の日を期限として、当該請求に係る損害賠償金又は不当利得の返還金の支払を請求しなければならない。」

 第2項:「前項に規定する場合において、当該判決が確定した日から六十日以内に当該請求に係る損害賠償金又は不当利得による返還金が支払われないときは、当該普通地方公共団体は、当該損害賠償又は不当利得返還の請求を目的とする訴訟を提起しなければならない。」

 そして、「法律案」の本則の最後が、「弁償の命令等」を定める第20条です。次のような規定となっています。

 第1項:「第十条第二項の規定により準用する同条第一項第四号の請求に係る同項の規定による訴訟について、弁償の命令を命ずる判決が確定した場合においては、弁償命令権者は、当該判決が確定した日から六十日以内の日を期限として、当該請求に係る弁償を命じなければならない。

 第2項:「前項の規定により弁償を命じた場合において、当該判決が確定した日から六十日以内に当該弁償の命令に係る弁償金が支払われないときは、国は、当該弁償の請求を目的とする訴訟を提起しなければならない。

 第3項:「第一項の規定によりなされた弁償の命令について取消訴訟が提起されているときは、裁判所は、当該取消訴訟の判決が確定するまで、当該弁償の命令に係る前項の規定による訴訟の訴訟手続を中止しなければならない。

 第4項:「第一項の規定によりなされた弁償の命令については、審査請求をすることができない。

 いかがでしょうか。細かい検討は脇に置くとしても、議論するには十分な法律案であると言えないでしょうか。国会で真剣な討論が望まれるところなのですが、少なくとも現在の国会情勢では無理なのでしょうか。 


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