
艾沢詳子(札幌在住)、国松希根太(胆振管内白老町)、服部真紀子(愛知県在住)の3人展。
艾沢さんは版画から出発し、近年はろう(ワックス)を素材としたインスタレーションを道内外で発表している。
国松さんは彫刻家で、白老の廃校跡を拠点に「飛生芸術祭」などの開催にも取り組んでいる。
服部さんは20代の新進陶芸家。たぶん、道内の発表はこれが初めてになると思う。
展覧会のリーフレットに「企画 withart」と記されている。
2011年に札幌のRoom 11で開いた「Approach デザインとアートの接近」を企画した本間真理さんが、キュレーションした展覧会といっていいだろう。
会場は、札幌の喫茶店「森彦」が、以前は花問屋だった建物を改装して開いた新しい支店。
1階は入り口、2階がカフェで、ギャラリーなど多目的に使えるスペースが3階にある。
花の問屋になる前はボイラー工場で、築50年にはなるらしい。3階の床は少し振動していた。
艾沢さんは、会場を下見したとき、学校の体育館を思い出したという。

「体育が苦手で、よく見学してた」
という彼女が、階段の屋根部分を利用して設置したインスタレーションが「飛べなかった跳び箱」だ。
基本的には、これまで本郷新「無辜の民」に寄せて制作したものなどと同様の、ろう(ワックス)による作品。
ティッシュペーパーを、天ぷらを揚げるようにワックスで成形する。ひとつひとつが、人間のようにもてるてる坊主のようにも見える形になる。それに、細かい黒の点を打っていく。気の遠くなるような作業だ。
今回も、再利用分を含め、数千個が積み重なっている。圧巻だ。
インスタレーションの山にアクセントを与えているいくつものいすは、もともとこの会場に置かれていたもの。
山の反対側に、いすが1脚置かれ、ワックスの作品が1個だけ載せられている。
艾沢さんによると、ひとつひとつに固有の番号が打たれているという。
精神の平衡を保つために必要な作業らしい。
筆者の老眼で見ても、数字は見えなかったが…。
この行為は、彼女が以前から続けてきた(そして、今回は1階の入り口部分に展示してあった)コラグラフ版画のシリーズを思い出させる。以前から言われているように、彼女のアートは、日常の行為の膨大な積み重ねという側面を持っている。
もうひとつ、個人的にとっても興味深かったことがある。
今回のインスタレーションで用いた「部品」は、以前の「無辜の民」シリーズや、札幌芸術の森・旧有島武郎邸で展開した物と同じである。今回は、きわめて個人的な思い出が出発点になっているが、社会性や歴史性を帯びた作品と、同じ物を組み立てているわけだ(「無辜の民」は、パレスチナやベトナムなどで戦火の犠牲になる民衆へ思いを寄せて、北海道の戦後を代表する彫刻家・本郷新が制作したシリーズ)。
以前にも書いたが、北海道の作家の作品は、視界が半径50メートルで完結し、広い世界や社会に関心やつながりのないものが多いような気がする。そんななかで、半径50メートルから世界までを、同じ方法論で表現している艾沢さんのスタンスが、とても面白いと思うのだ。
なお、2階には「不安なシーソー」というモビールが天井からつるされ、題の通り、左右にワックスワークをゆらゆらさせていた。

国松さんは会場におられなかった。
艾沢さんにお会いしたのもほんとうにひさしぶりだったが、国松さんにもリアルには久しくお会いしていない。
というか、道内のおもなアートプロジェクトのうち、飛生だけは一度もうかがうことができていないので、いささか後ろめたく思う。
近年の国松さんの作品は、平面、立体とも、ますます作為というものから離れて、素材がもともと持っているかたち(もっというと精神)が、北海道の自然をそのままに浮かび上がらせるようになってきていると思う。
それは、素材をそのまま提示する「もの派」とも異なり、必要最小限の手が加えられているようだ。
筆者が初めて見るタイプの作品だったのが、上の画像でも手前右側に写っている「GLACIER CAVE」。
天井から吊り下げられている、山を模した木彫だ。
これは、中央部が中空になっていて、人間が頭を中に入れることができる。
ちなみに、中空の上も開いているので、背の高い人だと、頭部が作品から突き出ることになりそうだ。

