のりこぼし(糊こぼし)」とは東大寺開山堂の南側、基壇のすぐきわに植えられた椿(つばき)の木のことをいいます。 お水取りに使われる造花の椿を作る時に糊をこぼしてしまったかのような斑点があるので「糊こぼし」呼ばれます。
修二会』とは、『お水取り』の通称で、春の訪れを告げる奈良・東大寺二月堂の行事のことです。その際、本尊の十一面観音に椿の造花を捧げますが、それにちなんだお菓子が『修二会の椿』で、中が黄身あん、外側の花びらが羊羹でできており、食べたときの両者のハーモニーが絶妙で、とても美味しく、この時期のみの限定販売なので、その時期が来るのを毎年楽しみにしております。
『糊こぼし椿』とは、その昔『お水取り』に使う造花の椿を作っていた時に、その赤い紙に糊を誤ってこぼしてしまい、白い斑点のある赤い椿になってしまいましたが、東大寺二月堂の南西にある開山堂の庭に咲く椿の花(非公開ですが咲けば土塀の上に少しだけ見ることができます)に似ており、それ以来『糊こぼし椿』(東大寺開山の良弁(ろうべん)大僧正にちなんで『良弁椿』ともいう)と呼ぶようになったものです。これは奈良の三銘椿の一つですが、残り二つは、白毫寺(びゃくごうじ)の『五色椿』と伝香寺の『武士椿』です。この後者二寺の椿は一般公開していますので、誰でも容易に見ることができます。
『お水取り』は、正式には『修二会(しゅにえ)』、もっと正式には『十一面悔過(じゅういちめんけか)』といいます。すなわち、我々が日々犯しているさまざまな過ちを二月堂のご本尊である十一面観世音菩薩の御前で懺悔する行事で、天平勝宝4年(752年)以来一度も途絶えることなく、今年で1262回目の毎年続いている大和路に春を告げる特別の催事です。3月1日から14日までの『おたいまつ』は、火のついた大きな『たいまつ』を振り回して二月堂の欄干から火の粉を散らしながら走るもので、とても迫力があり有名ですが、すでに2月から非公開の様々な行事が始まっております。
四堂横から見られます。
『糊こぼし椿』の実物は、この写真に示すように、赤い花びらの中に糊をこぼしたかのような白い部分がありますが、造花や和菓子では、赤い花びらと白い花びらを交互に組み合わせて作ってあります。実際に『お水取り』で使う造花の花びらは紙製で、赤い色は紅花の色素で、雄しべの黄色は、くちなしの実の色素で、それぞれ色付けします。さらに花の芯は、タラの木で作ります。この造花を椿の生木(この頃まだ本物の花は咲いていない)に挿して、3月1日の夕方に十一面観音の須弥殿の四方に飾って、いよいよ二週間にわたる、非常に見ごたえのある誰でも毎晩見ることのできる『おたいまつ』の開始となります。
椿は日本原産の植物で、学名もそれにふさわしく Camellia japonica です。椿には邪気を払う力があるとされ、仏教でもよく使われますし、茶道の世界では、椿は炉の季節の最も代表的な茶花であり、特に『侘助椿』は茶花に向いております。