(1)特定秘密保護法【注1】に世間の関心が集中し、国家安全保障会議(日本版NSC)はあまり議論されていない。しかし、日本版NSCが本丸で、特定秘密保護法は「付属品」だ。
(2)特定秘密保護法で特に問題なのは、特定秘密を取り扱う者に対する適性評価【注2】。本人だけでなく家族の個人情報も丸裸にする。内心の自由に対する大変な侵害がある。しかも、調査結果自体も特定秘密になる【注3】。
気にくわない官僚がいれば、秘密を触る部署に異動させて適性評価を受けさせることもできる。適性評価に同意しない場合、出世の道が閉ざされる。
人事院などの中立的な機関に調査部門を設けるならば話は別だ。
しかし、警察は外務省や防衛省と権限争議を持っている。そうなると、恣意的に「防衛省のこいつは○。外務省のこいつは気にくわないから×」と権力闘争の道具として使われることが目に見えている。
官僚は、この法律が自分たちの首を絞めることをわかっていない。
(3)もっと先、警察が肥大化すると、外務省はなすすべがない。しかも自衛隊にどういう影響を与えるかという想像力が欠如している。警察が自衛隊に手を突っ込んで無茶をすれば、軍神のような人物が出現して主観的な正義感で決起することを誘発しかねない。
こういう喧嘩は、国の構造をおかしくする。
(4)情報機関は適性評価を受けていない人間には情報を回さない。政治家は適性評価の対象外なので、機微に触れる情報のほとんどが官僚の中で独占されてしまう。
国会議員が情報を受け取る身分ではなくなった結果、政治判断ができなくなる。秘密を認めるか否かの以前の問題として、こんな粗雑な法律が国会に上程されていること自体が国家の恥だ。
(5)外務省在籍時、ソ連課(当時)で最初に教えられたのは、「我々の仕事は全部秘密。文書にはマル秘無期限の判子を押すのが基本」ということだった。
「秘」では被密度が低いと思われて読まれないから「極秘」の判子を押す。その上の「極秘限定配布」にするともっと読まれる。電報の色も違う。
みんな自分のとってきた情報を特定秘密にしたがるだろう【注4】。
次官も局長もチェックしきれない。入省5年程度のひよっこ官僚たちが特定秘密を大量生産する。
(6)外務省には正式な文書ではないメモがたくさんある。やばいものは決裁書にしないでメモで回すからだ。しかも情報公開が制度かされることで、今まで極秘無期限で取っていた書類を5年でシュレッダーにかけるようになってきた。情報の保全という点からすると、大問題だ。
外務省のロシア関係書類は、公のファイルだけでなく、課長席の横にある鍵のかかる白い4段キャビネットにも保管されている。そこには誰がロシア人女性とトラブルを起こしたとか、スパイとの接触があるとか、表では存在していない秘密のメモが入っている。しかも、そのメモはロシア課長だけが見られる。課長は自分の汚点をシュレッダーにかけるから、課長経験者は履歴がきれいになる。そして、自分以外の人間の秘密を全部握る。今でも相当ムチャクチャだ。
(7)外交交渉で密約を抹消するのがよくない理由は、相手側は持っているからだ。合意は拘束する・・・・が、国際関係の原則。つまり、記録が残っていないと、向こう側のペースでの交渉しかできない。
しかも、社会を疑心暗鬼にして弱体化させ、結果として国家も弱体化させるのが、この法律だ。
(8)(交戦権の行使も集団自衛権の行使も認める「国家安全基本法案」は)政府提案立法では出せない。内閣法制局が通さない【注5】。
しかし、安部内閣は8月8日に内閣法制局長官を外務省出身の小松一郎にすげ替えた。
(安倍総理の脳裡には、今年中に日本版NSCと秘密保護法を成立させ、来年は安保法制懇で集団的自衛権を認めさせ、その後の通常国会で「国家安全基本法案提出、その後は96条改憲、9条改憲・・・・という工程表があるらしいが、)ワイマール憲法と矛盾する一般法を幾つも立て、総体としてナチス憲法とみなしたナチスの手口に学んでいるのではないか。
もっと怖いのは、工程表がなくて、なんとなく空域で動いていく「集合的無意識」でやっているように見えることだ。専守防衛であれば、自衛権の発動は明白だから、NSCは必要ない。日本版NSCでもっとも重要なのは、「4者会合」(外務大臣・防衛大臣・官房長官・総理から成る)だ。
「4者会合」は戦争指導最高会議だ。日本が戦争するか否かの最高意思決定をする【注6】。NSCができることによって、国家構造がガラリと変わろうとしている。
もう一つ重要なのは、安部内閣のいわゆる「積極的平和主義」の意味だ。伊藤憲一(元外務官僚)『新・戦争論』(新潮新書)によれば、米国を中心とした形での警察活動に協力することである、とわかる。つまり湾岸戦争のようなものに全面協力することが平和を作る、という意味だ。
(9)外務省の動きに注意せよ。
