王様の耳はロバの耳

横浜在住の偏屈爺が世の出来事、時折の事件、日々の話、読書や映画等に感想をもらし心の憂さを晴らす場所です

「終戦のローレライ」を読む その5

2007-03-27 12:09:43 | 本を読む
「終戦のローレライ」を読む その4の続きです
第3巻第4章3
折笠・清永のイ507への回収騒ぎで「予定よりうんと早くなった艦内の(反乱による)制圧」
土谷中佐他日系二世4名とイ507にいた「伏せ手(朝倉大佐の息の掛かった部下)6名(田口掌砲長、高須先任他4名)」によりイ507乗り組み員は簡単に制圧・監禁されてしまう

発令室に向う田口のつかの間の回想
ある島(前後の記述でガダルカナル島と思われるが微妙な記述がある為具体的指摘を意図的に避けている)での極限状態 潜水艦でのもぐら輸送、艦を沈められなんとか上陸した十数人、糧食をもつ彼等を襲う餓鬼の様な日本兵の群れ、恐怖と絶望の中で「中隊長」との出会い 繰り返し命令される不可能な作戦 そして犬死 それより生き延びて次の局面で国の役に立つ事を意図する軍人 そんな彼の元に寄せ集めの兵隊30数名が工夫を凝らして生存する

しかし迫り来る米軍の攻撃と日本兵の敗残兵との争いで2ヵ月後には半数になる
そして米兵の肉を食っていたらしい今は仲間に入った大尉の話、最後の争いで負傷した部下のために薬品探し、ねぐらにもどると戦死した兵の肉を茹でている大尉 迫り来る飢えと人としての尊厳  
中隊長(ミッドウエー海戦敗北の日に志願してこの島に転属を希望、海軍陸戦隊指揮のため軍令部員の身分を捨てた男 つまり朝倉大佐)は大尉を許します
そして全員に語る「一線を越えたら後戻りは出来ない 地獄の釜の蓋が開く 腹は満ちても魂が飢え続ける」「この飢えが1億の民が餓鬼となる前に、《空前の飢えに耐え、なお人である尊厳の在り処を、民族100年の道を》見つけねばと結ぶ」

やがて本当の地獄が始まる。 喰えば生き延び喰わねば腹がすく。 敵は居ないし死体は3日で腐る。 喰えれば死なない、死ななければ喰えない 最初から予想された二律背反。 当然みなの目は仲間の負傷した一等兵に向う。それと本能的に察して起きている限り歌を歌う一等兵。そして空腹の極限に。 中隊長より小銃を渡される田口、恐怖と絶望の窮まりに叫んだ 「おかあチャン」
それから更に二週間、ようやく撤退命令がでた さらに一名をその為に減らして八名になって

軍令部に返り咲き大佐に昇進した朝倉から二年ぶりの連絡:
戦利潜水艦、秘密探知兵器、米国との取引と遠大な計画を披露。人肉を喰らっても、人間としての尊厳の有り方「あるべき終戦の形」を具体化して参加を呼びかけてきた 伏せ手6名のうち4名は撤退組 高須、榛原は他の戦線で地獄を見た手合いだ。
中隊長がどれほどの海軍部内の人間を巻き込んだのか?米軍の窓口は?一度だけ聞いた「東部エスタブリッシュメントの皮を被った魔物」田口の頭では理解できない
イ507出港以来のしつこい米軍の攻撃、そしてウエーク島での土谷の涼しい顔をした米軍の特使 これが中隊長の言う国際社会の現実であろう

発令室に着くと土谷にイ507の幹部が集められて居る 折笠も片隅に
状況の変化にあわせテニアン島の朝倉大佐との間に無線電話が繋がる
朝倉大佐と絹見艦長の会話は艦内無線で乗組員に同時届く
朝倉大佐は説得する
「ポツダム宣言の受諾(無条件降伏)を突きつけられ原爆を2発落とされれば日本は降伏か全滅か子供でも分る それを軍部は分ろうとしない 国体護持が条件とか、徹底抗戦とか唱える者居る 更に許せないのはそんな事不可能だと腹で思いながらその打開策にすがり付いている者だ 最後は陛下のご意思に従うと言い国の存立に目を向けない者たちだ 明日からは多くの兵士を殺しておきながらのうのうと生き延びる連中だ 我々は米国には負けたがこの連中には勝たねばならない」「こんな軍人がなにも総括しないで消えたら国民はどうなるのか 圧倒的物流を誇る米国の豊かさに抵抗するには《神州だの現人神だの存在しないぎりぎりの所で日本人とは何かを問い直す事だ》 米国に犯される前に舌を噛んで死ぬ事だ」
この国に切腹という形でけじめをつけるべく行動を起した
「ローレライとイ507はその為の介添え役である」絹見は答える「そんな事は空理空論である」朝倉「極限の飢餓に至らない者は簡単に餓鬼道に転ぶ 一億玉砕など愚かな政策を受け入れる(馬鹿な国民)この無定見な従属は無責任に繋がる 東京都そこにあるもの全て自ら壊さぬと10年後に新生日本はない」
そのため我々(朝倉)は米国と取引した---ローレライと引き換えに小倉に落とすべき3発目の原爆を東京に落とす
絹見「陛下を失えば徹底抗戦はを抑えるものは何もなくなる 日本全土が焦土となるまで戦うぞ」「そうかもしれない 4,5発目の原爆が落とされ国民の半数以上が死んだとしても全滅でない そうして生き残った者こそ漉し取られた一握りの種だ」「イ507は米海軍と合流氏、生き延びてくれ」

絹見は瞬間迷う 軍への忠誠? 国家の指導者が間違えたならそれを正すのが軍人。そのために支払われる犠牲が真の殉国であり報国 悔いない燃焼のこの一瞬を待っていたのでないか?
しかし思いは折笠の声で破られます
---でも東京に居る人はみんな死ぬ 
あんたたち大人が始めたくだらない戦争で、これ以上人が死ぬのは真っ平だ---
その叫び声で絹見も朝倉の伏せ手であった高須先任、田口掌砲長、笠井通信長も

折があれば騒ぎにまぎれパウラと脱出を考えていたエブナー少尉は隠し持った武器を岩村機関等、小松少尉らに配りイ507の指揮権奪回に勤めます
高須は土谷に射殺され土谷は田口に射殺され田口は腹部に重傷を負いその間に艦の秩序は回復されました パウラの特殊能力で「原爆搭載機の離陸は12日朝9時30分」と分りました
この間の音信不通の後で朝倉から通信「ローレライを手に入れようと入れまいと米国は東京に原爆を落とす」そして「イ507は米艦隊に合流しようがしないが自由《日本は(私は)日本の有るべき終戦の形を手にした》」
絹見が答えます「ローレライは貴方の望む終戦のためには歌わない
朝倉は無言、イ507にはその言葉を必要とする者は居なかった

第3巻第4章終わり 第4巻へ

爺の補足:
「終戦のローレライ」のTVでの放映に誘われて
1:朝倉大佐が何を言いたかったのか
2:朝倉の部下(特に高須先任と田口掌砲長)は何故絹見艦長に従ったのか
3:ローレライとはどの様な武器なのか
4:作家は何を言いたいのか などの輪郭が見えてきました
5:朝倉大佐の強烈な「妄想」の呪縛に「高須や田口又軍令部部下達は縛られてしまったのでしょうね」
6:折笠の一言で「呪縛から解放された」という事でしょうか
7:第4巻は戦闘場面が主です 簡単に纏めましょう それでお仕舞いです


「終戦のローレライ」 その6に続く
コメント
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