森彦のマスターが自作した白い台に載っているのは、服部さんの陶器。やや低いような気もするが、作家本人の希望らしい。
本間さんが雑誌で見て一目ぼれし、出品をオファーしたという。
服部さんの作品の特性は、近づいて見るとわかる。おそろしく細かいのだ。
薄い土のかけらをびっしりと貼り付けているという。
このテイストは、線をぎっしりと詰め込んだ90年代の艾沢さんの版画に共通するものがあるかもしれない。
展覧会のタイトルは「ACROSS」。
「~を超えて」というような意味合いの前置詞だ。
企画者の本間さんは
「素材もジャンルも違う3人が一つの空間で共鳴し合う。作品も人も場所も、アクロスできたら」
と話しておられた。
カフェの上の階ということで、註文した後の時間などを利用して気軽に見に来る人が多いとのことだった。
2013年4月6日(土)~15日(月)午前11時~午後6時、水曜休み
MORIHICO Plantation (白石区菊水8の2)
【告知】交差する視点とかたち vol.5(2012年9月8~23日、札幌/11月30日~12月24日、釧路)
■交差する視点とかたち vol.2 (2008年)
■艾沢詳子「無辜の民'07 冬音」(07年12月)=□関聨のページ(STVエントランスアート)
■艾沢詳子 闇のシナプス(07年5月)
■06年の「北の彫刻展」 (画像なし)
■03年の「札幌の美術」
■02年の版画、ドローイング展(画像なし)
□http://www.kinetakunimatsu.com/
関連記事
□SHIFT オンラインマガジンのインタビュー(日本語)
□SHIFT Online Magazine Kineta Kunimatsu interview(English)
【告知】国松希根太展 Kineta Kunimatsu Exhibition(2012年)
■500m美術館(2010年)
■いすのゆめ(2009年)
■国松希根太展「HORIZON」(2009年9月)
■5人の彫刻家と現代漆のコラボレーション 彫刻家 つくる 家具 塗る 現代漆 展(2009年5月)
■New Point vol.6(2009年1月、画像なし)
■ART BOX 札幌芸術の森・野外ステージ(2008年)
■はしご展(2008年9、10月)
艾沢さんは版画から出発し、近年はろう(ワックス)を素材としたインスタレーションを道内外で発表している。
国松さんは彫刻家で、白老の廃校跡を拠点に「飛生芸術祭」などの開催にも取り組んでいる。
服部さんは20代の新進陶芸家。たぶん、道内の発表はこれが初めてになると思う。
展覧会のリーフレットに「企画 withart」と記されている。
2011年に札幌のRoom 11で開いた「Approach デザインとアートの接近」を企画した本間真理さんが、キュレーションした展覧会といっていいだろう。
会場は、札幌の喫茶店「森彦」が、以前は花問屋だった建物を改装して開いた新しい支店。
1階は入り口、2階がカフェで、ギャラリーなど多目的に使えるスペースが3階にある。
花の問屋になる前はボイラー工場で、築50年にはなるらしい。3階の床は少し振動していた。
艾沢さんは、会場を下見したとき、学校の体育館を思い出したという。

「体育が苦手で、よく見学してた」
という彼女が、階段の屋根部分を利用して設置したインスタレーションが「飛べなかった跳び箱」だ。
基本的には、これまで本郷新「無辜の民」に寄せて制作したものなどと同様の、ろう(ワックス)による作品。
ティッシュペーパーを、天ぷらを揚げるようにワックスで成形する。ひとつひとつが、人間のようにもてるてる坊主のようにも見える形になる。それに、細かい黒の点を打っていく。気の遠くなるような作業だ。
今回も、再利用分を含め、数千個が積み重なっている。圧巻だ。
インスタレーションの山にアクセントを与えているいくつものいすは、もともとこの会場に置かれていたもの。
山の反対側に、いすが1脚置かれ、ワックスの作品が1個だけ載せられている。
艾沢さんによると、ひとつひとつに固有の番号が打たれているという。
精神の平衡を保つために必要な作業らしい。
筆者の老眼で見ても、数字は見えなかったが…。
この行為は、彼女が以前から続けてきた(そして、今回は1階の入り口部分に展示してあった)コラグラフ版画のシリーズを思い出させる。以前から言われているように、彼女のアートは、日常の行為の膨大な積み重ねという側面を持っている。
もうひとつ、個人的にとっても興味深かったことがある。
今回のインスタレーションで用いた「部品」は、以前の「無辜の民」シリーズや、札幌芸術の森・旧有島武郎邸で展開した物と同じである。今回は、きわめて個人的な思い出が出発点になっているが、社会性や歴史性を帯びた作品と、同じ物を組み立てているわけだ(「無辜の民」は、パレスチナやベトナムなどで戦火の犠牲になる民衆へ思いを寄せて、北海道の戦後を代表する彫刻家・本郷新が制作したシリーズ)。
以前にも書いたが、北海道の作家の作品は、視界が半径50メートルで完結し、広い世界や社会に関心やつながりのないものが多いような気がする。そんななかで、半径50メートルから世界までを、同じ方法論で表現している艾沢さんのスタンスが、とても面白いと思うのだ。
なお、2階には「不安なシーソー」というモビールが天井からつるされ、題の通り、左右にワックスワークをゆらゆらさせていた。

