エルソル飛脚ブログ ~Run 4 Fun~

四万十川周辺をチョロチョロしている飛脚の記録です。

エルソル大阪物語=あとがき=

2018年02月03日 | エルソル大阪物語

== あとがき ==

最後までお付き合いくださったみなさん、お疲れ様でした!

読みづらく、分かりづらかったことでしょう。
誤字・脱字、色々な間違い、そして失礼の数々をお許しください。

この冬に10年ぶりの高校の同窓会がありました。
ついに50歳を迎えた私達、
それぞれの子供達は都会に進学したり、新社会人としてデビューしたりと、
慣れない環境に四苦八苦しているようです。

随分歳を取った私の趣味の一つが山歩きです。
先日、足元を黄金色に光輝く「苔」に目を奪われました。
「モスグリーン」という言葉があるように「苔」も美しく光輝いていました。

その「苔」を持ち帰り「苔玉」を作ってみました。
水分を多めに与えたり、朝の陽射しにさらしたり、出来るだけ採取した環境に近づけてみました。
しかし「苔」は輝きを失い、日に日に弱っていくようです。

「苔」といえども、その場所の水、湿度、陽の当たり具合、土との相性、
私の知らない「数多くの」条件が重なり合い、それではじめて光り輝いているようです。

私達人間も一人で生き抜くことは非常に困難です。
まして新しい環境で闘う子供達は、おそらく苦悩の毎日を過ごしているでしょう。

今回、この物語はそんな新人達への親世代からのエールでもあります。
出来るだけ多くの人に出会い、悩みを共有し、
出来るだけ多くの人に関わり、助け、または助けてもらう。

「多くの出会い」「多くの関わり」は多くの苦悩を乗り越え、
やがては人を成長させ、そしてやっと光り輝くことになるのでしょう。


このお話は、
今から約20年前、ヘアテック時代のスタッフ四藤君(本名佐藤君)が
その後ヘアテックを辞めて「大衆理容」で働くことになり、
「長文の励ましメール」を書いたことがはじまりです。

そして今から10年前、
高校同窓会があり、会員制SNSが誕生し、
どこか懐かしいこの昔話を、同じ時代を共に生きてきた同級生達に対し、
物語形式で披露することを思いつきました。

物語は「青かった昔」を振り返った『第1部』、
『第2部・店長編』では少しは立派になったものの、やはり修行・苦悩が見え隠れ、

結局は「第1部・第2部」全体で、

【一人の「理容師」が出来るまで】を描いたカタチとなりました。

舞台は人情の街「大阪」。
田舎から出てきた青年。
そこに感情の起伏の激しい大阪人が絡むと、 物語は勝手にドラマチックになります。
ほぼ「ノンフィクション」で登場人物はすべて実在しています。

自分自身、昔を振り返るいいきっかけになりました。
今思うと「こんな風には考えない!」と思いますが、
当時の自分の考え方、気持ちを大切にし、 出来るだけ忠実に描きました。

当時の手帳・システム手帳に書かれた予定表、写真などを睨みながら、
ノスタルジックな世界に惹きこまれて、うまくタイムスリップ出来たように思います。

「アナログな時代」には「味」がありました。
若い頃、遠方の同級生達によく「手紙」を書きました。
出した手紙の返事を期待してポストをよく覗きました。
頂いた手紙の筆跡から相手の表情が浮かびました。
黒電話では相手の親が出てきた時に備え、挨拶文句を考えたりました。
待ち合わせ場所ではとても我慢強く待てました。

多くの隣人に関わりました。
それぞれに事情がありましたが、みんなちゃんと受け止めていました。

「喜怒哀楽」が激しく、大げさに「一喜一憂」しました。

現在の「乾いた時代」に読み返すと、 「湿気」がもつ「温かさ」が心地よく感じます。

私と同じ世代からすると「何処か懐かしい物語」、
その子世代には「多くの人に関わり、前を向いて頑張れば何とかなるもの」というエールです。

「立ち止まった後は、そこで待つのではなく一歩だけ前に進んでみればいい」

何はともあれ、

長い長~い物語にお付き合い頂き、ありがとうございました!

また、これからもみなさん!、もう少しの間お互いに頑張りましょう!!!


