南北首脳会談に伴って出された「9月平壌共同宣言」を読んだ。
北朝鮮の非核化に向けた米朝の橋渡し役を買って出た文大統領であるが、一旦は米朝2国間の高官協議が進展して梯子を外されかけていた。しかしながら、北朝鮮から出される性急な物々交換要求に嫌気を感じたポンペオ国務長官の訪朝中止を受けて、再び米朝協議のキャスティングボードを手にした感があるが、本来、値段交渉役であった筈の文大統領が金正恩委員長に取り込まれてしまい、非核化の対価に朝鮮戦争状態の終結を差し出してしまった。朝鮮戦争の終結・平和条約の締結は、最初の文・金首脳会談で北朝鮮が提示してきたが、米韓北3勢力鼎立によって朝鮮半島ひいては極東の安定を図ろうとするアメリカのアジア政策と真っ向から対立するもので、北の非核化問題以上に先の見通せないものに他ならない。尤も不明確であるのは平和条約は誰と誰が結ぶのかということである。一方の主が国連軍であることは間違いのないところであるが、もう一方が北朝鮮であれば国境は休戦ラインで確定して南北統一はさらに遠のくことになってしまう。日韓併合前の版図を代表する形でどちらかの代表が署名したり、南北の代表がそれぞれに署名するならば、アメリカの重しが取れた朝鮮半島支配の主導権争いが激化するの当然で、再戦の危険性すらはらんでおり、文大統領のグランドデザインでは北朝鮮体制に同化しての平和条約締結となっているのではないかと危ぶむものである。今回の首脳会談にはサムスンを始めとする韓国財界の大物が随行して、開城工業団地の再稼働・鉄道網整備・金剛山観光再開・北の禿山植林等の地均しが為された模様で、半島統一後のインフラ整備を考慮したものとも考えられる。
折りしも韓国が大量のPAC3の取得を目指していることが報じられた。単純に見れば北からのミサイル対処能力拡充であろうが、文大統領の胸算には、西側の協力が得られるうちに戦術兵器を整備し、思惑通り北の体制に合流できた暁には戦略兵器は北の核兵器で、戦術兵器は南の保有分でアメリカに対抗しつつ中国の来援を待つという構想が、隠されているのではないだろうかと邪推するものである。文大統領が対日批判に狂奔するのも、北による朝鮮半島統一に備えてことと思えば納得できるものとも思うのだが。