岩波ジュニア新書シリーズなどもそうだが、児童生徒向けに書かれている本は結構侮れない。各分野の専門家が専門的な内容を、子どもでも分かるようにと、できるだけ平易な表現を用いて書いているから、その質は確かだし、大人にも分かり易いものになっている。
大人だからって、何でも知っているわけじゃない。寧ろ複雑多様化した現代社会は、個人の手に余るほどの情報で溢れ帰っていて、知らないことがあるのは当然とも言える(あまりにも無知なのは恥ずかしいけれど)。
それに、ある事柄について知らないと言う点では、大人も子どもも関係ない。知らないことを知ったかぶって知らないままにしておくより、素直に知らないことを認め、「知りたいと思った時が学び時」と考えて、人から教えを請うなり本を読むなりして学んだ方が、自分にとっては有意義なはずだ。昔から「聞くは一時の恥、知らぬは一生の恥」とも言われている。手始めに児童向けの本で学んでみるのも、何ら恥ずかしいことではないと思う。
先日読んだ金子哲雄著『学校では教えてくれないお金の話』も、河出書房新社から出ている「14歳の世渡り術」と言うシリーズの中の1冊。情報量としてはそれほど多くはなく、大人の私にはあっという間に読めた。中学生でも分かるようにと、やはり著者自身の経験談や具体例を多く挙げて、分かり易い解説を心がけている印象の本だった。
本書を読んでまず感じたのは、まさに著者の育った家庭環境が、現在の著者を形作っていると言うことだ。船会社に勤めていたという著者の父は、ことあるごとに「経済」の観点から世の中の仕組みを説いて聞かせ、著者に経済観念の基礎を植え付けたと同時に、「経済」を切り口に、常に自分の頭でよく考えることを促したように見える。
だからこそ、著者は中学生にして、「自分の一生に、いったいどのくらいのお金が必要なのかを計算し」、「社会人になるということは、この費用を負担することなんだ。生きていくために必要な経費を稼ぐ能力を、大学卒業までに身につけなければならないんだ」と考えるに至ったのだろう。
本書は「お金の本」と銘打っているだけあって、延々とお金にまつわる話が続く。しかし、だからと言って、もちろん著者は必ずしも金の亡者ではないのである(人より抜きんでて利に聡い印象はあるけれど・笑)。
以下に「なるほどね」と思った、著者の言を列挙してみる(実際の著書は「です。ます。」調で書かれている)。
■金銭感覚とは、先を見通す力。これから先の人生を生きていくために、どれくらいのお金が必要かを把握しておく能力。
■金子流お金持ちの定義は「お金を回せる人」。僕に言わせれば、100億円貯金しているだけの人よりも、月給20万円の会社員であっても、砂糖の取引を担当し、10億円動かしている人のほうが金持ち。
なぜなら、砂糖の取引はさとうきびの栽培から、砂糖工場、流通、販売まで、多くの雇用を生んでいるから。雇用されて賃金を貰った人はその資金で(中略)、さまざまな場面でお金を使う。(中略)みんなの資金が様々な場面で使われ、お金が(社会で)回ることになるのだ。
つまり、「お金が回る」とは、みんながお金を使って、経済が活性化するということなのだ。(→著者はマネーゲームには否定的)
■お金持ちには「お金をもうけるだけでなく、世の中に広くお金を回す」という義務がある。例)慈善活動に熱心なビル・ゲイツ
■景気が悪くなる原因は「今日より明日のほうが悪くなる。将来、収入が減るかもしれない」という不安。資本主義社会の構造は「風が吹けば桶屋がもうかる」で、例えば収入不安で皆が貯金→コンビニでの弁当を買い控える→コンビニ弁当が売れない→弁当工場の人が失業→コンビニ売り上げ減でコンビニ店員も失業→国は多くの人に失業手当を支払う→公共事業の予算がなくなる→道路工事の人も失業(と言う負の連鎖反応を呼ぶ)
■景気が良いか悪いかはゴミ集積所を見れば分かる→個人消費が落ち込めばゴミの量が減る=景気が悪い
■少子化は不況のシグナル→子育ては個人消費を増やし、雇用を生み、税収の増加に繋がる。逆に少子化は個人消費が減り、税収が減り、国が困り、国民が困る。
■自粛するより、お金を回そう→今回の震災の被害総額は約16~25兆円と言われている。これを国の税金で賄わなければならない。だから被災地以外の人々はできるだけ普段通りの生活をして、お金を使い、1円でも多くの税金を納めた方が良い。
■コンビニ弁当の価格が高めなのは、昼までに店に弁当が届いているという「時間保証」をしているから。→違う方面から2台の弁当配送車を出し、事故や渋滞などのアクシデントに備えており、そのコストが弁当代に上乗せされている。→「時は金なり」で、時間を守れない人は、自分の価値を下げてしまっている!
