老い生いの詩

老いを生きて往く。老いの行く先は哀しみであり、それは生きる物の運命である。蜉蝣の如く静に死を受け容れて行く。

67;エトルリアの涙壺

2017-05-03 18:18:18 | 文学からみた介護
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阿武隈川が流れる流域では 田んぼに水を張り まもなく田植えが始まる

古代イタリアのその国では 
だれの家にも陶製の小振り壺があった
人に言えない辛さや寂しさの涙を
この壺に密かに注ぐ
それは「エトルリアの涙壺」と言われていた
お蔭で、エトルリアの人々はいつも元気で 
朗らかだったそうです

先日 道尾秀介著『光媒の花』(集英社文庫 2012、10、25発行)のなかの
「第1章 隠れ鬼」という連作短編小説を読んだ
母の認知症は「日向(ひなた)に落とした飴玉のように、ゆっくりと溶けていった」(12㌻)
という表現は流石(さすが)作家だなと感心した
認知症の母とひっそり暮らす息子の心情を描く
「いつか母が死に、自分が死んだら、父の遺したこの店(いえ)はどうなるのだろうか」(15㌻)
老いた母親と老いの門をくぐり始めた息子との二人暮らしは
高齢社会を垣間(かいま)見る思いであった


燕(つばめ)が低く飛ぶと
雨になると言われている

66;老母親の想い、子の想い

2017-05-03 10:53:06 | 老いの光影
南陸奥 綿毛のたんぽぽ 
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齢(よわい)を重ねるにつれ、
物忘れや家事の一つひとつを最後まで成し遂げることが怪しくなってきた土田光代さん(仮名86歳)は、
息子との二人暮らし。
長男の不二雄さんは、
新幹線が停車するK市駅の近くにあるデパートに勤めているため、
日中は一人 家で過ごす。
数年前から認知症が進み、
息子宛てに電話がかかり、息子が家に居ても、「家には居ない」と受話器を手にしながら話している。
紳士服売場での仕事は時間通りに終えることができなく、
家路に着くのは21時を過ぎてしまうことも多い。

家のなかは静寂であり、老いた母親はもう寝床で眠りについていた。
キッチンに行き電気釜の蓋(ふた)を開けてみると、
手つかずのご飯が残されており、
夕食を食べていないことがわかる。
「長男がお腹を空かし、そろそろ帰って来るだろう」からと、
光代さんは台所に立ち肉や人参、ジャガ芋を鍋に入れガスコンロにかけ火をつける。
思いとは裏腹に、鍋は真っ黒に焦げ、
その鍋はキッチン下の収納庫に置かれてあった。
その後も、味噌汁を温めようとして、
鍋を焦がすことがときどきあり、
家が燃えてはいないかと心配しながら仕事している・・・・。

また浴槽の湯はりのため、湯を出しっぱなしにするが、
「お湯をだしていること」を忘れてしまい、
浴槽から溢れ、流れ出していることが週に1、2回ほどあったりした。

昨年までは便所での用足しを出来ていたのだが、
それも今年に入り便所での「用足しかた」を忘れるようになった。
パンツ型紙おむつと尿とりパットを着けるようになったが、
濡れたパットを枕下や敷布団の下に、
紙おむつは箪笥のなかに隠したりし、
それを注意すると「私ではない」と哀しい声を上げて泣くこともあった。

同居している息子、娘や息子夫婦、娘夫婦たちは、
認知症を患っている親に対し、
「何もせずに“じっと”座って居て欲しい」と懇願する。
何もしないで居てくれることの方が子ども夫婦にしてみれば「助かる」のだが・・・・。
子どもから世話を受けるような身になっても、
老いた母親は「わが子を心配」し、
煮物や味噌汁を作ったり温めたり、
浴槽の湯をはったりするのである。
物忘れなど惚けていても「家族の役に立ちたい(誰かの役に立ちたい)」という気持ちを持っている
しかし、ガスコンロに鍋をかけたことや
浴槽にお湯を出していることを忘れてしまい、
反対に息子や息子嫁などに手を煩わせてしまう結果に陥ってしまう。

認知症の特徴の一つは、
鍋をかけたことや浴槽にお湯を張っていたことを忘れただけでなく、
忘れてしまった、そのことさえも忘れてしまうのである
「出来ていた」ことが「出来なくなった」り、
ひどい物忘れにより生活に支障がでることで、
親子関係や家族関係のなかに葛藤や軋轢が生じてくる。
認知症になってしまった母に対し上手く対応できるのは難しく、
問い詰めたり怒ったりしてしまいがちである。
これが「他人の関係」ならば案外上手くいくけれども、
それはいくら「他人の関係」であっても、
認知症を抱えた人は、「命令」や「指示」、「怒ったり」するような介護者には寄りつかなくなり
その人から離れて行ってしまい、
「家に帰る」と言って落ち着かなくなることさえある。

訪問介護サービスのひとつのなかに「生活援助」がある。
同居家族が居ても、
その家にヘルパーが来て、
認知症のお年寄りと一緒になって
調理や掃除、洗濯などの家事を行うサービスがあってもよいのではないか。
また民家を活用した10名定員の桜デイサービスセンターは、
利用者と一緒になって昼食の準備や後片付けを行っている。
認知症があるために、
調理の手順や仕方を忘れてしまい「出来なくなった」けれども、
ヘルパーや介護スタッフが傍に居て手助けしてくれることで、また一緒に行うことで、
「出来ない」ことも「出来る」ようになり、
そのことによって認知症状が穏やかになり心までが落ち着いてくる。

65;蹴らないでくれ

2017-05-03 03:01:23 | 文学からみた介護
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食道癌の手術前後 病床で書いた高見順の詩「小石」 
蹴らないでくれ
眠らせてほしい 
もうここで 
眠らせてくれ


私たちは道端にある小石を
何気なく足蹴りをすることがある
そんな小石にも
生命があることさえ忘れている

石と言えば 
「景石」という言葉がある
景石は庭園美を構成する重要な材料であり
景石は 捨て石とも言われ 
主役的な庭石を引き立てるためには置かれる
捨て石は 無造作に何気なく置いてあるように見せて
実は急所を押さえた場所に据える石のことである

石を更に砕くと砂になる
星砂は 
文字通り星の形をした砂のことで
南海に浮かぶ小さな竹富島に
「星砂の浜」がある
小さいビンに詰まった星砂が
キーホルダーになってお土産として売られている
幸せを運んでくる星砂