日本海側に暴風雪の予報が出ていた2013年の暮れ、金沢に滞在していた。雪の兼六園を見ようと思って出かけたのだ。
雪が降らないので、輪島まで出かけた。能登有料道路は「のと里山海道」と名を変えて無料化されたばかりだった。金沢から輪島まで車で2時間。とはいうものの、朝寝坊をして出かけるのが遅くなったので、輪島の朝市には間に合わなかった。総持寺祖院、時国家、白米千枚田へ行った。
海沿いの急斜面に開かれた千枚もの小さな田んぼが日本海に落ち込んでいる。千枚田のビュー・ポイントに輪島市がつくった道の駅があり、そこの売店で千枚田のコメを1キロ1,050円で買った。観光土産だから値段はあってないようなものだが、同じ米食民族のインドネシアの首都ジャカルタの消費者米価は、最高級のもので、だいたいキロ100円程度だ。
「どう、うまかった?」とたずねられても、答えようがない。もっか原発風評被害で売れ行き不振の福島米支援のために買い込んだコメを食べているところで、白米千枚田は炊かずに年を越したままだ。
同じ棚田でも、インドネシア・バリ島の千枚田は常時緑に包まれ、山から水を引いて2期、3期の米作をしている。能登・白米の棚田は、冬になると冬眠状態にならざるを得ない。観光化することでなんとか生き延びている。
TPP交渉は昨年12月にシンガポールで開かれた会議でも話がまとまらず、合意は2014年以降に持ち越された。TPP交渉が妥結し、条約が国会で批准されたのちに、この白米千枚田はどう変わるのだろうか。
会議そのものが秘密のベールに包まれているので、時々、メディアが伝える内部情報らしいものをのぞけば、一体全体、TPP交渉で何が話し合われ、何が進み、何が難航しているのか、報道も評論も推測の域を出ない。
したがって、TPP賛成派も反対派も、大風が吹けば桶屋がもうかるふうの推論をたてて、それぞれがそれぞれのプロパガンダを述べているに過ぎないようなところがある。
TPPで日本の農業が壊滅するという意見がある一方で、安倍政権は「攻めの農業」を唱えている。
金沢へ出かける前に読んだ12月22日の朝日新聞書評欄で水野和夫氏がウォーラーステインの『近代世界システム4―中道自由主義の勝利―1789‐1914』を紹介していた。その中に「『近代世界システム』論の真骨頂のテーゼの一つに、「自由貿易は、じっさい、もうひとつの保護主義」がある。『それは、その時点で経済効率に勝(まさ)っていた国のための保護主義』だからである」と書かれていた。
そういう視点から眺めれば、TPPはアメリカの、アメリカ産業を守るための、政治的道具に見える。
米カーネギー財団の2004年の報告書 NAFTA's Promise and Reality: Lessons from Mexico for the Hemisphere には次のようなことが書いてある。
NAFTAによってメキシコでは1994-2002年の間に、製造業で50万人の雇用増があった。メキシコの人口の20パーセントが働く農業部門では、1994年以降130万人の離農者をみた。大勢の貧しい人々が米国に流れ込んだ。さらに、森林破壊、環境汚染などの副作用を増加させた。
この報告書は、途上国が先進国と貿易自由化協定を結ぶときは慎重な考慮が必要だと結論している。TTPでいえば、日本は途上国ではない。だが、日本の農業には途上国に似たもろさは全くないのだろうか?
(2014.1.4 花崎泰雄)
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