■値下げにも良いものと悪いものがある。→市場拡大を伴わないコスト削減(人件費、さまざまな経費)による値下げは、業界全体の消耗戦となるだけで、悪い値下げだ。例)牛丼チェーンの値下げ競争。
■絶対に「連帯保証人」になってはダメ。→お金の貸し借りに関する「連帯保証人制度」は、日本の悪い習慣のひとつで、海外では殆ど見られない。「連帯保証人制度」は自分の人生だけでなく、周囲の人の人生まで狂わせてしまう恐れがある
■「ケチ」とはお金を使わないことで他人に不快感を与えたり、迷惑をかけたりすること。お金を使わないのも「自分のため」。「節約」とは人に迷惑をかけずに、自分のできる範囲でお金をかけないようにする「賢い生き方」を意味し、「活きたお金の使い方」をするために無駄遣いをしないこと。
■節約を身につければ、強く生きられる。→世の中にどのような変化が起こり、日本経済がどうなって行くか不確定である以上、収入減となっても生きてゆけるよう、普段から節約を心がけること。
■お店の集客作戦の裏をかく→商品には、客を集めるために採算度外視で激安の価格設定となっている「集客商品」と、店の収益源となる「収益商品」がある。何もかも同じ店で揃えるのではなく、その店の「集客商品」だけを買えば確実に買い得。
■商品は激戦区で買え。しかし、人生では激戦区を避けるべし。→激戦区では店舗間で価格競争が起きて安く商品が買える。逆に人生では競争相手の多いジャンルで生き抜くのは大変なので、競争相手のいないジャンルで勝負しよう!→著者は「流通ジャーナリスト」と言う職業を自ら考案した。
■友達はお金に優る財産。「秀才」ではなく、「集才」を目指そう!→自分ひとりで全てに秀でる「秀才」になるには大変な努力が必要。しかし、さまざまな才能を持った人を集める「集才」なら簡単。ひとつでも得意分野を持って友達を惹きつけ、普段から互いに助け合い、いざとなれば全員の才能を集結させて事に当たろう。→自分が「窓口」になり、自分の周囲に人が集まるようになれば、現代社会の問題点や人々が求めているもの、世の中の流れが読めるようになる。才能を持った友達が多ければ多いほど、人生で苦労しない。
■(これから自らの人生を切り開く中学生に向けた言葉として) やりたいことが見つからないうちは、とりあえず勉強!→大学全入時代では、大学生であること自体には殆ど価値はなく、どの大学に入学したかが重要。
■教育ほど素晴らしい財産はない→工業製品は新製品が出れば価値が相対的に下がるが、教育によって身につけた知識や教養の価値が下がることはない。金のネックレスのように、国境を越えて、世界中どこにでも持っていける。しかも、これからは世界が活躍の場になる。そのために語学の習得は必要。
著者は教育に関してもコスト意識が徹底していて、自らの進学先も「教育は投資だ」との考えを基本に、「最もコストパフォーマンスに優れた大学」を選んだらしい(正確には、"よりラク<確実>な方法として"付属高校からの進学"を果たしている)。
その彼の論法からすると、私なんぞ、コスパ無視で大学を選択してしまったおバカさんである世の中、お金だけでは測れない価値もあると思うが、現実問題、私は大学卒業後、進学にかかった費用に見合った利益を上げるどころか、大学で学んだことを生かして1円の利益を上げることさえ出来ていない。
一方、一緒に卒業した若い友人達の多くは、学校教師としてのキャリアを着々と築いている。当時の私はと言えば、学業と家事との両立が必然であったので、夜間に授業のある教職科目を履修することには無理があった。何の制約もなければ、おそらく履修していたと思う。
こと「職業選択」の観点から見れば、日本社会の現状では、「できるだけ若いうちに学ぶこと」は重要だろう。若いうちにシッカリ学んだ人には、目の前に幅広い選択肢と大きなチャンスが与えられるはずだ。まさに「鉄は熱いうちに打て」である。自分のこれからの人生を戦略的に見据えると言う意味で、本書は(もちろん既に自覚している人は除くが)中学生をはじめ、遅くとも社会へ巣立つ前の若者に、一読を勧めたい。
大人だからって、何でも知っているわけじゃない。寧ろ複雑多様化した現代社会は、個人の手に余るほどの情報で溢れ帰っていて、知らないことがあるのは当然とも言える(あまりにも無知なのは恥ずかしいけれど)。