 == あとがき (完) ==

「Pellicule」by 不可思議/wonderboy

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エルソル大阪物語■最終話■「さよなら大阪」

2018年02月03日 | エルソル大阪物語

■最終話■


【後日】

ヘアテック・コラージュ連合『コラテック』が「お別れ会」を開いてくれました。

これが最後の飲み会になりました。

「大阪らしいところがいい」という僕の希望から、
道頓堀のビル7階の居酒屋で、小部屋の座敷でした。

「ヘアテック」の、
藤、四藤君、中田君、そして辞めた坂田君、

「コラージュ」の、
吉福店長、衣川さん、山上さん、村木さん、磯野君、
今田さん、井垣君、前本君、上山田君、狩野さん、独立したサンタさん、

多くの同僚が集まってくれました。

これほど集合したのは初めてで、みんないつもより気分が高揚した感じでした。

「まだ乾杯やってませんよねぇ~」

少し遅れて、「ヨシコ」が現れました。
主婦になった「ヨシコ」は、お腹の大きな妊婦でした。

藤「よし!全員揃ったな!ほんなら始めよか!?」

大きな食器皿が出てきて、ビールがなみなみと注がれました。

四藤・磯野「まずはコレ全部いってもらいましょう!!」

少し時間をかけ、一気に飲み干しました。

「ウォーーッ」(歓声)

挨拶、
「みんな、ありがとう!」
「ヘアテックは自分にとって大阪の集大成でした」
「それをこんなに祝福されながら終わることが出来て・・・・・・、」
「アカン、泣けてきた・・(ウソ泣き)」
「ホンマに幸せでした!ありがとう!!」