国松さんは会場におられなかった。
艾沢さんにお会いしたのもほんとうにひさしぶりだったが、国松さんにもリアルには久しくお会いしていない。
というか、道内のおもなアートプロジェクトのうち、飛生だけは一度もうかがうことができていないので、いささか後ろめたく思う。
近年の国松さんの作品は、平面、立体とも、ますます作為というものから離れて、素材がもともと持っているかたち(もっというと精神)が、北海道の自然をそのままに浮かび上がらせるようになってきていると思う。
それは、素材をそのまま提示する「もの派」とも異なり、必要最小限の手が加えられているようだ。
筆者が初めて見るタイプの作品だったのが、上の画像でも手前右側に写っている「GLACIER CAVE」。
天井から吊り下げられている、山を模した木彫だ。
これは、中央部が中空になっていて、人間が頭を中に入れることができる。
ちなみに、中空の上も開いているので、背の高い人だと、頭部が作品から突き出ることになりそうだ。

森彦のマスターが自作した白い台に載っているのは、服部さんの陶器。やや低いような気もするが、作家本人の希望らしい。
本間さんが雑誌で見て一目ぼれし、出品をオファーしたという。
服部さんの作品の特性は、近づいて見るとわかる。おそろしく細かいのだ。
薄い土のかけらをびっしりと貼り付けているという。
このテイストは、線をぎっしりと詰め込んだ90年代の艾沢さんの版画に共通するものがあるかもしれない。
展覧会のタイトルは「ACROSS」。
「~を超えて」というような意味合いの前置詞だ。
企画者の本間さんは
「素材もジャンルも違う3人が一つの空間で共鳴し合う。作品も人も場所も、アクロスできたら」
と話しておられた。
カフェの上の階ということで、註文した後の時間などを利用して気軽に見に来る人が多いとのことだった。
2013年4月6日(土)~15日(月)午前11時~午後6時、水曜休み
MORIHICO Plantation (白石区菊水8の2)
【告知】交差する視点とかたち vol.5(2012年9月8~23日、札幌/11月30日~12月24日、釧路)
■交差する視点とかたち vol.2 (2008年)
■艾沢詳子「無辜の民'07 冬音」(07年12月)=□関聨のページ(STVエントランスアート)
■艾沢詳子 闇のシナプス(07年5月)
■06年の「北の彫刻展」 (画像なし)
■03年の「札幌の美術」
■02年の版画、ドローイング展(画像なし)
□http://www.kinetakunimatsu.com/
関連記事
□SHIFT オンラインマガジンのインタビュー(日本語)
□SHIFT Online Magazine Kineta Kunimatsu interview(English)
【告知】国松希根太展 Kineta Kunimatsu Exhibition(2012年)
■500m美術館(2010年)
■いすのゆめ(2009年)
■国松希根太展「HORIZON」(2009年9月)
■5人の彫刻家と現代漆のコラボレーション 彫刻家 つくる 家具 塗る 現代漆 展(2009年5月)
■New Point vol.6(2009年1月、画像なし)
■ART BOX 札幌芸術の森・野外ステージ(2008年)
■はしご展(2008年9、10月)
ギャラリー創 http://sou.agson.jp/
4月17日(水)ー 4月28日(日) 火曜定休
11:00 - 18:00(最終日17:00 )
新しいブログも作ってみました。製作風景や会場の様子をアップしてあります。
お時間ありましたらご覧ください。
http://azp.seesaa.net/category/19338448-1.html