(1)12月6日、「特定秘密保護法」が成立した。
その定めるところもさりながら、国内外から強い批判を受けたのは、強引すぎる立法プロセスだ。
(a)パブリックコメントの募集期間を通常の半分に短縮。
(b)審議時間は衆参議院合計で、わずか68時間。
(2)特定秘密保護法の陰で、「国家戦略特区法」が、わずか8時間の審議でスピード採決された。
衆議院通過後の内閣委員会ではたった1日しか審議されていない。委員長(民主党)が審議の継続を求めると、与党は委員長をあっさりクビにし、強行採決する暴挙に出た。
(3)国家戦略特区法は、特定秘密保護法と同様、社会の枠組みを大きく変える内容なのだ。その定めるところと運用において、多くの危険性をはらむ。
東京、大阪、愛知など大都市圏を中心に、企業が事業をしやすい規制緩和を実施していく。これは、労働、税制、医療、教育など、国民の暮らしに大きく影響する。
しかるに、政府はなぜか、労働時間、医療、教育を管理する関係省庁の大臣を特区諮問会議メンバーから外した。「意見は聞くが、意思決定に加えない」と、トップダウンで進めて行く方針だ。代わりに、総理を議長とする「国家戦略特区諮問会議」を内閣府に設置。各特区に置く「国家戦略特区統合推進本部」で特区担当大臣、自治体の長、民間事業者の3者が事業計画を作成する。
(4)国家戦略特区に対する懸念は多い。
<例>「公教育における株式会社の参入」は、すでに予備校や塾の参入という形で「構造改革特区」の中で実施されているが、効率よく利益を出すために過度に通信制を導入するなど、コスト削減の弊害が問題視され、多くはすでに廃止されている。
かかる現実を検証する前に、公的予算を民間に流す仕組みを整備することは、多大なリスクを伴う。
(5)公教育への株式会社参入は、この10年間、米国政府が積極的に進めてきた政策だ。
全国一斉学力テストが導入され、点数ノルマを達成できなかった学校は統廃合された。貧困地域など生徒の環境自体にハンディのある公立学校の教師は、平均点の低さを口実に、次々と降格され、解雇された。
公立学校が淘汰された後を引き受けるのは、株式会社経営の学校だ。国からの公的教育予算は配当金として分配される仕組みなので、株主の意向が最優先される。学校の人気を維持するため、学力の低い子どもの入学許可はなかなか下りない。「公教育」の一部として公的予算を受け取りながら、実際には教育難民を増やしている。本来の趣旨に逆行する事態が起きている。
この政策が米国社会にもたらしたものは、公教育の解体と、教育ビジネスの株価上昇だった。
(6)こうしたグローバル企業にとって、教育に限らず、日本は魅力的な市場だ。
米国は、「特区内で事業展開できるよう非差別的なアクセスを確保する」ことを日本に求め(2002年の年次改革要望書)、安倍総理は「企業が活躍しやすい国を目指します」と、所信表明演説で言及した。
10年以上前から、日本の米国追随方針は変わっていない。
しかし、総理は国民の代表であって、企業ロビイストの長ではない。企業にとっての最大目的の「株主利益拡大」と、国民の税金で国の未来を担う「公益」とは切り離して進められるべきだ。
(7)特定秘密保護法【注】によって、企業活動に係る情報も秘密指定できるようになった。
政治と企業との不適切な癒着(コーポラティズム)が拡大するリスクは免れない。
拙速に可決した国家戦略特区法は、国民にその定めるところを正確に周知し、現場の声を反映した丁寧な議論を抜きに進めてはならない。
【注】
「【原発】推進 ~成長戦略なき「成長戦略国会」の陰で~」
「【秘密保護法】日本版NSCは「戦争指導最高会議」 ~元官僚の観点~」
「【新聞】経営者の関心は秘密保護法より軽減税率」
□堤未果(ジャーナリスト)「秘密保護法だけじゃない! 疑問だらけの悪法で日本は食いつくされる ~ジャーナリストの目 第188回~」(「週刊現代」2013年12月28日号)
↓クリック、プリーズ。↓
【参考】
「【米国】と日本における民営化の悲惨 ~株式会社化する国家~ 」
「【米国】における公的サービス民営化の悲惨(2) ~社会保障~」
「【米国】における公的サービス民営化の悲惨(1) ~教育~」
