恵庭美術協会への出品など地元に根差した活動を続けてきた中村哲泰さんと、長男の中村修一さん、長女の八子直子さん、その夫の八子晋嗣さんの4人展「分水嶺」が、恵庭市民会館で開かれています(主催も市民会館)。
7月6日午後、4人によるギャラリートークが行われたので、区間快速エアポートに乗って、行ってきました。
日程の都合上、すこし到着がおくれてしまったのですが、会場には100人ほどが集まっていて、驚きました。
恵庭市内や札幌はもちろん、帯広、小樽、夕張、浦河、北広島からの来場者もいました。
市民向けの教室などで哲泰さんとイーゼルを並べた人も多いのではないかと思います。
トークの順番と逆になりますが、年の功で、哲泰さんから紹介します。
略歴を見て、気づいたことがあります。
2000年に定年退職した後、ヒマラヤに行く機会を得て、2度の登山訓練をしてから4千~5千メートル級の所まで登り、1か月半にわたって取材していることです。
高いもの、大きなものへのあこがれがあった、という意味のことをギャラリートークでは話しておられました。
ヒマラヤ山脈は、地方都市の普通の勤め人が気軽に旅行できる場所ではないでしょう。
定年退職のすぐ後の、まだ体力もあり脂の乗り切った時期に千載一遇のチャンスをつかみ、それを逃さなかったことに敬服します。
国内では描けない高山のモティーフとがっぷり四つに組んで描いた大作を並べた、2003年の札幌時計台ギャラリーA室での個展を思い出しました。
次の画像のうち、左側が、ヒマラヤに取材したうちの1点です。
中村哲泰さんは、市内中島松の農家に生まれました。
家業を手伝った後、地元の乳業会社に就職します。
1974年に新道展会員に推挙され、86年には日展入選しているので、略歴の「日曜画家の道を歩む」という言い回しには謙遜が含まれているのではないでしょうか。
具象絵画の団体公募展である一水会にも出品を続け、2015年に会員、18年に委員に推挙されています。
23年には第53回北海道文化団体協議会賞を受賞しました。
画家は高いものへの憧憬と同時に、小さいものを見つめ、そこに生命の尊さを見いだします。
2010年代を中心に取り組んだ一連の「とどまることのない生命」という作品は、そういう視線で、名もない野草を描いています。
会場には、同題のF100号が5点も並んでいました。
マクロとミクロ、双方の視線を持ち、往還していることが、中村哲泰さんの画業を奥深いものにしているのでしょう。
緑色や土の茶色が基調になっていますが、よく見ると、青や紫などさまざまな色が隠し味のように使われています。
とはいえ、絵の具の発色は抑えられており、けばけばしさはみじんも感じられません。
通りいっぺんの写実とは異なり、植物が持つエネルギーをとらえようとする姿勢が、画面に息づいているようです。
ここで「中村哲泰の代表作は何か」と考えてみます。
もちろん、60代に取り組んだヒマラヤのシリーズは、そこに挙げられることでしょう。
上で紹介した「とどまることのない生命」の諸作も魅力的です。
今回の出品作で唯一、人物が描かれた、恵庭の火山灰?の採掘現場を望む後ろ向きの男を描いた大作も印象に残ります。
ただ、確かめたわけではないのですが、ご本人が愛着を抱いているのは、86年に日展入選を果たした「黄昏」ではないかという気がします。
というのは、第5回と第6回の一水会北海道支部展に連続して出品されているからです。
切り立った断崖。
その上の平らな地面の、小さな林。
ここには、高く険しいものに寄せる画家のあこがれと孤独な魂、そしてどんな厳しい環境にも生きていこうとする生命への視線、そういったものが凝縮されているように感じられるのです。
中村哲泰さんは84歳。
お孫さんが押す車いすに乗っての登場でしたが、声には張りがありました。
今回の展覧会にも、恵庭岳を描いた近作の小品が2点展示されています。
農家の厳しい労働で体を鍛え、60代でヒマラヤにアタックする気力と体力の持ち主ですから、今後も末永くお元気で健筆をふるってほしいと思いました。
長くなったので、こどもたち3人は別項に続きます。
2024年7月2日(火)~7日(日)午前10時~午後6時(最終日~3時)
恵庭市民会館(恵庭市新町)
過去の関連記事へのリンク
■第64回新道展 (2019)
■第5回一水会北海道支部展 (2019年4月23~28日、千歳)
■中村哲泰個展 (2018)
■第18回グループ環 展 (2017)
■第17回 グループ環展 (2016)
■中村哲泰・川西勝・松本道博 三人展(2016)
■一水会 北海道出品者展 (2015、画像なし)
■第15回“グループ環”絵画展 (2014)
■中村哲泰おやこ展 (2009)
■第10回グループ環絵画展(小品展併催)=2009
■中村哲泰-高みを求めて (2008)
■第9回グループ環絵画展・小品展併催 (2008)
■第8回“グループ環”絵画展 (2007)
■中村哲泰個展 (2006)
■第4回“グループ環”油彩展 (2003)
■ヒマラヤを描く 中村哲泰個展 (2003)
■第3回“グループ環”油彩展 (2002、画像なし)