「乾杯」が終わり、次から次へとみんながお酒を注ぎにやって来ました。

「藤、次期店長任せたで!頑張ってや!ありがとう」

「ヨシコ、OPEN時の大変な時によう頑張ってくれたな!ありがとう」

「四藤君、真面目やから絶対に成功するワ、藤店長を頼むで!ありがとう」

「坂田君、もうお店辞めんように頑張らなあかんで!ありがとう」

「中田君、短い期間やったけど、ありがとう」

「コラージュ」のみんなにもそれぞれに「思い」を語りました。

~ワイワイガヤガヤ、~

いつもの雑談になりました。

みんなお酒が入り、笑い声が部屋中に響きます。

中田君が「ガシャン」とビール瓶を倒しました。

「あ~あ~あ~あ~!」みんなが大声で合唱します。

ヨシコが自分のバックに被害がないか心配しています。

藤が嬉しそうに鋭く突っ込みます。

坂田君がその突っ込みに手を叩いて笑います。

四藤君が咥えタバコで辺りを拭いています。

コラージュのみんながヘアテックを冷やかします。

赤い顔して、・・みんな楽しそうです。

「ふうーっ」、一つため息をついた僕は、

若いスタッフ達をぼんやりと遠巻きに眺めていました。

「えらい無邪気に笑ってんなぁ・・」

「自分もあんなに若かったんやなぁ・・」

すると突然、周りの雑音が聞こえなくなりました。

若いスタッフ達の姿に重なり、

昔の「若い自分」がボ~ッと浮かびあがりました。

「若い自分」はそこに膝を抱えて座っていました・・・

「ヨレヨレのシャツを着て・・」

「汚れたズボンを履いて・・」

「ガリガリに痩せていて・・」

「右も左も分からなくて・・」

「オドオドして・・」

「愛想笑いばかりして・・」

「痩せ我慢ばかりして・・」

「辛いくせに・・」

「逃げ出したいくせに・・」

「助けてほしいくせに・・」

「その場をしのぐことばかり考え・・」

「夜になると心がガクガクと震え・・」

「寝たら明日が来てしまうと思い・・」

「夜が明けることを不安に思い・・」

「未来に希望なんか見えず・・」

「いつも一人ぼっちだと思い・・」

「甘えさしてくれるところを探しまわり・・」

「自分の事だけ考えて・・」

「自分の事しか考えなくて・・」

「人に迷惑ばかりかけて・・」

「いっぱいいっぱい迷惑かけて・・」

そんな「青い自分」がそこに膝を抱えて座っていました・・。


『・・・これでもう終わりなんやな・・』


そう思った瞬間、涙がポロッとこぼれ落ちました。

自分でも驚きました。

大阪で初めて泣いてしまいました。

一度堰を切った涙は止まらずに嗚咽に変わりました。

みんなの談笑がピタリと止まり、一斉に視線が注がれました。

僕はもう、かすれた声を絞り出すのが精一杯でした・・

上田「みんな・・・もうお別れやな・・・元気でな・・」

  「頑張らなあかんで・・」

  「ごめん・・・」

少しの間上を向き、おしぼりを目にあてがいました。

僕はこの時初めて「大阪」との別れを実感していました。

ヨシコ「店長、これ・・・」

ヨシコが「大きな花束」を持ってきました。

ヨシコ「店長、ありがとうございました、高知でも頑張ってください」

溢れる涙をそのままにして受け取りました。

四藤君「店長、コレも・・」

四藤君に渡された袋を開けると「ルーレットのパンツ」が出てきました。

「いるか!こんなもん!お前まだ持ってたんか!」(ポイッ)

楽しいひと時はいつまでも続かず、いつしかお開きになりました・・。

下りのエレベーターからは大阪のネオン街を見下ろしました。

お店の名前を決めました。

『エルソル』

ラテン語で太陽です。
いつまでも輝きます。また、お客様を輝かせます。


【ヘアテック出勤最終日】、

予告してあったんで、たくさんの常連さんで賑わいました。

「ついに故郷に錦を飾るかぁ、頑張ってな!」

最後のお客さんを終え、大阪での仕事は幕を閉じました。

「記念写真」を撮ろう!

コラージュのみんながレッスンを中止し、なだれ込んで来ました。

上田「もう今日は泣かへんぞー!」

寂しい気持ちも無く、前を向いていました。

写真撮影が終わるとお店の外に連れ出されました。

人生2度目の「胴上げ」です。

宙に舞いながら清々しい気持ちでいっぱいでした。


コラージュのみんなはワイワイとレッスンに戻っていきました。

「お疲れ様でした!それではお元気で」

ヘアテックのみんなも帰りました。

僕は最後のカルテ整理を終え、

いつも通りにヘアテックを後にしました。

難波の夜はいつもと同じく、温かい湿気がまとわりつきました。


僕は「ホテル南海」の前で立ち止まり、

ゆっくりと上を見上げました・・・


==== 完 ==== H10・5・31
■最終話■

エルソル大阪物語


大皿イッキ


全員集合

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エルソル大阪物語■68■「関美バンザイ」

2018年02月02日 | エルソル大阪物語

■68■


【5月の終わり】

『学校職員組』が日本橋の居酒屋で「お別れ会」を開いてくれました。
長島先生、古尾先生、武ちゃん、水落君。

長島先生「とりあえず乾杯するか・・、じゃあ乾杯~」

  上田「古尾先生はやっぱりお酒はダメなんですか?」

古尾先生「カンベンして上田、・・飲んだら倒れるワ(笑)」

  上田「いや~皆さんには随分とお世話になりました。」
    「もう何の言葉もありませんワ」
    「ありがとうございました」

長島先生「寂しなんなぁ~」

  上田「ホンマ、何かごっつい寂しいですワ・・」

長島先生「これからこんな魚よりもっとええ魚毎日食えるんやろうな~」
刺身に手を伸ばした長島先生が続けました・・

長島先生「お前覚えてるか?」
    「関美の生徒の頃、入学式の次の日やったかな・・」
    「みんなに『明日学校に雑巾2枚持ってきて』って言うてな」
    「後から『しまった』って思うとってん・・」
    「お前田舎から出てきて一人暮らしやったからな」  
    「雑巾なんか無いやろな~って心配しとってんや・・」
    「そしたら次の日、お前ちゃんと2枚持ってきたやろ?」
    「よう見たら手縫いやったワ」
    「綺麗な粗品タオルをヘタクソに縫ってあったワ・・」
    「その話をしてからウチの嫁はずっとお前のファンやで、ハハハ」
    「夜中まで縫ったんやろな~って」

  上田「覚えてますワ」
    「電話もなかった頃で相談相手も居なかったし」
    「もう『知るか』思うて適当に縫いましたワ」
    「小学校の家庭科が活きましたワ」
    「しかし、ようそんな昔の些細な事を覚えてましたね~」

