光陰矢のごとし~もう既に2009年も半分が過ぎました。そこで、私的な上半期公開映画の総まとめです。
今般、「どんだけ上から目線?」と言う言い回しが流行しているようです。もちろん批判的ニュアンスを含んだもので、「そう言うアンタは何様のつもり?」と同義語のようです。そもそも「目線」と言うのは、映画・演劇・テレビ業界の用語らしいですね。それがテレビのバラエティ番組等でタレントらが多用するにつけ、広く一般にも使われるようになったらしい。
個人日記で、あくまでも私見を述べているだけのブログ上での書き込みに対しても、最近は「どんだけ上から目線」批判が向けられるようです。ブログ上の書き込みなんて、殆どささやかな個人の行動や思索の記録でしかなく、書き手個人にとっては大事なログであっても、対外的には殆ど影響も及ぼさない人畜無害な、ある意味健全なガス抜き装置なのに、一部ではエライ叩かれようです。これは叩くべき相手を間違えていると思う。
と言うことを踏まえて、はなこなりに「上から目線」で忌憚のない映画ジャッジをしたいと思います。
はなこ的に堂々【ベスト1】
に推したいのは「グラン・トリノ」
写真のクリント・イーストウッドの表情をご覧下さい。何と慈愛に満ちた表情でしょう?映画タイトルにもなっている「グラン・トリノ」とはかつて一世を風靡したアメ車で、アメリカの人々がモノ作りに励み、自国に何の疑いもなく誇りを持って生きていた時代の象徴であります。
かつてマカロニ・ウエスタンでガンマンとして勇名を馳せ、ダーティ・ハリーで、向かうところ敵なしの豪腕刑事を演じたクリント・イーストウッドが、好々爺然とした姿で、慈愛に満ちた視線を向けている相手は、合衆国の礎を築いた白人の子孫でもなく、奴隷として強制移住を余儀なくされたアフリカ系アメリカ人の子孫でもなく、ネイティブ・アメリカンでもない。ベトナム戦争で米国側についた為に、ベトナム戦終結後、国外脱出をせざるを得なかった、アジアの少数民族モン族の少年です。
ふとしたきっかけから、このモン族の少年やその家族と関わりを持ち始めた孤独な老人(クリント・イーストウッド)が、彼らとの交流を通じて導き出した、自らの人生の総決算は哀しくも胸を打つものです。余韻が深く濃く残る結末に、クリント・イーストウッドの老練な演出と演技を賞賛せずにはいられません。
1月1日から6月30日までの期間、試写会も含めて、はなこが見た新作映画の総数は48本です。内1本は、米アカデミー賞外国語映画賞受賞の凱旋リバイバル上映の「おくりびと」でした。月8本のペース。自宅近くにシネコンが3つもあるので、以前のように映画を見に渋谷、日比谷、銀座まで繰り出すことは殆どなくなってしまいました。どんなに楽しみなことでも無理をすると、それが楽しみでなくなってしまう。だから自分の体力や財布と相談して、無理な遠出は止めることにしました。それが試写会参加数の激減に繋がっているようです。遠出を止めることで、渋谷や銀座や六本木や岩波ホール等でしか上映されない映画は必然的に見られなくなりましたが、人間、諦めることも大事だと思うから、これでいいのだ!(って、天才バカボンのパパ風に(^^;))
◆まず、今年上半期見た中で、文句なく五つ星を上げたい3作品
★★★★★
1.グラン・トリノ
2.ディア・ドクター:西川美和監督は、前作「ゆれる」で見せてくれた手腕を、本作でもいかんなく発揮している。何より1年をかけてじっくりフィールドワークを行い、その観察力と集中力と粘り強さで、その道のプロ(医師や看護師や医療問題ジャーナリスト)を唸らせるほどのリアリティ溢れる作品世界を構築したことに感嘆する。
