巨人は4連勝という20年ぶりの開幕ダッシュを見せてV2への夢をふくらませたのだが、ちょっと待って頂きたい。勝っているとはいえ何か足りなくはないか。老婆心といわれるかもしれないけれど、どうも投手陣がおかしい…守りの野球を大事にするという長嶋野球なのに…
執念勝ちの大きな価値
「ウフフフ…」長嶋監督得意の含み笑い。開幕して4試合続けての表情は満足げ。20年ぶりの開幕4連勝、それも中日2回戦(15対4)、大洋1回戦(12対10)、大洋2回戦(7対4)と打力で相手をねじ伏せた。その中で特に長嶋監督が意義ある勝利と位置付けているのが大洋1回戦。実に4時間1分の超ロングラン。両軍合わせて22安打(巨人12、大洋10)、その中には5本のアーチが川崎球場の夜空に乱れ飛んだ。「こういう乱打戦では勝利への執念が強い方が勝つんだ。打つとか守るとかの技術より根くらべなんだ。今日の勝ちは大きいよ、ウンウン」と長嶋監督は巨人ナインの執念の強さを力説した。
また開幕2戦目の中日戦のスコアは15対4。打つ手打つ手がピタリと見事に当たった。中でも鮮やかだったのが " ラン・エンド・ヒット " 戦法。一般的なヒットエンドランは多少のボール球でもバットに当てて走者を進める必要があるが、ランエンドヒットはストライク球が来た時にヒッティングする盗塁優先の戦法だ。この日は5回試みて成功率は100%だった。「あんなことは三塁コーチャーズボックスに立って初めて。打者は打撃に専念できるからリラックスしてヒットエンドランより成功率は高いんだろうね」と黒江コーチは言う。こんな良いことばかりが続いたら長嶋監督の笑いが止まらないのも無理はない。
優勝争う終盤戦のよう
確かに開幕ダッシュに成功した巨人は素晴らしい。王が既に3本塁打(4月8日現在)、張本の広角打法も健在でOH砲揃って " 5点打線 " を牽引する。その限りでは長嶋監督の笑顔も納得だが、その笑顔の合間にフッと浮かない表情が垣間見える。これだけ勝って…と担当記者も不審がる。長嶋監督は最近無言で球を投げる仕草を記者らに見せる。つまり投手陣が不安なのだという。それをハッキリさせたのが大洋との3連戦で失点が計23点。1試合平均8点。いくら狭い川崎球場だったとはいえ「打ち勝ったけど投手陣があれだけ崩れると長いシーズンを考えたら今後が心配だよ」と長嶋監督も愚痴っぽくなる。
「開幕4連勝したといっても相手に勝たせてもらったようなもの。人工芝恐怖症の中日は自滅だし大洋は投手陣が崩壊。これが阪神や広島相手だったら勝てたかどうか怪しい(担当記者)」という意見も多い。また「ローテーション無視も甚だしい。まるで優勝間近の試合をやっているようだった」との声も。こうした意見に対して巨人の首脳陣は「勝ちは勝ちだよ。開幕して30試合くらいはある程度ローテーションを崩してでも勝ちに行くのは間違ってない。開幕3連敗したら五分に戻すのに3連戦を2勝1敗と勝ち越しても9試合必要になる。勝率五割に戻すのに12試合で約半月かかる。2勝1敗のペースは年間にすると86勝。結構キツイんだよ」と反論する。
だから堀内がリリーフしたり、6日の大洋戦のように小林➡ライト➡堀内みたいな豪華リレーも暫くは再びあるかもしれない。「しかし、いくら何でもこんな起用を続けていたら投手陣がパンクしかねない」といった声もネット裏では多い。事実、7日の大洋戦に連投した堀内が長崎に本塁打を浴びてKOされ不安が的中した。「今まで王や張本の打力の陰で目立たなかった投手陣の弱点が一気に露呈してしまった(担当記者)」と。しかも小林や新浦といった中堅どころの調子も今一つで、先発ローテーションが崩れたら5点打線が健在でも巨人優位説はあっけなく瓦解してしまうだろう。
浅野ヒジ痛のショック
加藤初の離脱は計算していたが穴を埋めると期待していた浅野がヒジ痛を発症したのも懸念材料の一つ。浅野本人によれば軽症で投げられない状態ではないが、ヒジ痛は浅野の持病だけにいつ爆発するか不安は消えない。開幕前日に長嶋監督は親しい知人に「新外人が投手でなく野手(リンド選手)になったのは加藤の復帰が早まる可能性が高まったから。病院からの報告ではレントゲン検査でも異常は見られず練習再開の許可も出た。早ければ6月、遅くとも夏までには帰って来る。ということは4月・5月を乗り切ればOKといことだ。加藤が帰って来るまで首位戦線にいれば連覇も見えてくる」と心中を吐露していた。
それが浅野のヒジ痛で長嶋監督の計算に狂いが生じた。浅野が担う筈だったリリーフ役に堀内が起用されたのだがKOされてしまった。堀内は開幕の中日戦に先発して勝利に貢献した。その時点では長嶋監督の頭に堀内のリリーフ登板は無かったに違いない。それが浅野のヒジ痛で投手起用プランが大きく変わったと考えられる。こうなると新外人はやはり投手にしておけば良かったのではないかという意見が出始めたが後の祭りである。今は相手の自滅やラッキーパンチが当たって勝ち星を稼いでいるが、頼りの打線に陰りが出始めたら一転して敗戦が続くのではないかと長嶋監督は危惧しているのである。