外交官の法律間隔は、法曹資格を持つ人とは違う。外務省は日常的に国際法をいじっているから、条文に反していても、相手国が文句を言ってこない限り義務違反にはならない、と考えている。しかも、採取的には力による解決があり得る、と考える。発想が暴力的なのだ。
国際法の解釈は外務省国際法局長。国内法の解釈をする内閣法制局長官も、元外務官僚(小松一郎)。
(10)日本経済の焦眉の問題はTPPだが、主席交渉官は鶴岡公二(外務省)。新設の国家安全保障局の長には谷内正太郎が想定されている。安倍総理の周辺は、全員、外務官僚で固まっている。
(11)対米追従の流れとは違う【注7】。谷内は、対米追従派ではない。独自外交で、むしろ愛国的な潮流の人だ。最近感情的な反米論が強まりすぎたために、米国の影に隠れて日本の政治家の責任を結果として免罪している状況がある。
でも、今回のNSCでは日本が主体的に先制攻撃できるようになことをやろうとしている。
(12)戦争をする必要があるから、軍機保護法、国防安全法のような特定秘密保護法が必要になる。
特定保護法は権力としては非常に魅力ある法律だ【注8】。しかし、このようなことは弱い権力がやることだ。日本はだんだん19世紀に帰りつつある。
【注1】国家安全保障と情報への権利に関する国際原則「ツワネ原則」に違反。
【注2】公務員のみならず民間の取引先も対象。実施主体は警察。
【注3】秘密の範囲が極端に広いうえ、いくらでも拡大可。政府想定の特別管理秘密は42万件程度。
【注4】第三者によるチェック不可。
【注5】2013年5月14日、参議院予算委員会において、山本庸幸・内閣法制局長官(当時)は、集団自衛権の行使は憲法9条の観点で許されない、と回答した。
【注6】自民党の日本国憲法改正草案には、戦争を開始する規定がない。宣戦布告もしない。つまり国会の事前承認を必要としない。
【注7】村山談話、河野官房長官談話の見直し論を含め、米国の考えとズレているところがある。
【注8】刑法の共謀は非常に限定的。秘密保護法では、独立罪として処罰する。秘密がまだ外に漏れていない段階でも共謀罪で処罰される。
□対談:福島みずほ・佐藤優/まとめ:畠山理仁(フリーライター)「日本版NSCとは「戦争指導最高会議」だ」(「週刊金曜日」2013年11月29日号)から佐藤優の発言を抜粋、要約。
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(2)特定秘密保護法で特に問題なのは、特定秘密を取り扱う者に対する適性評価【注2】。本人だけでなく家族の個人情報も丸裸にする。内心の自由に対する大変な侵害がある。しかも、調査結果自体も特定秘密になる【注3】。
気にくわない官僚がいれば、秘密を触る部署に異動させて適性評価を受けさせることもできる。適性評価に同意しない場合、出世の道が閉ざされる。
人事院などの中立的な機関に調査部門を設けるならば話は別だ。
しかし、警察は外務省や防衛省と権限争議を持っている。そうなると、恣意的に「防衛省のこいつは○。外務省のこいつは気にくわないから×」と権力闘争の道具として使われることが目に見えている。
官僚は、この法律が自分たちの首を絞めることをわかっていない。
(3)もっと先、警察が肥大化すると、外務省はなすすべがない。しかも自衛隊にどういう影響を与えるかという想像力が欠如している。警察が自衛隊に手を突っ込んで無茶をすれば、軍神のような人物が出現して主観的な正義感で決起することを誘発しかねない。
こういう喧嘩は、国の構造をおかしくする。
(4)情報機関は適性評価を受けていない人間には情報を回さない。政治家は適性評価の対象外なので、機微に触れる情報のほとんどが官僚の中で独占されてしまう。
国会議員が情報を受け取る身分ではなくなった結果、政治判断ができなくなる。秘密を認めるか否かの以前の問題として、こんな粗雑な法律が国会に上程されていること自体が国家の恥だ。
(5)外務省在籍時、ソ連課(当時)で最初に教えられたのは、「我々の仕事は全部秘密。文書にはマル秘無期限の判子を押すのが基本」ということだった。
「秘」では被密度が低いと思われて読まれないから「極秘」の判子を押す。その上の「極秘限定配布」にするともっと読まれる。電報の色も違う。
みんな自分のとってきた情報を特定秘密にしたがるだろう【注4】。
次官も局長もチェックしきれない。入省5年程度のひよっこ官僚たちが特定秘密を大量生産する。
(6)外務省には正式な文書ではないメモがたくさんある。やばいものは決裁書にしないでメモで回すからだ。しかも情報公開が制度かされることで、今まで極秘無期限で取っていた書類を5年でシュレッダーにかけるようになってきた。情報の保全という点からすると、大問題だ。
