(1)JR東海は強調する。
2027年に品川-名古屋間にリニア新幹線が開通すれば、最速40分で結ばれる。
(2)40分はしかし、乗っている時間にすぎない。
品川は地下40m、名古屋は地下30mに作られる。当然、乗るまでの、そして降りてからの時間を余分に費やさねばならない。
品川は20分程度、名古屋は15分程度、それぞれ乗り換えに時間を要する【注】。
現在でも、品川-名古屋間は最速の「のぞみ」で1時間29分しか要しない。
【注】推定の根拠・・・・JTB時刻表によれば、東京駅の東海道新幹線ホームから総務・横須賀線(地下26.5m)までの乗り換え標準時分は15分、上野駅新幹線ホーム(地下30m)から山手線など在来線ホームまでの乗り換え標準時分は17分。
(3)時間の過ごし方が、(a)新幹線と(b)リニア新幹線とでは全く異なる。
(a)は、ずっと座ったまま景色を楽しめる。
(b)は、トンネルや防音壁に覆われた闇の中を行く。まるで下水管のなかを行くようなものだ。その上、全体の時間の半分近くはエスカレーターなどの昇降に費やされる。わけても荷物を持った観光客、高齢者には辛い乗り物になるに違いない。
(4)(2)で示すように、最速のリニアですら、所要時間は「のぞみ」とたいして違いはない。だから、途中駅に停まるリニアは、「のぞみ」よりもっと多くの時間を要することになる。
このため、JR東海は、ノンストップを増やし、各停タイプは1時間に1本しか走らせない、としている。しかし、これでは途中駅のメリットは少ない。せっかく富士山が世界遺産になったのに、甲府に停まる列車は少ない。
そして、(3)で示すように、新幹線では富士山が見えるが、リニアでは見えない。山梨県民の不満は大きい。
(5)(2)~(4)は、品川-名古屋間だけを見るからそう言えるのであって、大阪まで開通すればリニアの優位性は明らかになる・・・・という反論があり得る。
しかし、9兆円を超える巨額な投資をして、JR東海が大阪まで開通させる可能性は決して高くない。
理由・・・・リニアの消費電力は東海道新幹線の3倍になり、原発の再稼働を前提としない限り、十分な電力を供給するのは困難だからだ。
葛西敬之・JR東海会長が、震災の直後から原発の再稼働を一貫して訴えてきたのは、まさにこのためだろう。
だが、福島第一原発の汚染水漏れの拡大が象徴するように、原発に対する不安は国の内外で高まっている。原発再稼働をもくろむ東京電力に対する反感も、依然として根強い。JR東海が期待するようなシナリオは、しだいに現実遊離しつつある。
(6)それでもJR東海が強気の姿勢を崩さないのは、ドル箱(東海道新幹線)を抱えているからだ。リニアは、東海道新幹線の巨額な営業利益によって建設される。
品川-名古屋間のリニア料金は、「のぞみ」より700円程度高い15,000円程度になる、とされている。
しかし、これまた不思議な話だ。
・所要時間は新幹線とあまり変わらないのに、足で移動する負担は増える。
・景色を眺めながら旅する楽しみがない。
・大量の電力を必要とする。
・電磁波や南アルプスの地層、活断層横断などの問題がある。
こうしたリニアに9兆円超の投資をするくらいなら、もっと多数が利用しやすろように新幹線の運賃を値下げした方が、はるかに支持を得られるだろう。
ネットで格安切符を購入できる諸外国と比べて、日本の鉄道運賃は概して高い。新幹線の料金は、どう見ても高すぎる。
(7)JR東海が、さまざまなリスクを覚悟してまで、品川-大阪間のリニアを開通させたい理由の底には、高速鉄道で追い上げる中国に対して、日本の優位を保ちたい、というナショナリズムがある。
・北京南-上海虹橋間(1,318km)の所要時間は最短で4時間48分。
・東京-博多間(1,069.1km)の所要時間は最短で4時間50分。
新幹線だけではもはや速度の点で中国にかなわない。この状況を再逆転させるための究極の切り札こそリニア、というわけだ。
(8)(7)は、「平和利用」を題目として掲げながら、実は米国に対抗して核開発による大国化を進めようとした国家戦略の一環として原発が開始されたことと重なる。
リニアの駅ができることで町起こしにつながる、と考えている自治体(<例>岐阜県中津川市)は、「原子力明るい未来のエネルギー」の看板を掲げていた福島県双葉町に重なる。
原発事故後も対応を東電任せにしてきた政府は、リニアについても、JR東海にお任せ、黙認の姿勢を通そうとしている。
□原武史(明治学院大学教授)「リニアへの9兆円巨額投資は本当に必要なのか」(『文藝春秋オピニオン 2014年の論点100』、2013)