サラダばかり食べている古尾先生が続きます・・

古尾先生「ボクもお前の昔の事覚えてんで~」
    「お前、生徒の時、東のシェービングモデルに手を挙げたやろ~?」
    「東がお母さんに言ったらしくてな、」
    「学校までお礼の電話がかかってきたで」
    「『友達も出来ないウチの子に・・ありがとうございます』って」
    「電話の向こうで泣いてたワ」
    「よほど嬉しかったんやろな~」

  上田「そうやったんですか・・」  
    「ヤツが持ったカミソリに横になって目をつぶるなんて・・」  
    「今やったら絶対嫌ですワ!!コワイもん!」

長島・古尾「ハハハハハ」 

古尾先生「関美生徒から関美助教師、」
    「助教師から修行に戻って、ちゃんとお店を出すってスゴイことやで」
    「関美理容部の誇りやで!」

古尾先生が大袈裟に言い放ち、上手な笑顔をつくりました。 

  上田「そうそう古尾先生、やっぱ『関美』ですよね~!」
    「なんで『グラムール』なんかにしたんやろ?」
    「いろいろありましたけど、『関美バンザイ』ですワ!」

ビールが進みはじめ、すぐにほろ酔いになりました。

長島先生「お前らのクラスはホンマいろいろあったな~」
    「歴代1、2番を争う大変なクラスやったワ」

  水落「ボクもあのクラス、入った瞬間に『ヤバい』思うたもん(笑)」

酒が弱い水落君が頑張って酎ハイを飲んでいます。
    
  上田「あのクラス、水落君が居ってくれて助かったワ」
    「『普通の人』が居れへんかったもん・・」

古尾先生「確かに普通じゃなかったな~(笑)」
    「そういや、お前東京に就職に行ったな」
    「なんでダメやったん?」
  
  上田「完全に背伸びしすぎましたワ」 
    「足元も見えてへんし、進む方向さえ分からんでした・・」

長島先生「若いうちは『背伸び』はせんといかん」
    「背伸びしとかんと本当に伸びんもんや・・」
    「お前にとってはええ背伸びやったんちゃうか?」

  上田「そうですね、あれで地に足が着いた感じがします」

長島先生「それからまた偶然に藤本先生が病気になってな~」
    「上田先生誕生や」

武ちゃん「いや~、うれしかったで~!」
    「同じ南海電車って聞いたときから『やったー!』思うたな~」
    「やっと竹中先生から逃れれるって(笑)」

長島先生「ユミか?」
    「そういや~今日呼ぶの忘れたな・・呼ぶか?」

上田・武ちゃん「アカン、アカン、アカン!」 
      
  全員「ワハハハハハ」

古尾先生「それから水落に先生交代か~」

  水落「僕にとっては『渡りに船』でしたワ、ホンマ」
    「けど、そっからの上田君えらかったな~」
    「店探しはハンパじゃなかったもんな~」

武ちゃん「ウチにもよう泊まりに来てたでな」
    「夜中にブツブツうるさかったワ!(笑)」

武ちゃんと長島先生はついに日本酒に手を出しました。

  上田「あの半年についての『正解』は分かりません」
    「でも後悔は無いですね」

武ちゃん「それからしばらくして、まさか関美の店で店長やるとはな~」
    「関美に縁ありすぎやな」

長島先生「人探しに困ってる時に、お前が現れたのにはビックリしたワ」

古尾先生「ホンマですね~、上田から後光が差してたワ」

  上田「ハハハハ」
    「いや~、何もかも勉強になりましたワ」
    「こんなに大阪でやれるとは思いもしませんでした」

関美理容部と武ちゃん、
みんな年上なんで、正直な思いを素直に口に出来ます。
居心地のいい集まりで、時間はあっという間に過ぎていきます。

長島先生「高知に帰っても頑張りや!」

古尾先生「上田やったら大丈夫やからな、頑張ってな!」

武ちゃん「大阪で店出しぃ~や」

  水落「高知の引っ越しは呼ばんといてよ!」


【長島先生】
大阪に出てきた頃、初対面の第一印象は「ジャンボ鶴田似」でした。
いろんな散髪屋さんで働いてきましたが、自分の「師匠」はこの方です。
自分の人生は「長島先生」抜きでは語れません。
それ位お世話になりました。  

