王様の耳はロバの耳

横浜在住の偏屈爺が世の出来事、時折の事件、日々の話、読書や映画等に感想をもらし心の憂さを晴らす場所です

「終戦のローレライ」を読む

2007-03-09 08:20:26 | 本を読む
先にDVDで「ローレライ」を見ましたが原作を読むと良いとコメントしてくださる方がいました
そこで図書館から講談社文庫の4冊からなる本作品を順次借り出して読んでいるところです
福井晴敏作品は主たる登場人物が何故そのように考えるか、そう行動するかが濃密に書き込まれているので4巻全部を読破するまで記憶が持ちません
今3巻の半ば過ぎですがここ迄の印象を記します

福井氏は日本人それぞれの立場(指導者、軍人、国民、兵隊 その総和の日本国)で昭和20年前後を生きるとき個々には一所懸命なのだがどこか目的が曖昧な所を指摘している様です 時の国際情勢の中でなぜ中国での戦火拡大なのか、日独伊三国同盟なのか、何故対米英開戦なのか、徴兵されなぜ死ぬのか、銃後の人は何故、なぜ、なぜ、なぜ あらゆる理不尽を様々に書き込みます

第1巻では昭和20年7月15日ドイツ潜水艦UF4が日本への回送中に五島列島沖で米国潜水艦「トリガー」に襲われます 秘密兵器のおかげで撃沈は免れますが秘密兵器を搭載した小型潜航艇ナーバル(一角くじら)を海中に投棄せざるを得ない損害を受けました
さて7月24日軍令部第一課長朝倉良橘大佐の命令でUF4改め戦利潜水艦イ507号の艦長に「3年も陸で干されていたロートル少佐」絹見(まさみ)少佐が任命されます 二日に亘る米軍の大空襲で呉軍港と周辺施設が壊滅する中、寄せ集めの乗組員を拾い集め辛うじて出港します
潜水艦には先任将校高須大尉、田口掌砲長、折笠と清永上等工作兵 それになんとUF4の乗組員であったナチス親衛隊士官フリッツ・エブナー少尉等怪しげで多彩な人物が乗り組んでいました
それから更に2日?後軍令部から大湊大佐が朝倉大佐の行方を追って空襲後の呉に調査に来ます どうやらイ507号出港以来行方不明の様です 空襲のドサクサにまぎれる様「個人的意図」でイ507号を使っている様です
さて第2巻です
呉出港後寄せ集めの乗組員を相手に艦の慣熟訓練が繰り返されます
訓練の合間先任の高須と艦長の絹見が会話します
「高須はガ島沖海戦で乗艦が沈められた際、総員全滅の様な状況に置かれます 一人逃げる気もなく艦と運命を共にしようとした所カッターが通り将校が手を振るのでそれに泳ぎ着きました 3日漂流の後味方に救助されましたが他の将校等いません 幻影でした 死を覚悟した筈なのにいざとなるとまぼろしを見てまで助かりたいのだと」又絹見は「潜水艦長として特殊潜航艇による真珠湾攻撃に成功した後内地への引き上げを命じられます もっと前線で命がけの仕事をしたいのに!気持ちが荒れます そんな折少壮の海軍将校であった弟が反帝国運動の会議に参加し憲兵に逮捕されます」弟の抗弁は「開戦慎重派を敗北主義と断罪するだけで敗北しかない道を選んだ軍首脳に飽き足らず外部からの改革を検討した 勝ち目の無い戦を回避する事に全力を注ぐべきでないか 戦いを止めるために発揮する勇気、それが本当の勇気だ 国民全員にもそうした気概があれば列強大国の狭間に有っても主権が維持される」そして兄の絹見を「女子供まで巻き込んで殺傷しないよう冷静でなければいけない軍人がその事から目をそむける為生死のやり取りに充足している」と指摘します
この指摘に対し絹見は感情で応えます「妾腹の分際で、家名に泥を、考えをかえろ、変えなけ家をで出て行け」と 弟は唯一の理解者と心許した兄の言葉に絶望します 翌日「至誠に悖(もと)るなかりしか」とだけ書いた遺書を残し首吊り自殺します それ以降の海軍人生の韜晦 四代に亘る海軍一家に対する事無かれ主義 3年半の逃げの人生に終わりを告げ再び乗員70数名を預かり逃げガの無い戦場に向っています

何やらいわく有りげで行方不明の朝倉大佐、心に深い陰のある艦長と先任 ドイツの戦利潜水艦 人も物も「規格外」の一団は五島列島沖を目指します
「ローレライを回収せよ」との命令を実行するために
第2巻第2章1 終わり
続く
コメント
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