
大橋巨泉さんが亡くなった。82歳だった。
今年に入ってデヴィッド・ボウイやらプリンスやら冨田勲やら永六輔やら、とにかくビッグネームの訃報が相次いでいるが私にとっては今のところ今年一番堪える知らせだ。
ジャズ評論家としての巨泉さんを、私は知らない。ハッパフミフミもゲバゲバもリアルタイムではない。麻雀・競馬・釣り、それにお色気を取り上げた11PMだって、親に「観るな」と言われてきたのでほとんど記憶にない。
我々のような50歳手前の世代には、やはり圧倒的に「クイズダービー」の名司会ぶりだろう。その前の「お笑い頭の体操」から覚えてはいるのだが、あのボケボケの篠沢教授、何でも知ってるはらたいら、三択の女王・竹下景子らを巧妙に回すあの名調子は忘れられない。
その後も「世界まるごとHOWマッチ」や「巨泉のこんなモノいらない」でも名司会ぶりは存分に発揮されたが、後年セミリタイアされるまでをひとつの芸歴とした場合我々が知っているのはかなり後半だけなのかもしれない。
口調だけを捉えれば偉そうだったのかもしれないが、反対に子ども心に
「司会とは、これぐらいにどっしり構えるもの」
と巨泉さんに刷り込まれてしまったせいか、観ていて全くイヤな気持ちにはならなかった。
イヤな気持ちにならなかったのは、その圧倒的なバックグラウンドと懐の広さだろう。私はタバコこそ吸わないが酒も人並みには飲むし馬券も買うし、機会があれば釣りも麻雀もするのだが、果たして巨泉さんが教えてくれたようにそれらを愉しめているだろうか?
正直言って、その足元にも及ばない。
その意味で巨泉さんは、「楽しみ」ではなくオトナの「愉しみ」の先生だったのかもしれない。
先生と生徒の関係になれれば、生徒は先生を偉そうだとは思わなくなり素直に言う事を聞けるのだ。
懐の広さのエピソードと言えば、「こんなモノいらない」で視聴者から「要らないもの」をアンケートで募集したところ、なんと大橋巨泉さん自身が2位になってしまった。
そのへんの安モンの芸人ならもみ消してもおかしくないが、巨泉さんはもみ消しもせず笑い飛ばす事もせず、極めて謙虚に受け止めていたのが印象的だ。
人生の「愉しみ」を知り尽くした、不世出の名司会者に合掌…