● 今日の一枚 15 ●
Blossom Dearie
My Gentleman Friend
写真でみる若い頃のブロッサム・ディアリーは、きれいだ。美しい人だ。この写真の人があのようなかわいい声で歌っていると想像するだけで、どきどきしてしまう。年老いたブロッサムについてはあまり語りたくはない。
最近、油井正一『ベスト・レコード・コレクション・ジャズ』 (新潮文庫)という古い文庫本を書棚で見つけた。1986年にでた本だ。きっとその頃買ったのだろう。この本の中に、林真理子の「ブロッサムのように」という短いエッセイがあった。とくにどうという内容の文章でもなかったが、私はその文章ではじめてブロッサム・ディアリーという歌手を知った。そして、エラでもシャーリーでもないというその歌声に想いをめぐらせた。早速?(よく憶えていない)、名古屋の大きなレコード店に買いにでかけた(当時わたしは名古屋のすぐ側のまちに住んでいたのだ)。林真理子が紹介していた Once Upon A Summertime の入った同名のレコードがあった。しかし、わたしはそのレコードを買わなかった。そのレコードのすぐ後ろにあったMy Gentleman Friend という作品を買ったのである。理由はもちろんジャケット写真である。上の写真をみれば、多くの言を費やす必要はあるまい。私は、ブロッサムの写真に恋してしまったのだ。(Once Upon A Summertime のジャケットをご存知の方は、より深くご了解いただけると思う)
内容は……。これがまた良かった。本当にかわいらしい声だった。声量があるわけでもなく、ずば抜けたテクニックがあるわけでもないが、なんともいえない雰囲気をかもし出す歌手だ。side-B最後の曲、Someone to watch over me が好きだ。アン・バートンやチェット・ベイカーの名唱があるが、それらに引けをとらないトラックだ。リラックスした雰囲気の中にも、誠実な人柄がにじみ出るような歌い方がいい。「やさしき伴侶を」という日本語訳もいいではないか。夫であるボビー・ジャスパー(fl)がサイドメンのひとりだということもあるのだろうか。静かで落ち着いた雰囲気の中、淡々と歌うその声が誠実さを感じさせるのだ。
この作品は最近廉価版CDでも発売されたので、是非一聴をお勧めする。ところで、私がOnce Upon A Summertime のレコードを買ったのはそれから数年後のことだった。