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<加計学園問題>獣医学部をめぐる「本当の問題」は何か

2017-06-28 22:08:15 | その他(国内)
(当エントリは、当ブログ管理人が月刊誌「地域と労働運動」2017年7月号に発表した原稿をそのまま掲載しています。)

 岡山県の学校法人「加計学園」が愛媛県今治市に開設を予定している獣医学部をめぐり、開設予定地の土地が加計学園に無償で払い下げられたとされる問題に関連して、獣医学部の現状を以下の通り述べておきたい。

1.現存する獣医学部

 まず、現在日本国内で獣医学に関連する学部学科を置いているのは以下の16校である。



2.獣医師をめぐる現状

 獣医師法を所管する農林水産省が公表している最新版(2014(平成26)年)のデータによると、現在、獣医師免許保有者は全国で約39,100人。その内訳は産業動物(牛・豚・鶏・馬・羊・山羊など)の診療業務をしている者が全体の11.0%、農水省、厚労省、保健所・家畜保健衛生所(各都道府県に設置)などの官公庁に勤務する公務員が24.2%、小動物診療(動物病院など)が38.9%、その他が14.2%。この他、獣医師免許を持ちながら獣医師業務に就いていない者(いわゆる「ペーパー獣医」)が11.6%となっている。

 注目すべきなのは、産業動物診療に従事している人よりもペーパー獣医の数の方が上回っていることである。この背景については3で考察する。


出典:「獣医事をめぐる情勢」(農林水産省消費・安全局畜水産安全管理課、2016年)

 獣医師になるには、獣医学部・学科を卒業し、獣医師国家試験に合格、獣医師免許を受けることが必要である。獣医学部はかつては4年制であったが、1983(昭和58)年から医学部などと同様、6年制となった。獣医系学部学科を擁する大学は1で見たとおり、全国で16校ときわめて少なく、国立大学の募集定員は毎年30~40人程度のことがほとんどである。私立大学ではこれより多く、100名を超える獣医師希望者を入学させているところが多いが、獣医系学部学科を擁する私立大学は首都圏に集中しており、6年制であることとあいまって多額の学費がかかるため、首都圏の富裕層の学生以外にはほぼ門戸が閉ざされているのが現状である。

 獣医学部を卒業した者の就職先は、公務員(農水省、厚労省、地方自治体の保健所、家畜保健衛生所)、(2)産業動物診療(全国各地の家畜・畜産農協など)、(3)小動物診療(動物病院、動物園など)にほぼ限定されており、多額の学費を要する割には就職先が少ないのが実情である。近年、特に人気を集めているのが(3)の分野で、独立して動物病院を開業した獣医師の中には年収が3,000万円を超えるケースも見られる。

 ペットとして飼われている頭数(2015年現在)は犬が992万頭、猫が987万頭で計1,979万頭。一方、0~14歳の子どもの人口(2015年現在)は1,617万人。すでに日本は「14歳以下の子どもよりも犬・猫の方が多い」という状況に突入している。調べたわけではないが、この数字を見る限り、日本では小児科より動物病院の方が多くても別に不思議ではない。

 日本で、少子高齢化と空前のペットブームが同時進行していることが示されている。ペットのうち、犬は2008(平成20)年以降、頭数が急速に減少しているが、猫は横ばいか微増で推移。一方で子どもの人口が右肩下がりで減少しているため、このような状況が生まれている。高齢者が犬を引いて散歩している姿は今や日本の日常風景だ。


出典:左「獣医事をめぐる情勢」 右「我が国の子どもの数~こどもの日にちなんで~」(総務省統計局、2015年)

 獣医系学部学科を卒業後の獣医師の就職先は2で見たとおりである。このうち(1)公務員の年収は一般的な事務職公務員とほとんど変わらず、30~40代の中堅で500万円程度が相場だろう。仕事の内容は保健所での犬の予防接種や、道路で車にひかれた動物の死体の処理など、重要だが地味で目立たない仕事が多い。それほど高給でない代わりに、産業動物を扱う機会は多くなく、重労働でないため、安定志向の人には向いている。実際、獣医師の4分の1がこの分野への就職である。

 (2)産業動物診療は、最も人手不足に苦しんでいる分野である。就職先である家畜・畜産農協は小規模で経営が苦しいところが多い。扱うのは産業動物がほとんどで、重労働である割には待遇が低い(公務員以下のところが多い)ため、獣医師志望者には長く敬遠されてきた。

 獣医師志望の女子小学生が大人になって夢をかなえ、新潟県内の家畜農協で獣医師として活躍を始めるまでを描いたドキュメンタリー「夢は牛のお医者さん」(2014年、テレビ新潟制作)が日本獣医師会の推薦映画となり、全国で獣医師会による自主上映が開催されるなどの出来事もあった。最近の農水省による「産業獣医増加」キャンペーンもあってこの分野の仕事の重要性が認識され、徐々に志望者は増えつつある。それでも、この分野に進む獣医師は11.0%に過ぎず、「ペーパー獣医」さえ下回っている。

 (3)の小動物診療についてはすでに見たとおりであり、独立開業した動物病院経営者の中には年収が3,000万円を超えるケースもある。扱うのは犬、猫、小鳥などがほとんどで、重労働でない割には「実入り」がよいため、商才のある人を中心に、獣医師の4割がこの分野に進んでいる。

3.獣医師をめぐる「本当の問題」は何か

 以上、最近の獣医師と獣医系学部学科をめぐる情勢を見てきた。ここまでの考察で明らかになったとおり、日本の農業(畜産・酪農)の維持発展を図る上で最も重要な産業動物診療分野に進む獣医師志望者が極端に少なく、ペーパー獣医が産業動物診療分野への就職者を上回って全体の1割を超える点こそが、獣医師をめぐる最大の問題である。

 重労働で、かつ有意義な仕事でありながら、その国民経済・社会に対して果たしている貢献・重要性が正当に評価されず、低待遇が放置された結果、有資格者が大量に眠ったまま出てこない状態が長期にわたって続いているという意味において、保育士・介護士などと同様の構造的問題がある。今、獣医師に対して早急に日本社会がなすべきことは、その仕事の重要性を正当に評価し、獣医師の待遇を引き上げ、即戦力でありながら眠ったままのペーパー獣医の獣医師業務への復帰を促すことである。

 この観点に立つならば、「重労働・低待遇」を放置したまま、単に獣医師への門戸を広げるだけでは問題解決にならないことが理解されるだろう。元々志望者が殺到する分野でない、特殊な世界であることは、全国16大学の獣医系学部学科の募集定員が年1,000人に満たないことからも明らかだ。1966(昭和41)年、北里大学が青森県に開設した獣医学部を最後に、半世紀以上にわたって国が獣医学部の新設を認めてこなかったのにはこのような理由がある。

 加計学園に獣医学部の設立を認める安倍政権の方針は、その意味でも唐突すぎるものであり、安倍首相直属案件として「オトモダチ」加計孝太郎理事長への便宜を図ろうとしたとの指摘は間違っていない。最近の「安倍1強」体制下での安倍政権の腐敗と公共領域の私物化は目に余る。本資料を安倍政権追及のための一助としていただければ幸いである。

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