それに、ある事柄について知らないと言う点では、大人も子どもも関係ない。知らないことを知ったかぶって知らないままにしておくより、素直に知らないことを認め、「知りたいと思った時が学び時」と考えて、人から教えを請うなり本を読むなりして学んだ方が、自分にとっては有意義なはずだ。昔から「聞くは一時の恥、知らぬは一生の恥」とも言われている。手始めに児童向けの本で学んでみるのも、何ら恥ずかしいことではないと思う。
先日読んだ金子哲雄著『学校では教えてくれないお金の話』も、河出書房新社から出ている「14歳の世渡り術」と言うシリーズの中の1冊。情報量としてはそれほど多くはなく、大人の私にはあっという間に読めた。中学生でも分かるようにと、やはり著者自身の経験談や具体例を多く挙げて、分かり易い解説を心がけている印象の本だった。
本書を読んでまず感じたのは、まさに著者の育った家庭環境が、現在の著者を形作っていると言うことだ。船会社に勤めていたという著者の父は、ことあるごとに「経済」の観点から世の中の仕組みを説いて聞かせ、著者に経済観念の基礎を植え付けたと同時に、「経済」を切り口に、常に自分の頭でよく考えることを促したように見える。
だからこそ、著者は中学生にして、「自分の一生に、いったいどのくらいのお金が必要なのかを計算し」、「社会人になるということは、この費用を負担することなんだ。生きていくために必要な経費を稼ぐ能力を、大学卒業までに身につけなければならないんだ」と考えるに至ったのだろう。
本書は「お金の本」と銘打っているだけあって、延々とお金にまつわる話が続く。しかし、だからと言って、もちろん著者は必ずしも金の亡者ではないのである(人より抜きんでて利に聡い印象はあるけれど・笑)。
以下に「なるほどね」と思った、著者の言を列挙してみる(実際の著書は「です。ます。」調で書かれている)。
■金銭感覚とは、先を見通す力。これから先の人生を生きていくために、どれくらいのお金が必要かを把握しておく能力。
■金子流お金持ちの定義は「お金を回せる人」。僕に言わせれば、100億円貯金しているだけの人よりも、月給20万円の会社員であっても、砂糖の取引を担当し、10億円動かしている人のほうが金持ち。
なぜなら、砂糖の取引はさとうきびの栽培から、砂糖工場、流通、販売まで、多くの雇用を生んでいるから。雇用されて賃金を貰った人はその資金で(中略)、さまざまな場面でお金を使う。(中略)みんなの資金が様々な場面で使われ、お金が(社会で)回ることになるのだ。
つまり、「お金が回る」とは、みんながお金を使って、経済が活性化するということなのだ。(→著者はマネーゲームには否定的)
■お金持ちには「お金をもうけるだけでなく、世の中に広くお金を回す」という義務がある。例)慈善活動に熱心なビル・ゲイツ
■景気が悪くなる原因は「今日より明日のほうが悪くなる。将来、収入が減るかもしれない」という不安。資本主義社会の構造は「風が吹けば桶屋がもうかる」で、例えば収入不安で皆が貯金→コンビニでの弁当を買い控える→コンビニ弁当が売れない→弁当工場の人が失業→コンビニ売り上げ減でコンビニ店員も失業→国は多くの人に失業手当を支払う→公共事業の予算がなくなる→道路工事の人も失業(と言う負の連鎖反応を呼ぶ)
■景気が良いか悪いかはゴミ集積所を見れば分かる→個人消費が落ち込めばゴミの量が減る=景気が悪い
■少子化は不況のシグナル→子育ては個人消費を増やし、雇用を生み、税収の増加に繋がる。逆に少子化は個人消費が減り、税収が減り、国が困り、国民が困る。
■自粛するより、お金を回そう→今回の震災の被害総額は約16~25兆円と言われている。これを国の税金で賄わなければならない。だから被災地以外の人々はできるだけ普段通りの生活をして、お金を使い、1円でも多くの税金を納めた方が良い。
■コンビニ弁当の価格が高めなのは、昼までに店に弁当が届いているという「時間保証」をしているから。→違う方面から2台の弁当配送車を出し、事故や渋滞などのアクシデントに備えており、そのコストが弁当代に上乗せされている。→「時は金なり」で、時間を守れない人は、自分の価値を下げてしまっている!
