昨日の夜も、
少し暑くて
朝からぼやーっとしている。
こんな時は外に出るのが一番。
まだ日が高くなく、
緑の中は心地よい。
畑は、
夏の名残といった風情(?)である。
網をかぶせて
おサル君の悪さをガードしていた、
カボチャを確認。
眺めていると、
むらむらと来た。
Bのいて座、
我慢足りないのだな。
まだもうすこし収穫には早いかなって、
思いながらも、
手が出てしまった。
プッチーン!である。
ししとうも時期が過ぎると、
辛くなっている。
とはいえ、取っちゃいました。
写真は本日の成果(?)
ピーマンの肉詰めと、ピーマンのきんぴら、
カボチャは半分をスープにしてみようっと。
野菜は、ペットと同じように、
楽しみと幸せをプレゼントしてくれる。
昨日の続きです。
更生(後半部)
「中学校のS先生がな、あんたの成績やったら、この高校間違いのう受かるって太鼓判押してくれはったわ。去年出来た学校なんやし、やり直すには持って来いの条件なんやて」
久しぶりの朗報に、母ははしゃいでいる。その様子を見ると、自然に頭は下がった。
事件の日から審判の日、そしてきょうまで、気丈に取り乱しを見せなかった母の目に光るものがあった。事件の日、むせび泣いたのは意外にも父で、母は能面をかぶっていた。
(もうお父ちゃんやお母ちゃんの悲しむ姿は、涙は見とうない!)
痛恨の思いに囚われたあの日は忘れない。
数日後に高校受験を控えての定期訪問日。保護司のFさんは、にこやかに迎えてくれた。
「うん。今日はいい顔をしとるなあ。お母さんやお父さんもえろう喜んどるやろ」
「…はい!」
やっと表情が綻んだ。最近、Fさんの前に出ると緊張がほぐれる。自分が変わったのを実感させられる。
受験は合格した。通学に電車を数回乗り継いで一時間ちょっとかかる。学校はまだ仮校舎状態で、その分気を使わないで済むらしい。そのうえ、在校生は二学年だけだから気楽といえば気楽である。
ただ級友はみんな本来一年後輩にあたる。落第したかのような意識が学校生活の場で私を借り物の猫にした。合格の喜びはすぐに消えて、代わりに劣等感が支配し始めた。
「どないしたんや?少し元気があらへんな」
「い、いや、別に、大丈夫です」
Fさんとの面談は、そんな問答を繰り返すようになった。
ある朝、体がだるくて寝床を出られなかった。学校に行きたくない!そんな思いに捉われた。「腹が痛いねん」と仮病で休んだ。定期訪問の日なのに、どうでもいいやと連絡せずに訪問しなかった。
「保護司のFさんが来はったよ」
母に呼び起され、しぶしぶ自室を出た。
「やあ、元気そうやないか。安心したわ。気になってね、近くに来たもんやから、君の顔を見に寄ったんや」
Fさんは、いつもの優しい笑顔だった。
「……腹が急に痛うなって……学校を休んだんです。それで……」
「調子が悪うなったら誰でも仕方ないわな。まあ一日寝てて元気になったようやで、よかったやないか。もう大丈夫やな」
Fさんはドカッと座り込んだ。母が用意したお茶を美味そうに啜ると、世間話を口にするおじさんになった。
「誰かて時々息抜きせんと、やってられんよなあ。世間て、そない甘うないもんなあ」
Fさんの笑顔に何の変化も見られなかった。
「誤解せんと聞いてくれよ。今の君は、普通の立場じゃあらへんよな」
「……はい……」
「僕は保護司やけど、君を支え切れるようなすごい力は、実のところ持ち合わせてないんや。それでも君を見守ることは出来る。いいかい、普通に戻るために頑張らなあかんのは、他の誰でものうて、君自身なんやで」
Fさんの言葉は私の罪悪感を突き刺した。
「一度怠けたら、二度三度と平気に怠けられるようになってまう。周りの人たちも(あいつやからしようないわ)で済ますやろ。ええか、いま君がおるんは、そんな不安定なとこなんや。たった一度で、君が積み重ねた努力と覚悟はフイになってまうぞ。一度だけにしておくんや。そこを踏ん張るんやめたら、また親御さんの涙を見なあかんようになるぞ。そんなんいややろ。もう少しなんや、あとちょっと頑張ったら、意味は普通を取り戻せる」
項垂れたまま顔が上げられない。
Fさんは「よっこらしょ」と腰を上げた。
「また来週、待っとるから。いい報告をしに来るんやで。ああ、それと、今日の面談は欠席やからね。この減点取り戻すんきついぞ」
Fさんは何もなかったかのように、部屋を出た。トントンと階段を降りる音を聞いた。
普通じゃない。それがいま置かれている立場で、他の人に甘えようなんて論外だった。
「一度だけだよ」Fさんの言葉を復唱した。そうだ、その一度を繰り返しては駄目だ!
「行って来ます!」
朝一番の大声を出した。
「何やの、この子は」
驚いた顔の母をしり目に家を飛び出す。
何かが違う。体が弾んでいる!この調子なら、きょうは何もかもうまく行く。笑った。
ガラガラと洋瓦の屋根は崩れ落ちた。土埃がもうもうと舞い、建物は跡形もなくなった。
(あの日、ズル休みしなかったら…俺……?)