嵌り役の鶴瓶を主役に起用したのは、師匠?である是枝監督の薦めだったらしいが、鶴瓶の演技とも地ともつかない、つかみ所のない人物造形が、深刻な無医村問題の物語にユーモアを与えている。大事なことは、何もストレートに、まなじりを決して主張すれば良いというものでもないのだろう。どんなアプローチの手法であれ、人の胸に響き、その結果、人を動かせば良いのだ。
そして本作でも冴え渡る監督の人間観察は、今回はその眼差しに、過ちを犯す「弱い存在」としての人間への優しさと寛容を内包するから、見ていてどこかホッとするものがある。前作『ゆれる』とはまた違ったアプローチで、人間の在りように迫って魅せた監督の力量は、まだその片鱗をチラリと見せているに過ぎないのではないか。そんな期待感を抱かせる会心の1本だと思う。
3.チェンジリング:これもクリント・イーストウッド監督作品。実話に基づく作品らしいが、子を思う母の強さに感銘を受ける一方で、自らの保身の為には個人の人権を平気で蹂躙する組織の冷酷さに戦慄を覚える。そして今日的だと思っていた犯罪が、既に当時存在していたことにも驚愕する。このことは、文明がいかに進歩を遂げようとも、人間の本質には変わりがないことを意味するのだろうか?アンジェリーナ・ジョリーの熱演が光る(彼女の今にも折れそうな細い身体と体当たりの熱演を見ると、公私共に全力投球の彼女が生き急いでいるように見えて、実は心配である)。
"changeling"とは、(民話で妖精が子どもをさらい、代わりに残す醜い[ばかな])取り替えっ子、転じて「すり替えられた子」を意味する(『ジーニアス英和辞典』より)。
◆上位3作に準ずる面白さ、感動を覚えた作品
★★★★
4.愛を読むひと:「レボリューショナリーロード~命燃え尽きるまで」と撮影時期が重なった為、一度はハンナ役をニコール・キッドマンに譲ったケイト・ウィンスレットだったが、ニコールの妊娠により結局ハンナを演じることになった。その曰く付きのハンナ役が、6度目のノミネートにして、彼女に米アカデミー賞主演女優賞をもたらしたのである。原作を読んでみると、ニコールよりケイトの方が作者が描いたハンナ像に近く、適役な印象を受けた。
物語では15歳の少年の、21歳も年上の女性との恋を軸に、ナチの傷跡残る戦後ドイツの一断面が描かれる。人目を憚る二人の関係は一度は断たれたかに思われたが、数年後意外な場所で二人は再会し、その曰くゆえに一定の距離を保ったまま密やかに静かに続くのだ。自身のある秘密を守る為に、ナチ弾劾裁判で罪の加重も厭わなかったハンナ。その秘密を知る、かつてハンナとの恋で身を焦がし、その幻影に翻弄され続けて来たかに見えるマイケル。彼は今、法曹界に身を置き(原作ではミハエルで、法曹史研究者)、自らの立場と彼女への愛との狭間で苦悩するのだ。ハンナの不器用なまでの実直さを見るにつけ、時代、境遇が違えば、彼女にも違った人生があったであろうにと悔やまれた。
スティーブン・ダルドリー監督の手堅い演出で、様々な障害ゆえに深く潜行する男女の愛の物語が、哀切を極めた上質な人間ドラマに仕上がった。さらに戦争を巡る世代間ギャップは、埋めがたい溝として両者の間に厳然と存在することを、見る者は収容所跡に言葉もなく佇むマイケルの目を通して、今さらのように思い知らされるのだ。心に深く余韻を残す1本だと思う。
5.レボリューショナリーロード~命燃え尽きるまで:レオとケイトが「タイタニック」以来の共演で話題。それ以上に二人の俳優としての成長ぶりが、息詰まるような演技対決という形で見られる至福。詳しい感想はこちら
6.スラムドッグ$ミリオネア:本年度の米アカデミー賞作品賞ということでかなり期待して見たら、期待し過ぎたせいか、どうも感動や印象が薄まってしまったような…高水準には違いないけれど、本作の魅力はインドと言う舞台装置自身のもつ力に依るところが大きい。作品賞授与は、巨大マーケットを意識したハリウッドの宣伝活動でもあるのか?
