◆柏原純一 … 前期243打数63安打の2割5分9厘だった男が8月25日時点で2割9分8厘、後期だけで言えば3割6分6厘だ。打点も前期65試合で36打点だったが後期は42試合時点で早くも36打点となった。「調子がいい?そうでもないよ。前期はやたら考え過ぎて失敗したから今は結果を恐れず無心で打席に立っている」と無欲を強調する。
いわゆる "肥後もっこす" でさっぱりした性格。南海時代の育ての親の野村克也氏が「純一に欲が出てきたら鬼に金棒なんだが…」と言うくらいガツガツしていない。そんな男が近頃は欲を持ち始めた。「プロである以上、一度は優勝しなくては選手として一人前とは言えない。その為に自分が何をすればいいのかを考えるようになった」と今年からキャプテン兼選手会長が熱く語る。豪放磊落な柏原が後期に入ると不眠症に悩まされた。個人成績はグングン上昇しているのにチームの牽引車としてのもう一人の柏原は眠れぬ夜を過ごすようになる。
そんな柏原に「意外性のある選手」という新たな称号がついた。観衆をアッと驚かすプレーをやってみせるからだ。7月6日の対ロッテ戦の6回表、ヒットで出塁して2つの内野ゴロで三進すると打者大宮の時にホームスチールを成功させた。また7月19日の対西武戦の6回裏2点リードの二死三塁で柏原、西武ベンチは永射に敬遠を指示し次打者のソレイタとの勝負を選択した。その3球目、柏原が高目の球を飛びつくように打つと打球は左翼スタンドへ消えた。
腰痛、風邪、不眠症と実は一日として無病息災だった事はない。しかし周囲は柏原の愚痴や弱音を聞いた事がない。だからこそ若手や多くのナインが柏原を信頼しているのだ。「江夏さんにも言われたが後期は最後の最後までシビレる試合が続くだろう。ウチは優勝経験が無くプレッシャーに弱いと言われているけど決してそんな事はない。経験豊富なチームにだって "初めて" の時はあった。皆が通る道なのさ」 べらんめぇ口調の大沢監督が親分なら柏原はさしずめ次郎長一家の「大政」だろうか。
◆田淵幸一 … 後期の西武は走者をためて一発ドッカ~ンという場面が減ってきた。単打をつなぎバントやエンドランを絡めるソツのない攻撃が売りだ。12試合ぶりに先発復帰した田淵だが、四番を外されて阪神時代にも経験しなかった六番に据えられた。今の打順を見るとチームにおける田淵の存在価値が薄くなったと言わざるを得ない。5月22日の近鉄戦から田淵が欠場するとチームは10連勝。8月12日の日ハム戦からの5連勝も田淵をベンチに温存した時だった。
田淵が先発で出場すると打線のつながりを欠き得点力が低下し勝てないのは単なる偶然ではない。象徴的な場面が8月20日のロッテ戦だ。ロッテは7回と9回のピンチを二度ともクリーンアップを敬遠し田淵と勝負して逃げ切った。離婚・再婚問題と今年の田淵はグラウンド外での活躍?が見られるが、現在の不振の原因はそうした精神的な事より肉体的な衰えにあると見る専門家が多い。
ここへ来てトレードや引退を取り沙汰されるようになった。もちろん田淵本人は来季も西武でプレーするつもりでいる。だが田淵の四番復帰構想は現在の根本体制にはない。それどころか立花が復帰すれば大田が指名打者に戻り、田淵は再びベンチの控えに逆戻りだ。「今のウチは個人の名前で野球をするチームではない。常にチーム全体を見渡して適材適所の起用で勝利を優先させる」と根本監督は断言する。球団内から「やはりパ・リーグの水が合わないようだ。慣れ親しんだセ・リーグに戻してやるのが本人の為でもあるのではないか」とトレードを模索している情報が漏れ伝わって来る。現に解雇が決定的なスパイクスの後釜に中日が調査を始めたとの話もある。
人気面でもNo,1の座は今や石毛に明け渡した。確かに新球団旗揚げの際に興行面で貢献したのは田淵だった。それもあって球団は田淵の処遇を邪険に扱う事はしないだろう。あくまでも本人の意向を優先するつもりだが来季も西武に残っても先発出場の確約を与える事はない。残留か移籍か引退か、吹き始めた秋風の中に立ち尽くす田淵にとって残り試合は、まさに選手生命を賭けた挑戦と言える。