Haa - tschi  本家 『週べ』 同様 毎週水曜日 更新

納戸の奥に眠っている箱を久しぶりに出してみると…
買い集めていた45年前の週刊ベースボールを読み返しています

# 349 愚の骨頂

2014年11月19日 | 1983 年 



この号が発売される頃には、この『世紀のショー』とやらが終わって色々な話題を投げかけていると思われるが私は言いようのない虚しさを感じている一人だ。4月30日、西宮球場の阪急対西武戦の試合前に阪急の福本・蓑田・バンプの俊足トリオと競走馬を走らせ競わせるアトラクション。球団は「彼らの俊足ぶりをアピールするもの。まぁ一種のジョークと受け取って下さい」と言い、「面白い企画」と評価するファンも少なくないらしいが私は、かなしくなった。「悲しい」ではなく「哀しい」のである。3人が野球に対して真摯に向き合っている秀れた選手であるだけに余計に哀しい。

人馬競争なるものは1971年にオークランド・アスレチックスのキャンパネリス遊撃手がやった前例がある。今回の企画もそのショーを実際に見物した矢形球団取締役の発案で日本中央競馬会の全面協力を取付けている。出走する馬はジンクビアレスという牡の五歳馬でれっきとしたサラブレッド。ただし内臓疾患がありレースの出場経験はない。中堅守備位置から投手マウンドまでの60㍍で競うそうだ。

福本は「球団が観客動員の為に一生懸命に考えた事だし自分が手伝える範囲なら喜んで…」と言ってはいるがそれは律儀な福本らしい社交辞令で本心は「野球選手が馬と走る姿を見て喜ぶファンがどれくらいいるのか」と快く思っていないのではと推測する。福本には日本球界の盗塁記録を次々と塗り替え、大リーグ記録の「934」にあと12個と迫っている俊足の持ち主としてのプライドが有る筈だ。その足は野球選手の足であって馬と競争する為の足ではない。

この企画を " 4月30日・西宮競馬場、人馬特別 " という見出しで報じたマスコミにも落胆したが、それ以上に暗澹たる気持ちにさせたのは蓑田に『 ゲリホープ 』 、バンプに 『 ヒットリデスカ 』 と球団がいかにも競走馬風な名前を付けて話題を煽った事。少しでも注目して欲しいのは分かるが、たとえ冗談としても蓑田が何時も下痢気味なので『 ゲリ… 』、バンプが女性に声をかける決まり文句をもじって『 ヒットリ… 』とは下品過ぎる。人気獲得の為に球団が必至になって頭を働かせているのは理解出来るが度が過ぎていませんか?

ファン呼び集め作戦としてプレゼントデーを設けたり、選手と直に接触出来る機会を作ったり、ガイドブックや友の会冊子の充実を図ったりと球団の涙ぐましい努力は認める。しかしグラウンド上のプレーではなくチームの看板選手を馬と競争させる事が本当にファンサービスと呼べるものなのだろうか?例えば同じ走るのなら春季キャンプでよく行なっているベースランニング走で2組に分けてタイムを競う模様をファンの前でやり負けた組に罰ゲームなどを課す出し物ならまだ理解出来る。

こういう世の中なのだから何もそんな固い事を言わなくても…と反論されそうだが、かつて試合前のアトラクションとして歌手を呼び歌謡ショーを開いた球団があった。しかし、その出し物は直ぐに止めてしまった。ファンが球場に足を運ぶのは歌を聴く為ではなく野球を見る為だ。決してサラブレッドを人間と比較してどうのと言うつもりはない。競走馬の素晴らしさは馬と競ってこその美しさであり人間と競う意味を見い出せない。こんな物言いは私の思考が固く時代遅れのせいだろうか?野球に対して真摯な考えをお持ちである筈の上田監督の御意見を是非ともお聞きしたい。



                          
コメント
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