【古尾先生】
第一印象は「神経質なサイボーグ」でした。
大変可愛がって頂き、いつも真剣に話を聞いてくれました。

【武ちゃん】
第一印象は「背の高いカマっぽいロン毛の先生」でした。
兄貴分で、弱い自分を温かく見守ってくれました。

【水落君】
第一印象は「がっちりした柳沢シンゴ似」でした。
年上ですが、関美同期生です。
「富長の鋏」、そして水落君に頂いた「コーム(櫛)」は、
必ずCUTの最初に使うと決めました。


上田「みなさん、ありがとうございました!」
  「ホンマにみなさんには下積みの頃から支えてもらって・・」
  「感謝してもしきれないです!お世話になりました。」
  「正直、関美に入ったときはどうなることかと思ったけど(笑)」

  「ホンマに『関美バンザイ』ですワ!」

本当にこの方々には足を向けて寝られません。

自分を「大きく」、そして「強く」育ててくれました。

■68■(次回最終話)

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エルソル大阪物語■67■「独立を決意」

2018年02月02日 | エルソル大阪物語

■67■


コラージュのサンタさんが相談に来ました。

サンタ「実は私、もうすぐお店辞めます。吉福店長も知っています」
   「独立してブライダル関係の仕事をしようと思います」
   「ヘア・メイク、そしてシェービングを取り入れたいんです」
   「シェービング講習していただけませんか?」

サンタさんはOPEN時からの仲です。
一つ返事で引き受けました。

連日閉店後、シェービングレッスンをしました。
さすが「コラージュ」のスタッフ、集中力が違います。
メモまでとりながら学ぶ姿勢が見え、教えた事がどんどん吸収され、身に付いていきました。

「独立か・・・、自分もそろそろやな・・」

冬になり、
田舎に帰ってお店を出すことを決心しました。

初夏6月に退社することを社長に申し出ました。

社長「そう、それはいい話ねェ、頑張って!応援するから」

ヘアテックのみんなにも報告しました。

 藤「【30にして立つ】か・・、やるな~」

上田「藤!後は任すからな!」

実家を取り壊し、3階建の店舗兼住宅を建てることになり、
銀行回ったり、設計士・工務店・業者とのやりとりの為、月に2・3回、田舎を往復しました。

春になり、
大相撲の季節です。
「お世話になりました」
呼出しカツユキさんに頭を下げました。

カツユキ「高知かあ、巡業で行ったら会えるね」

「店長が辞める」という事態に不安を感じ取った坂田君が、
お店を辞めると言いはじめました。
自分に止める権利はないが、次期店長藤に苦労させるわけにいかずに説得しました。

しかし、辞めたい理由の内容が変わり、「コラージュに入りたい」になりました。
理容師が美容室に入れるわけありません。
美容学校からやり直しです。
もちろん吉福店長もこれはNGで、それでも諦めきれない坂口君は、
「他の美容室に行く」と言います。
「頑固さ」は相変わらずで、もう説得も無駄でした。
坂田君は3月いっぱいで辞めました。

4月になり、
学校から新人が送り込まれました。

『中田ススム』、インターン(男)
鳥取出身、明朗活発、何事もスマートにこなす。

そして5月になり、
「四藤君」が帰ってくることになりました。
親父さんが病気になり、お店を続けることが出来ず、出戻りです。

5月は上田・藤・四藤・中田と『4人体制』になり、売上も過去最高になりました。

常連のお客さんにも徐々にお別れの挨拶をしていきました。

ショットバー3軒を持つオーナー田野上さん、
「店長、店の名前は絶対ラテン語にしとき!」

若手建築デザイナー水谷さん、
「僕にお店のロゴ、デザインさせてください!」

超常連、ご近所若者の新君、
「いつか必ず高知に散髪行きますんで・・」

同じく常連若者の荒木君、
「親の里が中村の近所なんで里帰りの時に寄らしていただきます!」

みなさんありがたいことを言ってくれます。

なかでも凄かったのは、高島屋事業部統括町田さん、
「今度高島屋新宿店ができるんだけど、」
「実は店長をスカウトしようと思っていたんやけど・・」
「店長、あの話、覚えてる?あれ、イケるで!」
「でもまあ頑張ってや」