外務省のロシア関係書類は、公のファイルだけでなく、課長席の横にある鍵のかかる白い4段キャビネットにも保管されている。そこには誰がロシア人女性とトラブルを起こしたとか、スパイとの接触があるとか、表では存在していない秘密のメモが入っている。しかも、そのメモはロシア課長だけが見られる。課長は自分の汚点をシュレッダーにかけるから、課長経験者は履歴がきれいになる。そして、自分以外の人間の秘密を全部握る。今でも相当ムチャクチャだ。
(7)外交交渉で密約を抹消するのがよくない理由は、相手側は持っているからだ。合意は拘束する・・・・が、国際関係の原則。つまり、記録が残っていないと、向こう側のペースでの交渉しかできない。
しかも、社会を疑心暗鬼にして弱体化させ、結果として国家も弱体化させるのが、この法律だ。
(8)(交戦権の行使も集団自衛権の行使も認める「国家安全基本法案」は)政府提案立法では出せない。内閣法制局が通さない【注5】。
しかし、安部内閣は8月8日に内閣法制局長官を外務省出身の小松一郎にすげ替えた。
(安倍総理の脳裡には、今年中に日本版NSCと秘密保護法を成立させ、来年は安保法制懇で集団的自衛権を認めさせ、その後の通常国会で「国家安全基本法案提出、その後は96条改憲、9条改憲・・・・という工程表があるらしいが、)ワイマール憲法と矛盾する一般法を幾つも立て、総体としてナチス憲法とみなしたナチスの手口に学んでいるのではないか。
もっと怖いのは、工程表がなくて、なんとなく空域で動いていく「集合的無意識」でやっているように見えることだ。専守防衛であれば、自衛権の発動は明白だから、NSCは必要ない。日本版NSCでもっとも重要なのは、「4者会合」(外務大臣・防衛大臣・官房長官・総理から成る)だ。
「4者会合」は戦争指導最高会議だ。日本が戦争するか否かの最高意思決定をする【注6】。NSCができることによって、国家構造がガラリと変わろうとしている。
もう一つ重要なのは、安部内閣のいわゆる「積極的平和主義」の意味だ。伊藤憲一(元外務官僚)『新・戦争論』(新潮新書)によれば、米国を中心とした形での警察活動に協力することである、とわかる。つまり湾岸戦争のようなものに全面協力することが平和を作る、という意味だ。
(9)外務省の動きに注意せよ。
外交官の法律間隔は、法曹資格を持つ人とは違う。外務省は日常的に国際法をいじっているから、条文に反していても、相手国が文句を言ってこない限り義務違反にはならない、と考えている。しかも、採取的には力による解決があり得る、と考える。発想が暴力的なのだ。
国際法の解釈は外務省国際法局長。国内法の解釈をする内閣法制局長官も、元外務官僚(小松一郎)。
(10)日本経済の焦眉の問題はTPPだが、主席交渉官は鶴岡公二(外務省)。新設の国家安全保障局の長には谷内正太郎が想定されている。安倍総理の周辺は、全員、外務官僚で固まっている。
(11)対米追従の流れとは違う【注7】。谷内は、対米追従派ではない。独自外交で、むしろ愛国的な潮流の人だ。最近感情的な反米論が強まりすぎたために、米国の影に隠れて日本の政治家の責任を結果として免罪している状況がある。
でも、今回のNSCでは日本が主体的に先制攻撃できるようになことをやろうとしている。
(12)戦争をする必要があるから、軍機保護法、国防安全法のような特定秘密保護法が必要になる。
特定保護法は権力としては非常に魅力ある法律だ【注8】。しかし、このようなことは弱い権力がやることだ。日本はだんだん19世紀に帰りつつある。
【注1】国家安全保障と情報への権利に関する国際原則「ツワネ原則」に違反。
【注2】公務員のみならず民間の取引先も対象。実施主体は警察。
【注3】秘密の範囲が極端に広いうえ、いくらでも拡大可。政府想定の特別管理秘密は42万件程度。
【注4】第三者によるチェック不可。
【注5】2013年5月14日、参議院予算委員会において、山本庸幸・内閣法制局長官(当時)は、集団自衛権の行使は憲法9条の観点で許されない、と回答した。
【注6】自民党の日本国憲法改正草案には、戦争を開始する規定がない。宣戦布告もしない。つまり国会の事前承認を必要としない。
【注7】村山談話、河野官房長官談話の見直し論を含め、米国の考えとズレているところがある。
【注8】刑法の共謀は非常に限定的。秘密保護法では、独立罪として処罰する。秘密がまだ外に漏れていない段階でも共謀罪で処罰される。
□対談:福島みずほ・佐藤優/まとめ:畠山理仁(フリーライター)「日本版NSCとは「戦争指導最高会議」だ」(「週刊金曜日」2013年11月29日号)から佐藤優の発言を抜粋、要約。
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