石破茂氏が総裁選政策討論の場で、拉致問題解決の手段として在北朝鮮連絡所を平壌に開設する構想を開陳した。
現在、平壌に大使館等の公館を持つ国は24か国、北朝鮮の公館を国内に持つ国は47ヵ国あると云われている。更に、北朝鮮と国交がある国は164ヵ国にも及ぶ現状を見れば、石破氏の主張も対北朝鮮交渉窓口として考えるべきかもしれないものの、時期尚早と危惧するものである。国交のない国が平壌に連絡所を設けることについて北朝鮮が直ちに賛同するとは思えないが、要求に対しては同等の対価を支払うのが国際的な慣例であることから、国交樹立はともかくとして東京に在日北朝鮮連絡所を設けることは容認することを前提にしての石破氏発言と思う。現在、北朝鮮へのビザの発給等は便宜的に朝鮮総連が行っているらしいが、朝鮮総連には外交官特権が認められていないため不十分ながら監視が可能であるが、外交官特権を持つ在日北朝鮮連絡所員に対しては公安は手を出せないことになりはしないだろうか。外交行嚢が税関審査を受ける必要ががないことを利用して、在マレーシア大使館がテロ活動(金正男殺害やラングーン事件)の拠点となり、在シンガポール大使館が偽札流通の拠点となったことを思えば、北朝鮮に外交官特権を与えることは工作員の跳梁を許すだけになりはしないだろうか。石破氏は、連絡事務所開設を拉致問題の解決のためとしているが、各国は日本の対北政策の転換と見るのは必至であり、核問題に拉致問題を上乗せすることで対北経済制裁を築き上げたこれまでの外交努力を根底から否定することになりはしないだろうか。氏の防災省構想にしても平時の業務区分・分担がはっきりしないこと、地方創生に農林水産等の一次産業の活性化を図る主張も労働人口や生産性を軽視するとともに日本の産業構造に目を向けていないのではとも思われる。憲法、拉致、教育、地方創生、通商の各問題に対する石破氏の提言は一見に値するが、総合力としての日本国の具体像が見えてこないことに一抹の不安を感じるのは自分だけだろうか。
石破氏の来し方を下敷きに今回の討論を読む限り、個々の問題に対するプランナーとしての企画力においては抜きん出ているものの、日本の未来を描くデザイナー・プロデューサーとしての力量においては未知数若しくは安倍氏に及ばないと見たが、党員はどちらを勝者と判断するのだろうか。