三連覇を逃した西武には減俸の嵐が吹きまくっている。大田、高橋直といった高給取りなら多少の減俸など平気だが元々が安月給の若手にはダウンは痛い。六百七十万円の工藤公康は今季ほとんど戦力にならず六百万円に減俸され「小遣いの額を減らさなくちゃ」と頭をかくが身軽な独身者なので悲壮感はない。だが妻帯者となると話は違ってくる。七百五十万円から五十万円減となった岡村隆則は九月に長女が生まれたばかり。「一昨年、昨年とチームが連覇しても大してアップしなかったのにダウン額はかなりのもの。子供も生まれて何かと物入りなので…」と最初の交渉では保留し粘ったが渋々折れた。
永射保は選手会長だけあって交渉事に慣れているのか坂井代表と論陣を張り合った。
代 表…百万円のダウンで一千九百万円だね
永 射…ダウン?成績は前年より良かったから僕はアップだと思ってました。どうしてダウンなのですか?
代 表…確かに勝ち星は2勝から6勝と増えたけど防御率は悪化するなど総合すると貢献ポイントが去年より低いんだ
永 射…でも貢献ポイントは低くてもプラスなんですよね、せめて現状維持じゃないんですか?
代 表…一昨年は3勝から2勝と勝ち星を減らしたけどアップしたでしょ?貢献ポイントとはそういう事。成績だけじゃないんだ
話は広岡監督の投手起用法にまで及んだとか。立花義家は二千万円から一千七百万円へ。成績が悪かったので覚悟はしていたものの「金額を見たとたん余りにもショックで思わず席を立ってしまいました」と。その去り方に迫力があったのか次回の交渉ではダウン額が三百万円から二百五十万円に抑えられたとか。森繁和は潔い。右手に判子を持ったまま代表室に入り三千五百五十万円から三千四百万円へダウンした数字を見るやいなや、ポン。松沼雅之も「悩まされてきた肩痛がほぼ治った。来年は減った分を取り戻す」と百万円ダウンの二千六百万円にあっさりサインした。来季に自信を持っている選手は概ねダウン提示にも簡単にサインする。チームの勝利に貢献出来ればアップする事を知っているからだ。これが西武の特徴である。
西武の若手はこの先いくらでも挽回できるだろうが後がないベテラン選手だとそうはいかない。嘗ては若松とチーム No,1年俸争いを繰り広げていた松岡弘(ヤクルト)は今やチームトップ10からも弾き出されそうである。ヤクルトはファミリー的な雰囲気で選手の更改交渉時間は1人平均5分と短い。そんな中、松岡は異例の " 25分間 " に及ぶ交渉となった。「1勝5敗、防御率 6.56 じゃ規定最高の25%減でも仕方ないんだよ」と相馬球団代表。しかし、そこはヤクルト一筋で191勝を積み重ねてきた功労者の気持ちも理解できる。粘りに粘ったが「自分の価値は周囲が決めるもの。もうゴチャゴチャ言わない」と最後は陥落し、手取り月額百五十八万円から百二十六万円にダウンしてもサインした。「月に三十二万円は大きいです。可哀そうだけどお父さんのお小遣いを減らさせてもらいます。オフの旅行も控えなくては」と美佐緒夫人は財布の紐をしめる。
松岡はアッサリ陥落したが斎藤明夫(大洋)は徹底抗戦の構えだ。昨年は11勝6敗10Sと不本意な成績だったが、この3年間で26勝20敗62Sと貢献してきた男である。1年だけの成績不振を理由に15%ダウンの六百万円減はおいそれと受け入れ難い。「球団の言い分は僕が打たれた場面が目立ったから、だった。確かに大量点差を守れなかった試合もあったけど15%は有り得ない。だってチームイチのダウン率だよ、言っちゃなんだが僕より下げられてもおかしくない選手もいるのに。絶対に現状維持まで持ち込むよ」と納得するには程遠い。斎藤は選手会長だから最下位転落のスケープゴートにされた可能性が高い。提示を保留した日の斎藤家では「パパどうだった?(典子夫人)」「15%やて。話にならんわ(斎藤)」との会話が交わされたが典子夫人はその場に座り込んでしまったという。
3年連続の首位打者だったが今季は無冠に終わった落合博満(ロッテ)は姉さん女房の信子夫人と再婚し東京・世田谷区赤堤に1億7千万円の白亜の豪邸を建て新生活をスタートさせている。新居は落合の31回目の誕生日に当たる12月9日に完成させた。玄関の上にはステンドグラスが飾られ、柱は古代ギリシアのコリント様式など凝りに凝っている。そして玄関をくぐると10畳は優に越す広いリビングルーム。4LDKながらサウナルームも完備しており、車庫は2台入る広さでスイッチひとつで扉は自動開閉するなど至れり尽くせり。総額1億7千万円也の内、7千万円はキャッシュで1億円が借金。球界トップクラスの五千九百四十万円の高給取りの落合でも毎月140万円の返済は大変だが本人は「これだけ借金があれば嫌でもやらざるを得ず、いい刺激だよ。打率4割を達成して年俸1億が目標」と意に介していない。