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今や名実共に世界的な映画俳優となった渡辺謙の、
意外にも映画初主演作
(『天と地と』は白血病発症で無念の途中降板だったため、
本作が実質初主演作となります)。
ハリウッド滞在中に原作本と出会い、
その内容にいたく感動し、映画化を思い立ったという渡辺謙。
今回はエグゼクティブ・プロデューサーを兼ねています。
人間の真価が問われるのはどんな時なのでしょうか?
ひとつには、この映画で描かれたように、
病を得た時なのかもしれません。
それは同時に、周りにいる人間が試される時でもあります。
病を得た人間と今後も共に生きて行けるのか?
その人を変わりなく愛し続けることができるのか?
特に今回取り上げられたアルツハイマー病は、
それまで築き上げた人生を、人間関係を、思い出を
患者から奪い去るものです。
それは同時に、家族から、友人から、
(会社の同僚など)周囲の人間から、
かけがえのない人を奪い去るわけで…
とりわけ患者が徐々に衰え行く様子を、
すぐ側で見続けなければならない家族の哀しみは
いかばかりでしょうか?
今回は、主人公夫妻がほぼ同年代
(奥さんは私より5,6才年長ですが)なので、
やはり病を得た夫を支える妻の視点で見ずには
いられませんでした。
「私は枝実子さん(劇中、樋口可南子演じる妻)のように、
果たして振る舞えるのか?」
さまざまな場面に直面する中で、自問自答し続けました。
患者である夫と彼を支える妻の両方に
驚きがあり…戸惑いがあり…悲嘆がある。
そして絶望の後の受容。そこに至るまでのプロセスが
丁寧に描かれている。
ことさらドラマチックに悲劇性を強調することなく、
淡々と患者とその家族の数年を記録するような
抑制のきいた演出が、より現実的で、
見る側にも起こり得る問題として胸に迫って来ました。
「それでは、病を得たことは不幸でしかないのか?」
という問いかけに対する、この映画なりの応えは、
「人間、生きていりゃぁいいんだよ?」
という劇中の老陶芸家の言葉に
凝縮されているような気がします。