●今日の一枚 4●
Gerry Mulligan
What Is There To Say ?
夜も深まった頃、ゆっくりとバーボンの(ウイスキーでもいい)氷を溶かしながら、戦い疲れた傷を癒すために聞く。これがこのアルバムの正しい聞き方だろう。バリトンサックスは不思議な楽器だ。闇のずっと奥のほうから、やさしく立ち上がってくる、そんな音だ。
印象に残るのは、やはり①What Is There To Say ?だ。冒頭のこの曲こそが、アルバム全体のトーンを決している。
Gerry Mulliganについては、名盤『Night Lights』をずっと聞いていた。いい作品だ。1958~59年録音の本作What Is There To Say ?をしったのは、和田誠・村上春樹『Portrait In Jazz』(新潮文庫)によってである。同書の中で村上春樹はこういっている。
「アート・ファーマーのソフトなトランペットと、ジェリー・マリガンの深い夜のように優しいバリトン・サックスのサウンドが、僕らを魂のくぼみのような場所に運んでゆく。傷ついた魂だけがありかを知る、その密やかな場所に。」
至言だ。
(村上春樹の音楽についての文章は、多くの場合、その小説以上におもしろい)