ビックリしました。
田舎に帰る予定が無ければ、間違いなく新宿の話に乗っかっていました。
「あの話」とは、「シェービング専門店」です。

「男性版」は
忙しいビジネスマン相手に30分のリラクゼーション、
これを散髪屋としてやるんじゃなくて、
クイックマッサージのように「専門店」としてやるというもの。

「女性版」は
レディースシェーブそのもの、
フェイシャルエステ、ブライダルシェーブ、
これも散髪屋としてやるんじゃなくて、スタッフも女性オンリーの「専門店」としてやるというもの。

町田さんが注目したのは『女性版』でした。

「チャンスというものは、こうやって訪れるもんなんや!・・・」

しかし、田舎に帰る腹はもう固まっていました。

■67■

レッスン、四藤君・中田君

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エルソル大阪物語■66■「厄介さん」

2018年02月02日 | エルソル大阪物語

■66■

「難波」という場所柄、いろんなお客さんが来店します。
残念な事に、すべてが常識のあるお客さんとは限りません。
非常に厄介なお客さんもいます・・・、

『厄介さん』は、
向かいのパーキングに白いロールスロイスを駐車し、やってきます。
高級車に乗っている割には着ているスーツはヨレヨレで、銀縁のメガネは脂ぎっています。

年齢は40代半ば、カット前にアタッシュケースを預けます。
センターで分けた細い毛の前髪は脂性の額に張り付き、
尖った口と並びの悪い前歯を見せながら、
「全体に切って」とたいしてヘアスタイルに拘りのないような注文をします。

藤に任せ、無難にすべてを終わりましたが、
「チップとして取っておいて」とお釣りを受け取ってくれません。

そんな感じで3回目の来店を迎えました。

「厄介さん」は
最初から不機嫌モードでカット中の藤に絡みます。
「あ~、前髪切らんとって!いつも言ってるやん!」
「この前も切ったやろ!?難儀したわ!何や思うてるねん!」

藤が鏡越しに僕に目を合わし、「違う、違う」と首を横に振っています。
いつも何も難クセをつけないお客さんだったんで、みんな驚きました。

藤「申し訳ございません、」

藤が大人の対応をしました。

それでも、
厄介「謝って済むんか!?長い事難儀したでぇ」と怒りが静まりません。

上田「申し訳ございません、先月のカット代をお返します。本日も・・」

厄介「そんなんちゃうねん!」

そう言うと立ち上がり、5千円をカウンターに置いて出て行きました。

 藤「オレ、前髪切ってへんで!何やあのオッサン・・」
  「あんなヤツこっちからお断りや!!」
  
上田「まあまあ、今度来たらオレがやるから・・」

ひと月後、
何食わぬ顔で「厄介さん」は現れました。

「いらっしゃいませ!」
店長として気合を入れて出迎えました。

お店は緊張感に包まれました。

上田「今日はどうされますか?」

厄介「いつも通り、全体に切って」

上田「今日初めて担当させて頂きますので、事細かにお伺いさせて下さい」
  「前髪はどうされますか?」

厄介「2センチ位切っといて」

上田「・・・・」
  「分かりました、ではCUTさせて頂きます」
  「上の方も同じ位切ってもいいですか?」
  「横の方はどうされます?」
  「後ろの方はどうされます?」

一つ一つミスの無いように執拗に聞いてから進めました。

そして・・・、

上田【モミアゲの長さは今のままでしょうか?】

厄介「少し短くして」

上田「コレぐらいでしょうか?」

厄介「それでええワ」

すべてが順調に進みました。
ドライヤーでセットし、

「お疲れ様でした」

と終わろうとしたその時です。

「厄介」さんが鏡に近づき、左右のモミアゲを確認しています。

厄介「おい、モミアゲの長さが違うぞ、一緒にして!」

上田「もう一度お座り下さい、メガネお預かりします。」

入念に左右確認し、再度整え、大きな手鏡で本人に確認してもらいました。

上田「どうです?」

厄介「大体一緒になったな、ええわ」

チップを断固拒否して、通常料金で頂きました。

「厄介」がお店を出ると、店の中は安堵感に包まれました。
他のお客さんも居るので、まだスタッフ同士では会話が出来ませんでした。
と、すぐに「厄介」が帰ってきました。

