システムキッチンのきれいな写真を見ると、料理を作る場所というよりも応接間のように見える。
整理に困る鍋、釜、食器の類がキャビネットに収納されて影も形も見えない。
積み重なった鍋が調理台でピサの斜塔状になっていたり、おたまやヘラや菜箸などが、壁に引っ掛けられてぶらぶらしていることもない。
キッチンの色合いも真っ白、ワインレッド、木目とさまざまでとてもリッチな雰囲気である。
アタクシが理想としているのは、昭和40年代くらいの「台所」である。
木造家屋の、ほどほどに日が差し込み、窓の外は生垣。
ふた月に一度くらい、醤油屋が注文を聞きにくる勝手口があるともっとよろしい。
そうはいっても流しが石だったり、水しか出ないというのはちょっと困る。
年月が経つにつれて石の流しはステンレスに変えられたり、湯沸かし器や換気扇が取り付けられたりして、少しずつ便利なように手直しされている台所が好きだ。
そのようなひと時代前の台所はこぢんまりしているので、普段使う台所用品はみんな手を伸ばせば届く範囲内にある。
おたまも菜箸も目の前にぶらぶらしている。
ステンレスの流し台は磨いてはあるが、ちょっと凸凹している。
だけどふきんはいつも真っ白。
床もきちんと拭き清めてある、というのが最高の台所である。
窓の桟にまな板が立てかけてあってもいい。
料理のための裏方が準備万端整えて待機し、そのうえ清潔感もあって、いかにも「食べ物を作る場所」という感じがするではないか。
モノを作る場所はだいたいにおいて雑然としているものである。
きれいとはいい難いが、使う人が働きやすいように雑然としたなかに、それなりの秩序があるからである。
「人がいて働いている」という感じが好きですね。