その定めるところもさりながら、国内外から強い批判を受けたのは、強引すぎる立法プロセスだ。
(a)パブリックコメントの募集期間を通常の半分に短縮。
(b)審議時間は衆参議院合計で、わずか68時間。
(2)特定秘密保護法の陰で、「国家戦略特区法」が、わずか8時間の審議でスピード採決された。
衆議院通過後の内閣委員会ではたった1日しか審議されていない。委員長(民主党)が審議の継続を求めると、与党は委員長をあっさりクビにし、強行採決する暴挙に出た。
(3)国家戦略特区法は、特定秘密保護法と同様、社会の枠組みを大きく変える内容なのだ。その定めるところと運用において、多くの危険性をはらむ。
東京、大阪、愛知など大都市圏を中心に、企業が事業をしやすい規制緩和を実施していく。これは、労働、税制、医療、教育など、国民の暮らしに大きく影響する。
しかるに、政府はなぜか、労働時間、医療、教育を管理する関係省庁の大臣を特区諮問会議メンバーから外した。「意見は聞くが、意思決定に加えない」と、トップダウンで進めて行く方針だ。代わりに、総理を議長とする「国家戦略特区諮問会議」を内閣府に設置。各特区に置く「国家戦略特区統合推進本部」で特区担当大臣、自治体の長、民間事業者の3者が事業計画を作成する。
(4)国家戦略特区に対する懸念は多い。
<例>「公教育における株式会社の参入」は、すでに予備校や塾の参入という形で「構造改革特区」の中で実施されているが、効率よく利益を出すために過度に通信制を導入するなど、コスト削減の弊害が問題視され、多くはすでに廃止されている。
かかる現実を検証する前に、公的予算を民間に流す仕組みを整備することは、多大なリスクを伴う。
(5)公教育への株式会社参入は、この10年間、米国政府が積極的に進めてきた政策だ。
全国一斉学力テストが導入され、点数ノルマを達成できなかった学校は統廃合された。貧困地域など生徒の環境自体にハンディのある公立学校の教師は、平均点の低さを口実に、次々と降格され、解雇された。
公立学校が淘汰された後を引き受けるのは、株式会社経営の学校だ。国からの公的教育予算は配当金として分配される仕組みなので、株主の意向が最優先される。学校の人気を維持するため、学力の低い子どもの入学許可はなかなか下りない。「公教育」の一部として公的予算を受け取りながら、実際には教育難民を増やしている。本来の趣旨に逆行する事態が起きている。
この政策が米国社会にもたらしたものは、公教育の解体と、教育ビジネスの株価上昇だった。
(6)こうしたグローバル企業にとって、教育に限らず、日本は魅力的な市場だ。
米国は、「特区内で事業展開できるよう非差別的なアクセスを確保する」ことを日本に求め(2002年の年次改革要望書)、安倍総理は「企業が活躍しやすい国を目指します」と、所信表明演説で言及した。
10年以上前から、日本の米国追随方針は変わっていない。
しかし、総理は国民の代表であって、企業ロビイストの長ではない。企業にとっての最大目的の「株主利益拡大」と、国民の税金で国の未来を担う「公益」とは切り離して進められるべきだ。
(7)特定秘密保護法【注】によって、企業活動に係る情報も秘密指定できるようになった。
政治と企業との不適切な癒着(コーポラティズム)が拡大するリスクは免れない。
拙速に可決した国家戦略特区法は、国民にその定めるところを正確に周知し、現場の声を反映した丁寧な議論を抜きに進めてはならない。
【注】
「【原発】推進 ~成長戦略なき「成長戦略国会」の陰で~」
「【秘密保護法】日本版NSCは「戦争指導最高会議」 ~元官僚の観点~」
「【新聞】経営者の関心は秘密保護法より軽減税率」
□堤未果(ジャーナリスト)「秘密保護法だけじゃない! 疑問だらけの悪法で日本は食いつくされる ~ジャーナリストの目 第188回~」(「週刊現代」2013年12月28日号)
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【参考】
「【米国】と日本における民営化の悲惨 ~株式会社化する国家~ 」
「【米国】における公的サービス民営化の悲惨(2) ~社会保障~」
「【米国】における公的サービス民営化の悲惨(1) ~教育~」