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(チラシより)
中国春秋戦国時代、諸子百家の中でも最有力の儒家(ジュカ)に、一時は拮抗する勢力を持っていたとされる墨家(ボッカ)。”他者を等しく愛せよ”という兼愛と”侵略と併合は人類の犯罪”とする非攻(専守防衛)を掲げ、戦乱の世で請われれば諸国に赴いて、防衛戦で陣頭指揮に立つ戦術家を多数擁した思想集団だったらしい。
本作『墨攻』は、その墨家の一員で、天才戦術家であった革離(カクリ)を主人公とする戦記物語だ。
(10年前に連載を終えた日本の漫画が原作らしい。原作漫画:森秀樹、原作小説:酒見賢一、漫画脚本:久保田千太郎。本国で忘れ去られていたものが、日本の小説、漫画で復活し、本国で映画化されるとは数奇なものだ)。
時は紀元前370年頃、戦国七雄のひとつ趙(チョウ)は、同じく七雄の一角を占める燕(エン)への遠征の途上、国境に立つ梁城に攻め入ろうとしていた。その趙(チョウ)の攻撃に抵抗すべく、小国梁(リョウ)は墨家へ援軍を頼む。刻々と迫り来る趙の大軍にやきもきする梁城の門前に姿を現したのは、みすぼらしい身なりの革離唯一人だった。たった一人で、趙国10万の大軍にどう立ち向かうと言うのか?
全編、血なまぐさい戦闘シーンが続く。城塞際での攻防戦と言えば、最近では『ロード・オブ・ザ・リング』や『トロイ』、『キングダム・オブ・ヘブン』等の戦闘シーンが思い出されるが、場所は違えど人間のやる事は大同小異だと改めて思った。戦術的に目新しいものはあまりない。とは言え、さすがは中国。『HERO』で既視感はあるものの、
人馬の動員はCGではなく実写というのがやっぱり凄い。城の前に居並ぶ大軍の威圧感は息をのむほどだ。日本映画で言えば、黒沢映画の『乱』にも似ている。
本作は春秋戦国時代の墨家の活躍を描くと同時に、人間の本質を描いて、胸がえぐられる思いだ。国を危うくするのは誰か?何なのか?何千年も前から人間の歴史では、愚かにも同様のことが繰り返されて来たのだろう。
墨家は秦(シン)による国家統一により春秋戦国時代が終焉を迎えたと同時に、忽然と姿を消したと言われる。彼らの思想信条は理想主義に走るあまり、現実世界の醜さと不完全さに適応できなかったのだろうか?
奇しくも非攻を旨とする墨家の思想は、専守防衛を謳う我が国の憲法の精神と一致する。しかし本作を見て、国を守るということは何を守るということなのか、改めて考えさせられた。おびただしい犠牲者によって守られるもの、築かれるもの。それが実はつまらないものだとしたら、虚しいだけだ。