もうチョットで日曜画家 (元海上自衛官の独白)

技量上がらぬ故の腹いせにせず。更にヘイトに堕せずをモットーに。

日露平和条約とロシアの野望を学ぶ

2018年09月13日 | 歴史

 ロシアのプーチン大統領が、唐突に領土問題を棚上げにしての平和条約の締結を提案した。

 この際にと思い、北方領土問題と日露和平交渉について思い返してみた。北方領土問題は、遠く明治8年の「樺太・千島交換条約」によって日本が樺太の領有を放棄する代償として、得撫(ウルップ)島以北の千島列島(18島)を領有することが確定されたが、新たに日本の領土に編入された部分に北方4島は含まれていないことが「北方4島は日本の固有領土である」ことを論拠としている。昭和20年8月8日にソ連は対日宣戦布告を行い翌9日以降満州・樺太・北方4島を含む千島列島に対する攻撃を開始したが、日本はソ連に対して宣戦布告を行っていないことから、日ソは国際法的な戦争状態ではないともされている。更に、南樺太と千島列島の放棄が義務付けられた昭和26年のサンフランシスコ講和条約にソ連が署名しなかったことからも、北方4島は勿論千島列島の領有さえ不法占拠の可能性がある。昭和31年、時の鳩山一郎首相が前述の経緯と史実と世論を無視して署名した「日ソ共同宣言」では、平和条約締結時にソ連が歯舞・色丹を返還することにされた。この宣言によって北方4島は古来からの固有領土であるために一括返還すべきとの国論は歪められ・弱められてソ連に伝えられる結果となったものと思う。2島返還では日本の世論が収まらないことを見越したソ連・ロシアは、折に触れて同宣言を平和交渉の基点とすることを持ち出して、領土問題をうやむやにすることを常套手段としている。今回のプーチン大統領の提案は一歩進んで、日ソ共同宣言での2島返還すら無視して北方領土問題を棚上げと言えば聞こえが良いが、そもそも領土問題は存在せず現状の国境線を確定しようとする試みであると同時に、米朝非核化協議・米中貿易戦争の混乱に乗じて漁夫の利を得ようとする野望と考えられるので、日本の朝野が賛同してはならないものと考える。

 北方領土には水産資源と観光資源しかなく、辺鄙な離島を領有するメリットは乏しいとの意見もよく聞くが、先人が開拓した地であり、帰島民にとっては父祖の地でもある。歴史に「日ソの関係改善に先鞭をつけた宰相」と名を残さんがためだけに、浅はかにも敵に言質を与え、領土問題に対して1歩譲った鳩山首相の行為が、半世紀を経た今、さらに増幅されて投げ返されている。このことは、日本人としてのアイデンティティと矜持を堅持することが、政治家に求められる唯一無二の要件であることを証明する好例と思うものである。