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■舩岳紘行展―密林の楽しい孤独 (2021年11月29日~12月26日、札幌)

2021年12月25日 17時55分55秒 | 展覧会の紹介-絵画、版画、イラスト
 北海道教育大岩見沢校の油彩画研究室で多くの後進を育てつつ、自らはことしの二紀展で会員に推挙されるなど、活躍めざましい舩岳紘行さんの個展が、ニューオータニイン地下の通路で開かれています。

 冒頭は会場で最も大きい(F50)「アクタイオンと鳥女」。
 花が咲き乱れる太古の南国のような世界で、猿がたわむれ、鳥人間が寝そべっているけむくじゃらの猿人? のところに降りようとしています。

 鳥人間を見ると筆者は、諸星大二郎の漫画「アダムの肋骨」を思い出しますが、舩岳さんの絵は元ネタがはっきりしているパロディというよりも、あまり見たことのない異世界が繰り広げられているといったほうがよさそうです。
 ちなみに、アクタイオンはギリシャ神話に登場する英雄で、すぐれた狩人でしたが、ある日、森の中で女神アルテミス(ローマ神話ではディアナ)とニンフたちの裸身を目撃してしまったため、女神の怒りを買い、獣に変身させられて、自らの猟犬に食い殺されてしまいます。考えてみたら、べつにのぞき見をしようと思ってしたわけでもないのに、理不尽な話ですね。
 イタリアルネサンスの巨匠ティツィアーノに「ディアナとアクタイオン」という絵があります。

 
 この鳥人間やサルはほかの絵にも登場します。
 2枚目の画像、左から2枚目は「アクタイオンの記憶」(F20)。
 鹿の角を持って横たわる毛だらけの男のもとに、裸の女の体と長い首を持つ奇妙な鳥が3羽、舞い降りようとしています。

 そのとなりは「魚になりましょう」。2015年の作。
 人魚とは逆に、頭部が魚で、首から下が裸の男女という化け物が、手に手を取って池のそばを進んでいます。手に持って股間を隠しているのは「知恵の実」でしょうか。そう考えると、楽園追放(たとえば初期イタリアルネサンスのマサッチオ)の変奏なのかもしれず、左側には人間の頭部を持ったヘビが現れています。こいつがイブに、木の実を食べるようそそのかしたのですね。
 不気味なのは、奥の池に立つ巨大な水鳥で、くちばしには裸の人間をくわえています。
 ボスやマグリットを連想させるのですが、画面全体に、オリジナリティあふれる不気味な世界が展開しているのです。

 
 不気味な魚人は「鎮める人」(2019、F4)にも登場しています。こちらは、美女に退治されて地面にのされているような絵になっています。

 そのとなりは「ゆらぐ月」(2019、F3)。
 地面からわらわらとはえている緑のウツボカズラみたいなものは、いったいなんでしょう。 

 というわけで、奇想や幻想うずまく異世界に、あらためて驚くのでした。

 他の作品は「光る森」「明るい夜」「ある出来事」「泉」「オオゲツヒメの再生」「星を採る男」「ずっと前」「オオゲツヒメの変容―耕起」「猿の食卓」「食事の時間」「動き出す」「鳥を捕る男」「新しい森」「少年と鳥」など。

 プレスリリースにあることばも引用しておきます。

神話や昔話、妖怪やおばけといったものの中に潜んでいる現実世界の神秘や人間の深層心理を個人の感覚を通して浮かび上がらせようとしています。生と死、破壊と創造、見えるものと見えないものといった両義的なイメージを対比させたり、その境界をぼかしたりする中で、不可思議で生き生きとした現実世界を視覚化したいと考えています。



 なお、ことし始まった「北海道にゆかりのある作家たちの絵画展」の第9弾になりますが、来年からは「ニューオータニイン札幌企画~北海道の画家を応援するプロジェクト」になるとのことです。
 コロナウイルスの感染拡大で発表機会が減っている画家などに展示をしてもらい
①美術と人をつなぐ
②空間と美術をつなぐ
③作家と企業をつなぐ
④人と人をつなぐ
を目指して取り組んできた取り組みですが、さて、来年はどんなラインナップになるのでしょうか。


2021年11月29日(月)~12月26日(日)午前10時~午後7時(最終日~4時)、無休
ニューオータニイン札幌(札幌市中央区北2西1)地下

http://hiroyukifunaoka.net/

過去の関連記事へのリンク
舩岳紘行×狩野宏明 二人展 神話とサイボーグ (2018)
開館50周年記念/リニューアル記念 mima. 明日へのアーティストたちとともに 夢魔とポエジイ (2018)



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