エガワくん、やっぱり君は速球派だった!? 巨人低迷の " A級戦犯 " 江川が7月24日、ナゴヤ球場で行なわれたオールスターゲーム第3戦で見事な快投を演じた。4回表から全セの二番手としてマウンドに上がった江川は公式戦では見られなかった140㌔台の快速球と切れ味鋭いカーブで全パの強力打線から何と8連続三振を奪い3回をパーフェクトに抑え見事に最高殊勲選手賞に選ばれた。昭和46年、江夏(阪神)が演じた不滅の " 9連続奪三振 " の再現か、とファンも両軍ベンチも息を潜めて見守ったが9人目の大石(近鉄)にカーブを引っ掛けられ二ゴロ。夢は露と消えた。しかし、この日の江川はまさに「怪物」で日頃は厳しい野次を浴びせる名古屋のファンもこの日ばかりは江川コールを大合唱し江夏の時と同様に球場全体がマウンド上の江川に注目した。
「久しぶりに本物の速球を見せてもらいました。高目で伸びる速球は珍しくないが今日の江川君は低目の球がホップして伸びる。更にカーブのキレが凄く、あれじゃ打てなくて当然です」と球審を務めた五十嵐審判員。打つどころかオールスター戦に選ばれた各球団の一流打者がまともにバットに当てられず「誰だ、江川は終わったと言っていた奴は。とんでもないデマだ(阪急・福本)」「なにしろ速かった。久しぶりに本当に速い球を見た(阪急・ブーマー)」と口あんぐり状態。三冠王の落合(ロッテ)も「速い。ベース手前で球が跳ねた」と脱帽。共にカーブで三振を喫した栗橋(近鉄)、石毛・伊東(西武)は「カーブというより昔のドロップみたい。キレキレでした」とお手上げのポーズ。
先頭の福本をカウント1-3から三振させたのを皮切りに3人目のブーマーから8人目のクルーズ(日ハム)までスリーストライクは全て空振りだった。興奮したのは打者だけではない。先発して3回を2安打に抑え優秀選手賞を獲得した山内和(南海)は自分の事より「いつもなら降板後は直ぐにロッカーに行って試合は見ないんですけど思わず見入ってしまいました。ベンチから見ていても球の軌道が他の投手とは別次元でしたね。いや~、凄い物を見せてもらいました」と。また同い歳で普段からライバル意識を露わにする遠藤(大洋)ですら「ウォーミングアップ中だったんですけど途中で止めちゃいました。だって歴史の生き証人になるかもしれない場面でしたから。自分の事じゃないのにあんなに緊張したのは初めて」と興奮を隠せない。
【8連続三振の内容 ○:ストライク ◎:空振り ●:ボール △:ファール】
福 本 ●●△●○○
蓑 田 ○○△△○
ブーマー ●●△◎◎
栗 橋 ●○○◎
落 合 ●●○◎◎
石 毛 ●△○◎
伊 東 ●●△◎◎
クルーズ ◎◎◎
そして9人目。大石(近鉄)は打席に向かう前にわざわざ三塁側ベンチに歩み寄り西武・広岡監督に「代打を出さず僕でいいんですか?」と尋ねた。「いいんだお前で」と広岡監督に言われた大石は大きく深呼吸をして打席へ。打席に入ると捕手の中尾(中日)に「おい、三振してやれよ」と声を掛けられた。大石は「とんでもない。死にもの狂いでバットに当てますよ」と応えたがその声は緊張で擦れていた。しかし初球、2球目と目の醒めるような直球に手が出ずたちまち追い込まれた。江川の球筋を見定めた訳ではなかった。「ダメだ…球が見えない」と三振を覚悟した3球目、江川が投じたのはカーブだった。 " カツン "と乾いた音がして打球は一・二塁間へ。球場内は溜め息に包まれた。