7.重力ピエロ:伊坂幸太郎原作映画は「アヒルと鴨のコインロッカー」以来、嵌っている。主演の岡田将生の清潔感が母心をくすぐって(「こんな息子が欲しい」と誰しも思うだろう)、本作の「無理矢理な部分」を帳消しにするほど魅力的。描きたかったのはファンタジーでくるんだ”家族の絆”なんだろうなあ…
8.フィッシュ・ストーリー:これも、伊坂幸太郎原作。劇中歌が懐かしいノリで耳に残り頭の中でエンドレス。思わずサントラを買ってしまった。奇想天外なストーリー展開は織り込み済みで、○○話も、ここまで壮大に描いてくれれば、いっそ清々しい。
9.フロスト×ニクソン:感想はこちら
10.「チェ28歳の革命」と「チェ39歳の別れ」の2部作:ベネシオ・デルトロの熱演に、20世紀革命のカリスマの人間的側面を垣間見ることができた。チェの革命家としての原点を描いたガエル・ガルシア・ベルナル主演の「モーターサイクル・ダイアリーズ」と併せて見たい。
◆2009年上半期映画ミシュラン はなこ版(2)へ続く…
今般、「どんだけ上から目線?」と言う言い回しが流行しているようです。もちろん批判的ニュアンスを含んだもので、「そう言うアンタは何様のつもり?」と同義語のようです。そもそも「目線」と言うのは、映画・演劇・テレビ業界の用語らしいですね。それがテレビのバラエティ番組等でタレントらが多用するにつけ、広く一般にも使われるようになったらしい。
個人日記で、あくまでも私見を述べているだけのブログ上での書き込みに対しても、最近は「どんだけ上から目線」批判が向けられるようです。ブログ上の書き込みなんて、殆どささやかな個人の行動や思索の記録でしかなく、書き手個人にとっては大事なログであっても、対外的には殆ど影響も及ぼさない人畜無害な、ある意味健全なガス抜き装置なのに、一部ではエライ叩かれようです。これは叩くべき相手を間違えていると思う。
と言うことを踏まえて、はなこなりに「上から目線」で忌憚のない映画ジャッジをしたいと思います。
はなこ的に堂々【ベスト1】
![kirakira2](https://blogimg.goo.ne.jp/img_emoji/ap/kirakira2.png)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/1e/3f/7d35af87e6450cb15215033a50cd5dba.jpg)
かつてマカロニ・ウエスタンでガンマンとして勇名を馳せ、ダーティ・ハリーで、向かうところ敵なしの豪腕刑事を演じたクリント・イーストウッドが、好々爺然とした姿で、慈愛に満ちた視線を向けている相手は、合衆国の礎を築いた白人の子孫でもなく、奴隷として強制移住を余儀なくされたアフリカ系アメリカ人の子孫でもなく、ネイティブ・アメリカンでもない。ベトナム戦争で米国側についた為に、ベトナム戦終結後、国外脱出をせざるを得なかった、アジアの少数民族モン族の少年です。
ふとしたきっかけから、このモン族の少年やその家族と関わりを持ち始めた孤独な老人(クリント・イーストウッド)が、彼らとの交流を通じて導き出した、自らの人生の総決算は哀しくも胸を打つものです。余韻が深く濃く残る結末に、クリント・イーストウッドの老練な演出と演技を賞賛せずにはいられません。
1月1日から6月30日までの期間、試写会も含めて、はなこが見た新作映画の総数は48本です。内1本は、米アカデミー賞外国語映画賞受賞の凱旋リバイバル上映の「おくりびと」でした。月8本のペース。自宅近くにシネコンが3つもあるので、以前のように映画を見に渋谷、日比谷、銀座まで繰り出すことは殆どなくなってしまいました。どんなに楽しみなことでも無理をすると、それが楽しみでなくなってしまう。だから自分の体力や財布と相談して、無理な遠出は止めることにしました。それが試写会参加数の激減に繋がっているようです。遠出を止めることで、渋谷や銀座や六本木や岩波ホール等でしか上映されない映画は必然的に見られなくなりましたが、人間、諦めることも大事だと思うから、これでいいのだ!(って、天才バカボンのパパ風に(^^;))
◆まず、今年上半期見た中で、文句なく五つ星を上げたい3作品
★★★★★
1.グラン・トリノ
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/20/65/53ad4e6f2ad4a7273a53b84925e0fcdb.jpg)
