新聞、テレビなどで著名人の訃報に接すると、さほど私と違わぬ年齢の方々が次々と亡くなっておられる。そんな報道を見聞するたびに、いよいよ死後の世界が身近になってきたんだなあと実感させられる。
そんな折、八幡橙さんという女性作家が書いた「いつかたどりつく空の下」という葬儀社の世界を描いた本を読んだ。大変心に沁みいる内容だったので、チョット紹介してみます。
物語の主人公の睦綾乃(ムツアヤノ)は小さい頃から家族に見放され、生きる価値を見出せぬまま孤独で薄幸の人生を送ってきた。そんな彼女が幾つもの転職を経て、葬儀社で働くようになった。
尊敬する先輩の民代と一緒に働きながら、綾乃の心に納棺師としての気構えや生き甲斐が少しづつ芽生えてくる。そして先輩の民代が末期ガンに侵されたと偶然知った綾乃は、最後まで一人暮らしの民代に寄り添い彼女の死を看取る。その後綾乃は、民代の後を継ぐように納棺師として一人立ちしていく。
この本は死者を見送る納棺師として生きる綾乃を心の揺れを通して、生きる意味とは死ぬ事とは何かと読者へ訴えかけてくる。生きる事は荒波を航海するが如く難しいが、悔いなく死ぬ事もこれまた甚だ難しい。
最終章で、天国の民代から「睦ちゃんは、まだあの世に逝きたいの」と囁かれ、「生きたいよ」とつぶやく綾乃の言葉が、一人気丈に生きようとする彼女の心の叫びのようで深く印象に残った。