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2027年に品川-名古屋間にリニア新幹線が開通すれば、最速40分で結ばれる。
(2)40分はしかし、乗っている時間にすぎない。
品川は地下40m、名古屋は地下30mに作られる。当然、乗るまでの、そして降りてからの時間を余分に費やさねばならない。
品川は20分程度、名古屋は15分程度、それぞれ乗り換えに時間を要する【注】。
現在でも、品川-名古屋間は最速の「のぞみ」で1時間29分しか要しない。
【注】推定の根拠・・・・JTB時刻表によれば、東京駅の東海道新幹線ホームから総務・横須賀線(地下26.5m)までの乗り換え標準時分は15分、上野駅新幹線ホーム(地下30m)から山手線など在来線ホームまでの乗り換え標準時分は17分。
(3)時間の過ごし方が、(a)新幹線と(b)リニア新幹線とでは全く異なる。
(a)は、ずっと座ったまま景色を楽しめる。
(b)は、トンネルや防音壁に覆われた闇の中を行く。まるで下水管のなかを行くようなものだ。その上、全体の時間の半分近くはエスカレーターなどの昇降に費やされる。わけても荷物を持った観光客、高齢者には辛い乗り物になるに違いない。
(4)(2)で示すように、最速のリニアですら、所要時間は「のぞみ」とたいして違いはない。だから、途中駅に停まるリニアは、「のぞみ」よりもっと多くの時間を要することになる。
このため、JR東海は、ノンストップを増やし、各停タイプは1時間に1本しか走らせない、としている。しかし、これでは途中駅のメリットは少ない。せっかく富士山が世界遺産になったのに、甲府に停まる列車は少ない。
そして、(3)で示すように、新幹線では富士山が見えるが、リニアでは見えない。山梨県民の不満は大きい。
(5)(2)~(4)は、品川-名古屋間だけを見るからそう言えるのであって、大阪まで開通すればリニアの優位性は明らかになる・・・・という反論があり得る。
しかし、9兆円を超える巨額な投資をして、JR東海が大阪まで開通させる可能性は決して高くない。
理由・・・・リニアの消費電力は東海道新幹線の3倍になり、原発の再稼働を前提としない限り、十分な電力を供給するのは困難だからだ。
葛西敬之・JR東海会長が、震災の直後から原発の再稼働を一貫して訴えてきたのは、まさにこのためだろう。
だが、福島第一原発の汚染水漏れの拡大が象徴するように、原発に対する不安は国の内外で高まっている。原発再稼働をもくろむ東京電力に対する反感も、依然として根強い。JR東海が期待するようなシナリオは、しだいに現実遊離しつつある。
(6)それでもJR東海が強気の姿勢を崩さないのは、ドル箱(東海道新幹線)を抱えているからだ。リニアは、東海道新幹線の巨額な営業利益によって建設される。
品川-名古屋間のリニア料金は、「のぞみ」より700円程度高い15,000円程度になる、とされている。
しかし、これまた不思議な話だ。
・所要時間は新幹線とあまり変わらないのに、足で移動する負担は増える。
・景色を眺めながら旅する楽しみがない。
・大量の電力を必要とする。
・電磁波や南アルプスの地層、活断層横断などの問題がある。
こうしたリニアに9兆円超の投資をするくらいなら、もっと多数が利用しやすろように新幹線の運賃を値下げした方が、はるかに支持を得られるだろう。
ネットで格安切符を購入できる諸外国と比べて、日本の鉄道運賃は概して高い。新幹線の料金は、どう見ても高すぎる。
(7)JR東海が、さまざまなリスクを覚悟してまで、品川-大阪間のリニアを開通させたい理由の底には、高速鉄道で追い上げる中国に対して、日本の優位を保ちたい、というナショナリズムがある。
・北京南-上海虹橋間(1,318km)の所要時間は最短で4時間48分。
・東京-博多間(1,069.1km)の所要時間は最短で4時間50分。
新幹線だけではもはや速度の点で中国にかなわない。この状況を再逆転させるための究極の切り札こそリニア、というわけだ。
(8)(7)は、「平和利用」を題目として掲げながら、実は米国に対抗して核開発による大国化を進めようとした国家戦略の一環として原発が開始されたことと重なる。
リニアの駅ができることで町起こしにつながる、と考えている自治体(<例>岐阜県中津川市)は、「原子力明るい未来のエネルギー」の看板を掲げていた福島県双葉町に重なる。
原発事故後も対応を東電任せにしてきた政府は、リニアについても、JR東海にお任せ、黙認の姿勢を通そうとしている。
□原武史(明治学院大学教授)「リニアへの9兆円巨額投資は本当に必要なのか」(『文藝春秋オピニオン 2014年の論点100』、2013)
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