■値下げにも良いものと悪いものがある。→市場拡大を伴わないコスト削減(人件費、さまざまな経費)による値下げは、業界全体の消耗戦となるだけで、悪い値下げだ。例)牛丼チェーンの値下げ競争。
■絶対に「連帯保証人」になってはダメ。→お金の貸し借りに関する「連帯保証人制度」は、日本の悪い習慣のひとつで、海外では殆ど見られない。「連帯保証人制度」は自分の人生だけでなく、周囲の人の人生まで狂わせてしまう恐れがある
■「ケチ」とはお金を使わないことで他人に不快感を与えたり、迷惑をかけたりすること。お金を使わないのも「自分のため」。「節約」とは人に迷惑をかけずに、自分のできる範囲でお金をかけないようにする「賢い生き方」を意味し、「活きたお金の使い方」をするために無駄遣いをしないこと。
■節約を身につければ、強く生きられる。→世の中にどのような変化が起こり、日本経済がどうなって行くか不確定である以上、収入減となっても生きてゆけるよう、普段から節約を心がけること。
■お店の集客作戦の裏をかく→商品には、客を集めるために採算度外視で激安の価格設定となっている「集客商品」と、店の収益源となる「収益商品」がある。何もかも同じ店で揃えるのではなく、その店の「集客商品」だけを買えば確実に買い得。
■商品は激戦区で買え。しかし、人生では激戦区を避けるべし。→激戦区では店舗間で価格競争が起きて安く商品が買える。逆に人生では競争相手の多いジャンルで生き抜くのは大変なので、競争相手のいないジャンルで勝負しよう!→著者は「流通ジャーナリスト」と言う職業を自ら考案した。
■友達はお金に優る財産。「秀才」ではなく、「集才」を目指そう!→自分ひとりで全てに秀でる「秀才」になるには大変な努力が必要。しかし、さまざまな才能を持った人を集める「集才」なら簡単。ひとつでも得意分野を持って友達を惹きつけ、普段から互いに助け合い、いざとなれば全員の才能を集結させて事に当たろう。→自分が「窓口」になり、自分の周囲に人が集まるようになれば、現代社会の問題点や人々が求めているもの、世の中の流れが読めるようになる。才能を持った友達が多ければ多いほど、人生で苦労しない。
■(これから自らの人生を切り開く中学生に向けた言葉として) やりたいことが見つからないうちは、とりあえず勉強!→大学全入時代では、大学生であること自体には殆ど価値はなく、どの大学に入学したかが重要。
■教育ほど素晴らしい財産はない→工業製品は新製品が出れば価値が相対的に下がるが、教育によって身につけた知識や教養の価値が下がることはない。金のネックレスのように、国境を越えて、世界中どこにでも持っていける。しかも、これからは世界が活躍の場になる。そのために語学の習得は必要。
著者は教育に関してもコスト意識が徹底していて、自らの進学先も「教育は投資だ」との考えを基本に、「最もコストパフォーマンスに優れた大学」を選んだらしい(正確には、"よりラク<確実>な方法として"付属高校からの進学"を果たしている)。
その彼の論法からすると、私なんぞ、コスパ無視で大学を選択してしまったおバカさんである世の中、お金だけでは測れない価値もあると思うが、現実問題、私は大学卒業後、進学にかかった費用に見合った利益を上げるどころか、大学で学んだことを生かして1円の利益を上げることさえ出来ていない。
一方、一緒に卒業した若い友人達の多くは、学校教師としてのキャリアを着々と築いている。当時の私はと言えば、学業と家事との両立が必然であったので、夜間に授業のある教職科目を履修することには無理があった。何の制約もなければ、おそらく履修していたと思う。
こと「職業選択」の観点から見れば、日本社会の現状では、「できるだけ若いうちに学ぶこと」は重要だろう。若いうちにシッカリ学んだ人には、目の前に幅広い選択肢と大きなチャンスが与えられるはずだ。まさに「鉄は熱いうちに打て」である。自分のこれからの人生を戦略的に見据えると言う意味で、本書は(もちろん既に自覚している人は除くが)中学生をはじめ、遅くとも社会へ巣立つ前の若者に、一読を勧めたい。