はなこのアンテナ@無知の知

たびたび映画、ときどき美術館、たまに旅行の私的記録

キンキーブーツ("Kinky Boots"英国)

2006年08月29日 | 映画(2005-06年公開)


まず、「キンキーブーツ」とは何ぞや?と思った。
"Kinky"には①変態の、性的に倒錯した②奇妙な、変わり者の
という意味があるようだ。
直訳すれば”変態のブーツ””奇妙なブーツ”となるが、
一般にエナメルにスーパーヒール
(ヒールがとにかく高い!でも元々足が長いからバランスはOK!)
のセクシーブーツを指すそうで、別名”女王様ブーツ”!!
とにかくこの変態…もとい女王様ブーツが、
映画の重要なアイテムなのであ~る。

一言で言うとこの映画、個人のアイデンティティの問題に
『プロジェクトX』の企業再生物語を絡めたような作品。

「結局人間の考えることは洋の東西を問わず同質なものが多いね」
~宗教、神話、発酵食品の発明etc…~という私の言葉に、
「所詮DNAレベルでは同じ”種”ですから、
考えることに大差はないんですよ」
と知人が返したのを思い出した。
確かに、興味・関心だって似通っている。

Drag Queen、性同一性障害、中小企業再生、都市と地方の対立…
何だか洋画・邦画を問わず、最近何度も耳にした言葉、主題だ。



個人のアイデンティティの問題だって新しいようで、
実はけっして新しくはない。
自分は何者か?今の自分は本当の自分なのか?
古今東西で、自意識の強い人間なら
誰もが抱えていた問題なんじゃないか?

本作でも、主人公は恋人とのロンドンでの新生活を取るか、
故郷に戻って父親が遺した靴工場を建て直すべきか悩む。
―自分がいるべき場所はどこなのか?

もうひとりの主人公とも言うべきDrag Queenも、
幼い頃から自分自身の性に対し違和感を覚え、
伝統的価値観でその自分を否定し続けた父親との葛藤に
苦しんでいた。
―自分のあるがままを受け入れて欲しい。

と言っても、けっして深刻な悲壮な物語ではないのです。
英国流のウィットとユーモアが随所に散りばめられた、
ハートウォーミングなコメディ&サクセスストーリー。
実話に基づいた物語というのもミソ。
後味はいたって爽やか。美男美女が登場せず、
登場人物達の鈍臭さ加減も個人的には好みである。

何となく先の読めるストーリ展開とも言えるけど、
迫力あるパフォーマンスシーンを見せてくれた
キウェテル・イジョフォーの熱演は賞賛に値するし、
潰れかけた会社が、スキマ(ニッチ~この言葉が劇中
やたら出て来ます)
市場に目を転じて
活路を見出して行く様は小気味よく、
何だか自分まで励まされているような気がしてくる。

「楽しい映画を見て元気になりたいな」と思う方、
オススメです。

ところで「トランス-」って今の時代を象徴するキーワード
なのかな?
境界線を越える。固定観念から逸脱する。
偏見を払う。いつまでも旧来の枠組みに囚われていると、
時代から取り残されてしまうような気がする。
コメディでありながら、あまり笑えなかったのは、
観客の一部がやたらとDrag Queen絡みの話で大笑いすること。
確かに夫の言うように「映画を見て笑うこと」は大切だけど、
その大笑いの底に”偏見”や”蔑み”が感じられたんだなあ。

『キンキーブーツ』公式サイト

【ひと口メモ】

■主人公の故郷であり、靴工場があるノーサンプトンは
ロンドンから鉄道で1時間の中部イングランドの地方都市。
靴作りで有名な歴史のある町なんだそうだ。日本でもお馴染みの
高級紳士靴メーカーがあるらしい。職人の町なんですね。
そこにも国際化の波が押し寄せて来る。
職人の手によって丁寧に作り込まれた一生モノの靴が、
東欧の安価な粗製濫造品に圧されて、市場シェアを失う。
どこかで聞いたような話です。

■3月にロンドンを旅した時に、
ロンドン在住者から聞いた話が印象的だった。
「ロンドンは英国にあって英国ではない」
最初何のことか意味が飲み込めなかったのだけど、
地下鉄に乗っても聞こえて来るのは英語ではなく、
様々な国の言葉。どん欲にさまざまな国の人々を、文化を
吸収して、絶えず変化・成長する街なんだな。
そこでもひときわ新陳代謝が活発なSOHO地区。
そこでDrag Queenのローラは生きている。正に輝く女王様。
ローラを演じたキウェテル・イジョフォーは、
アフリカ系移民として初めてロミオとジュリエットの
舞台に立ったことでも有名。革新をもたらすのは、
往々にして外来者、異端者なのかもしれない。
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