厄介「あのな、今パチンコ屋のトイレで見たらな、モミアゲの長さちゃうやん!」
  「もう1回、やり直して!」

上田「・・・」
  「とりあえずお座り下さい」
  「どこがどう違うんですか?」

厄介「そんなモン、これ見てみ!メガネ掛けたら右と左ちゃうやん!」

上田「え?長さ一緒でしょう」

厄介「カタチや!メガネの柄の下のモミアゲの形がちゃうねん!」

上田「・・・」
  「分かりました、じゃあメガネ掛けたままでいて下さい」

メガネをかけたままでカミソリ・鋏を使い、出来るだけ同じ形にしました。

上田「どうです?」

厄介(メガネをはずして)「はずしたら、またちゃうやん!一緒にして!」

上田「それは無理です」
  「人間は耳の位置もきれいに左右対称になっているわけでもないし、」
  「モミアゲの毛髪の量、クセも左右では違うんです」

厄介「そんな事あるかい!いつもはちゃんと左右同じや!」

上田「僕から見れば今でも同じです」
  「違うんであればどの辺か教えて下さい!」

厄介「分からんやっちゃな!違うから一緒にせえ!いうてるだけやろ!」

上田「一緒ですって!」

厄介「ちゃう言うとんねん!」

上田「一緒です!」

厄介「お前じゃ話にならんワ!」

上田「藤君、坂田君、ちょっと見てもらえる!?どう?」

藤・坂田「一緒です!」

厄介「お前らみんなグルや!そんなもんアカン!」

上田「ほんなら、誰に聞いたら納得してもらえます?」

厄介「お前ら以外の第三者や!」

横で毛ゾリされ中の若いお客「一緒やで!!」(横になりながら)

上田「ほら、みんな同じや言うてるやないですか!」

厄介「そんなもんアカン!ここに居る奴ら全員信用できるか!」

上田「ほな誰やったら信用できるんですか!?」
  「誰に聞いてもらいたいんですか!?」

厄介「警察や」

上田「・・・」
  「分かりました。行きましょう!!」

すぐ近くの府立体育館横の交番に「厄介」連れて飛び込みました。

上田「すみません!僕近所の散髪屋ですが、」
「今、このお客さんとモミアゲの長さが一緒かどうかでモメてます!」
「見てもらえますか!?」

こういう変なのに慣れているのか、
交番のみんなが含み笑いを浮かべながら、若い警官が答えてくれました、

警官「一緒や、一緒!」

上田「!!!」
  「ほら!!これでどうです!」

厄介「・・・」
  「フンッ!最近は警察も信用ならんな!!」

口論しながらお店に戻りました。

上田「もうお金いらんから帰ってくれへん!?」

厄介「お金ちゃうわ!同じにせえっちゅう話や!」

上田「何ともならんナ、このオッサン・・」

厄介「ん!?お前今、オッサン言うたな!」

上田「・・・」

厄介「客に対してオッサン言うたな!侮辱したな!」

上田「うっさいな、アホか」

厄介「あ!お前今、アホ言うたな!侮辱罪で訴えるぞ!!」

上田「訴えろや!」

厄介「お前の家金持ちか!?」

上田「ほっとけや!」

厄介「裁判するには金いっぱいいるんやぞ!知らんぞ!」

アタッシュケースから何やら書類を出し、両手で紙を突き出し、

厄介「訴えるからな!」

上田「おっさん、そもそも何でウチの店に来たんや!」
「切ってもない前髪切ったとか、いちゃもんばっかりやないか!」
「それでもウチ来るんは何でや!?文句言いたいだけか!?」

厄介「縁があるからや」

上田「縁なんかあるか!アホか!」

厄介「またアホ言うたなコラ!訴えたるぞ!訴えたるぞ!」

(もうどうにでもなれ!)

上田「アホ言うて訴えられるんやったらナンボでも言うたるワ!!」

「厄介」に顔を目一杯近づけ、

上田【アホアホアホアホアホアホアホアホ・・・・・!!】

厄介「訴えるからな!!また来るぞ!」

上田「もう来たらアカン!!」

「ヘアテック」に武勇伝を残しました。
「厄介」はもう来ませんでした。

騒動が社長の耳に入ったらしく、専務に呼び出されました。

「上田さん、手ェだけは出したらアカンで、裁判絶対負けるから」

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