■第2回 グループ環 油彩展 (2001、画像なし)
・JR恵庭駅から約900メートル、徒歩12分
7月6日午後、4人によるギャラリートークが行われたので、区間快速エアポートに乗って、行ってきました。
日程の都合上、すこし到着がおくれてしまったのですが、会場には100人ほどが集まっていて、驚きました。
恵庭市内や札幌はもちろん、帯広、小樽、夕張、浦河、北広島からの来場者もいました。
市民向けの教室などで哲泰さんとイーゼルを並べた人も多いのではないかと思います。
トークの順番と逆になりますが、年の功で、哲泰さんから紹介します。
略歴を見て、気づいたことがあります。
2000年に定年退職した後、ヒマラヤに行く機会を得て、2度の登山訓練をしてから4千~5千メートル級の所まで登り、1か月半にわたって取材していることです。
高いもの、大きなものへのあこがれがあった、という意味のことをギャラリートークでは話しておられました。
ヒマラヤ山脈は、地方都市の普通の勤め人が気軽に旅行できる場所ではないでしょう。
定年退職のすぐ後の、まだ体力もあり脂の乗り切った時期に千載一遇のチャンスをつかみ、それを逃さなかったことに敬服します。
国内では描けない高山のモティーフとがっぷり四つに組んで描いた大作を並べた、2003年の札幌時計台ギャラリーA室での個展を思い出しました。
次の画像のうち、左側が、ヒマラヤに取材したうちの1点です。
中村哲泰さんは、市内中島松の農家に生まれました。
家業を手伝った後、地元の乳業会社に就職します。
1974年に新道展会員に推挙され、86年には日展入選しているので、略歴の「日曜画家の道を歩む」という言い回しには謙遜が含まれているのではないでしょうか。
具象絵画の団体公募展である一水会にも出品を続け、2015年に会員、18年に委員に推挙されています。
23年には第53回北海道文化団体協議会賞を受賞しました。
画家は高いものへの憧憬と同時に、小さいものを見つめ、そこに生命の尊さを見いだします。
2010年代を中心に取り組んだ一連の「とどまることのない生命」という作品は、そういう視線で、名もない野草を描いています。
会場には、同題のF100号が5点も並んでいました。
マクロとミクロ、双方の視線を持ち、往還していることが、中村哲泰さんの画業を奥深いものにしているのでしょう。
緑色や土の茶色が基調になっていますが、よく見ると、青や紫などさまざまな色が隠し味のように使われています。
とはいえ、絵の具の発色は抑えられており、けばけばしさはみじんも感じられません。
通りいっぺんの写実とは異なり、植物が持つエネルギーをとらえようとする姿勢が、画面に息づいているようです。
ここで「中村哲泰の代表作は何か」と考えてみます。
もちろん、60代に取り組んだヒマラヤのシリーズは、そこに挙げられることでしょう。
上で紹介した「とどまることのない生命」の諸作も魅力的です。
今回の出品作で唯一、人物が描かれた、恵庭の火山灰?の採掘現場を望む後ろ向きの男を描いた大作も印象に残ります。
ただ、確かめたわけではないのですが、ご本人が愛着を抱いているのは、86年に日展入選を果たした「黄昏」ではないかという気がします。
というのは、第5回と第6回の一水会北海道支部展に連続して出品されているからです。
切り立った断崖。
その上の平らな地面の、小さな林。
ここには、高く険しいものに寄せる画家のあこがれと孤独な魂、そしてどんな厳しい環境にも生きていこうとする生命への視線、そういったものが凝縮されているように感じられるのです。
中村哲泰さんは84歳。
お孫さんが押す車いすに乗っての登場でしたが、声には張りがありました。
今回の展覧会にも、恵庭岳を描いた近作の小品が2点展示されています。
農家の厳しい労働で体を鍛え、60代でヒマラヤにアタックする気力と体力の持ち主ですから、今後も末永くお元気で健筆をふるってほしいと思いました。
長くなったので、こどもたち3人は別項に続きます。
2024年7月2日(火)~7日(日)午前10時~午後6時(最終日~3時)
恵庭市民会館(恵庭市新町)
過去の関連記事へのリンク
■第64回新道展 (2019)
■第5回一水会北海道支部展 (2019年4月23~28日、千歳)
■中村哲泰個展 (2018)
■第18回グループ環 展 (2017)
■第17回 グループ環展 (2016)
■中村哲泰・川西勝・松本道博 三人展(2016)
■一水会 北海道出品者展 (2015、画像なし)
■第15回“グループ環”絵画展 (2014)
■中村哲泰おやこ展 (2009)
■第10回グループ環絵画展(小品展併催)=2009
■中村哲泰-高みを求めて (2008)
■第9回グループ環絵画展・小品展併催 (2008)
■第8回“グループ環”絵画展 (2007)
■中村哲泰個展 (2006)
■第4回“グループ環”油彩展 (2003)
■ヒマラヤを描く 中村哲泰個展 (2003)
■第3回“グループ環”油彩展 (2002、画像なし)
■第2回 グループ環 油彩展 (2001、画像なし)
・JR恵庭駅から約900メートル、徒歩12分
(この項続く)