「死者の書」
折口信夫著 ちくま日本文学全集所収
折口信夫の「死者の書」であるが、昔から何度かチャレンジをするのだが、いつも途中で挫折してしまい、最後まで読み通すことができなかった。それはそれで積読になってしまうことが多いのだが、何となく気になる本だったので、何年かに一回のタイミングで本棚から出してきて読もうとする。しかしながら、そのたびに失敗していた。その当時、持っていたのは中公文庫版の「死者の書」であった。
↓これですわ
たぶん旧仮名のままだったので、それがダメだったのかなあ。そして、ちくま日本文学全集版「折口信夫集」入手、現代かな使いに改められて読みやすくなったおかげで今回見事に読了できた。
「死者の書」については、とにかく大津皇子がよみがえる(意識だけ?)ところの描写に惹きつけられた。「した した した。耳に伝うように来るのは、水の垂れる音か。ただ凍りつくような暗闇の中、おのずと睫と睫とが離れてくる。」この部分が、非常に耳に残る。そして、古墳の石室の中で徐々に意識が覚醒していく描写は、本当にぐいぐいと読者を惹きつける、自分も永遠の眠りに入ったときはこうなのかという気すら覚える。
作家堀辰雄も「死者の書 -古都における初夏の夕暮れの対話-」という一文を書いている。(最近すっかり堀辰雄づいてるな。)その中で、「森の奥の、塚のまっくらな洞の中の、ぽたりぽたりと地下水が巌伝いにしたたり落ちてくる湿っぽさまでが、何かぞっとするように感ぜられた。」と書いている。
とにかく暗闇の中の描写がとにかくいい。古代からの息遣いが聞こえてくるような気すらした。
そして、中将姫との邂逅、そこから物語は中将姫を中心に動くことになるのだが、つまり、中将姫が神隠しにあい、その行為が原因で大津皇子の魂を呼び覚ましてしまうことになるというところなんだろうか。後半は、藤原仲麻呂や大伴家持などが出てきます。それだけなんですが・・・。
そこからが、僕自身は、この物語にあんまり魅力を感じなくなるのだなあ。それは、もっとロマンス的なものをイメージしていたからだろうか。
とはいえこの小説に触発されて、実際に二上山に登り大津皇子のお墓も見てきた。近年、二上山の麓で発見された鳥谷口古墳が大津皇子の本当のお墓ではないかと言われているが、この物語の成立には二上山上に大津皇子が眠っていないといけないような気がする。
ただ、折口信夫氏については、古代研究を始め、まだまだ興味深い著書があるので、もう少し食いついてみたいと思う。
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