Fさんが私に接する好好爺ぶりは、保護観察期間が終了する日まで変わらなかった。私の更生の日まで二人三脚のパートナーだった。
土埃に咳込み後退った。洋館風の家も記憶も、瓦礫の山に埋もれてしまったのを悟った。(終わり)
少し暑くて
朝からぼやーっとしている。
こんな時は外に出るのが一番。
まだ日が高くなく、
緑の中は心地よい。
畑は、
夏の名残といった風情(?)である。
網をかぶせて
おサル君の悪さをガードしていた、
カボチャを確認。
眺めていると、
むらむらと来た。
Bのいて座、
我慢足りないのだな。
まだもうすこし収穫には早いかなって、
思いながらも、
手が出てしまった。
プッチーン!である。
ししとうも時期が過ぎると、
辛くなっている。
とはいえ、取っちゃいました。
写真は本日の成果(?)
ピーマンの肉詰めと、ピーマンのきんぴら、
カボチャは半分をスープにしてみようっと。
野菜は、ペットと同じように、
楽しみと幸せをプレゼントしてくれる。
昨日の続きです。
更生(後半部)
「中学校のS先生がな、あんたの成績やったら、この高校間違いのう受かるって太鼓判押してくれはったわ。去年出来た学校なんやし、やり直すには持って来いの条件なんやて」
久しぶりの朗報に、母ははしゃいでいる。その様子を見ると、自然に頭は下がった。
事件の日から審判の日、そしてきょうまで、気丈に取り乱しを見せなかった母の目に光るものがあった。事件の日、むせび泣いたのは意外にも父で、母は能面をかぶっていた。
(もうお父ちゃんやお母ちゃんの悲しむ姿は、涙は見とうない!)
痛恨の思いに囚われたあの日は忘れない。
数日後に高校受験を控えての定期訪問日。保護司のFさんは、にこやかに迎えてくれた。
「うん。今日はいい顔をしとるなあ。お母さんやお父さんもえろう喜んどるやろ」
「…はい!」
やっと表情が綻んだ。最近、Fさんの前に出ると緊張がほぐれる。自分が変わったのを実感させられる。
受験は合格した。通学に電車を数回乗り継いで一時間ちょっとかかる。学校はまだ仮校舎状態で、その分気を使わないで済むらしい。そのうえ、在校生は二学年だけだから気楽といえば気楽である。
ただ級友はみんな本来一年後輩にあたる。落第したかのような意識が学校生活の場で私を借り物の猫にした。合格の喜びはすぐに消えて、代わりに劣等感が支配し始めた。
「どないしたんや?少し元気があらへんな」
「い、いや、別に、大丈夫です」
Fさんとの面談は、そんな問答を繰り返すようになった。
ある朝、体がだるくて寝床を出られなかった。学校に行きたくない!そんな思いに捉われた。「腹が痛いねん」と仮病で休んだ。定期訪問の日なのに、どうでもいいやと連絡せずに訪問しなかった。
「保護司のFさんが来はったよ」
母に呼び起され、しぶしぶ自室を出た。
「やあ、元気そうやないか。安心したわ。気になってね、近くに来たもんやから、君の顔を見に寄ったんや」
Fさんは、いつもの優しい笑顔だった。
「……腹が急に痛うなって……学校を休んだんです。それで……」
「調子が悪うなったら誰でも仕方ないわな。まあ一日寝てて元気になったようやで、よかったやないか。もう大丈夫やな」
Fさんはドカッと座り込んだ。母が用意したお茶を美味そうに啜ると、世間話を口にするおじさんになった。
「誰かて時々息抜きせんと、やってられんよなあ。世間て、そない甘うないもんなあ」
Fさんの笑顔に何の変化も見られなかった。
「誤解せんと聞いてくれよ。今の君は、普通の立場じゃあらへんよな」
「……はい……」
「僕は保護司やけど、君を支え切れるようなすごい力は、実のところ持ち合わせてないんや。それでも君を見守ることは出来る。いいかい、普通に戻るために頑張らなあかんのは、他の誰でものうて、君自身なんやで」
Fさんの言葉は私の罪悪感を突き刺した。
「一度怠けたら、二度三度と平気に怠けられるようになってまう。周りの人たちも(あいつやからしようないわ)で済ますやろ。ええか、いま君がおるんは、そんな不安定なとこなんや。たった一度で、君が積み重ねた努力と覚悟はフイになってまうぞ。一度だけにしておくんや。そこを踏ん張るんやめたら、また親御さんの涙を見なあかんようになるぞ。そんなんいややろ。もう少しなんや、あとちょっと頑張ったら、意味は普通を取り戻せる」
項垂れたまま顔が上げられない。
Fさんは「よっこらしょ」と腰を上げた。
「また来週、待っとるから。いい報告をしに来るんやで。ああ、それと、今日の面談は欠席やからね。この減点取り戻すんきついぞ」
Fさんは何もなかったかのように、部屋を出た。トントンと階段を降りる音を聞いた。
普通じゃない。それがいま置かれている立場で、他の人に甘えようなんて論外だった。
「一度だけだよ」Fさんの言葉を復唱した。そうだ、その一度を繰り返しては駄目だ!
「行って来ます!」
朝一番の大声を出した。
「何やの、この子は」
驚いた顔の母をしり目に家を飛び出す。
何かが違う。体が弾んでいる!この調子なら、きょうは何もかもうまく行く。笑った。
ガラガラと洋瓦の屋根は崩れ落ちた。土埃がもうもうと舞い、建物は跡形もなくなった。
(あの日、ズル休みしなかったら…俺……?)
Fさんが私に接する好好爺ぶりは、保護観察期間が終了する日まで変わらなかった。私の更生の日まで二人三脚のパートナーだった。
土埃に咳込み後退った。洋館風の家も記憶も、瓦礫の山に埋もれてしまったのを悟った。(終わり)