嵌り役の鶴瓶を主役に起用したのは、師匠?である是枝監督の薦めだったらしいが、鶴瓶の演技とも地ともつかない、つかみ所のない人物造形が、深刻な無医村問題の物語にユーモアを与えている。大事なことは、何もストレートに、まなじりを決して主張すれば良いというものでもないのだろう。どんなアプローチの手法であれ、人の胸に響き、その結果、人を動かせば良いのだ。
そして本作でも冴え渡る監督の人間観察は、今回はその眼差しに、過ちを犯す「弱い存在」としての人間への優しさと寛容を内包するから、見ていてどこかホッとするものがある。前作『ゆれる』とはまた違ったアプローチで、人間の在りように迫って魅せた監督の力量は、まだその片鱗をチラリと見せているに過ぎないのではないか。そんな期待感を抱かせる会心の1本だと思う。
3.チェンジリング:これもクリント・イーストウッド監督作品。実話に基づく作品らしいが、子を思う母の強さに感銘を受ける一方で、自らの保身の為には個人の人権を平気で蹂躙する組織の冷酷さに戦慄を覚える。そして今日的だと思っていた犯罪が、既に当時存在していたことにも驚愕する。このことは、文明がいかに進歩を遂げようとも、人間の本質には変わりがないことを意味するのだろうか?アンジェリーナ・ジョリーの熱演が光る(彼女の今にも折れそうな細い身体と体当たりの熱演を見ると、公私共に全力投球の彼女が生き急いでいるように見えて、実は心配である)。
"changeling"とは、(民話で妖精が子どもをさらい、代わりに残す醜い[ばかな])取り替えっ子、転じて「すり替えられた子」を意味する(『ジーニアス英和辞典』より)。
◆上位3作に準ずる面白さ、感動を覚えた作品
★★★★
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/43/12/0fdcab36642063748b5d181209f44aa6.jpg)
物語では15歳の少年の、21歳も年上の女性との恋を軸に、ナチの傷跡残る戦後ドイツの一断面が描かれる。人目を憚る二人の関係は一度は断たれたかに思われたが、数年後意外な場所で二人は再会し、その曰くゆえに一定の距離を保ったまま密やかに静かに続くのだ。自身のある秘密を守る為に、ナチ弾劾裁判で罪の加重も厭わなかったハンナ。その秘密を知る、かつてハンナとの恋で身を焦がし、その幻影に翻弄され続けて来たかに見えるマイケル。彼は今、法曹界に身を置き(原作ではミハエルで、法曹史研究者)、自らの立場と彼女への愛との狭間で苦悩するのだ。ハンナの不器用なまでの実直さを見るにつけ、時代、境遇が違えば、彼女にも違った人生があったであろうにと悔やまれた。
スティーブン・ダルドリー監督の手堅い演出で、様々な障害ゆえに深く潜行する男女の愛の物語が、哀切を極めた上質な人間ドラマに仕上がった。さらに戦争を巡る世代間ギャップは、埋めがたい溝として両者の間に厳然と存在することを、見る者は収容所跡に言葉もなく佇むマイケルの目を通して、今さらのように思い知らされるのだ。心に深く余韻を残す1本だと思う。
5.レボリューショナリーロード~命燃え尽きるまで:レオとケイトが「タイタニック」以来の共演で話題。それ以上に二人の俳優としての成長ぶりが、息詰まるような演技対決という形で見られる至福。詳しい感想はこちら
6.スラムドッグ$ミリオネア:本年度の米アカデミー賞作品賞ということでかなり期待して見たら、期待し過ぎたせいか、どうも感動や印象が薄まってしまったような…高水準には違いないけれど、本作の魅力はインドと言う舞台装置自身のもつ力に依るところが大きい。作品賞授与は、巨大マーケットを意識したハリウッドの宣伝活動でもあるのか?
7.重力ピエロ:伊坂幸太郎原作映画は「アヒルと鴨のコインロッカー」以来、嵌っている。主演の岡田将生の清潔感が母心をくすぐって(「こんな息子が欲しい」と誰しも思うだろう)、本作の「無理矢理な部分」を帳消しにするほど魅力的。描きたかったのはファンタジーでくるんだ”家族の絆”なんだろうなあ…
8.フィッシュ・ストーリー:これも、伊坂幸太郎原作。劇中歌が懐かしいノリで耳に残り頭の中でエンドレス。思わずサントラを買ってしまった。奇想天外なストーリー展開は織り込み済みで、○○話も、ここまで壮大に描いてくれれば、いっそ清々しい。
9.フロスト×ニクソン:感想はこちら
10.「チェ28歳の革命」と「チェ39歳の別れ」の2部作:ベネシオ・デルトロの熱演に、20世紀革命のカリスマの人間的側面を垣間見ることができた。チェの革命家としての原点を描いたガエル・ガルシア・ベルナル主演の「モーターサイクル・ダイアリーズ」と併せて見たい。
◆2009年上半期映画ミシュラン はなこ版(2)へ続く…