語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【食】TPPで遺伝子組み換え食品が大量に流入する

2013年12月14日 | 社会
 (1)食料・軍事・エネルギーは、国家存立の3本柱だ。
 日本では、その認識が薄いが、一次産業をおろそかにしたら、食料の量的確保はおろか、質的確保も難しくなる。

 (2)2008年、世界食料危機の際、ハイチ、フィリピンなどコメを主食とする国で、お金を出してもコメが買えずに死者が出る事態となった。世界的にはコメの在庫は十分にあったのだが、不安心理で各国がコメを売らなくなったのだ。
 米国の食料政策によって、コメの関税を極端に低くしてしまったため、いつのまにか自国におけるコメ自給率が低下し、輸入に依存する状態が形成されていたからだ。
 コメ生産大国の日本も、こうした事態が起こりかねない。

 (3)米国の食料戦略が最も標的とするのは、日本だ。
 第二次世界大戦後、余剰小麦の援助などを活用し、戦略的に日本の食生活変革が行われた。その結果、米国の小麦、飼料穀物、畜産物なくして日本の食生活が成り立たない事態となった。食料自給率はすでに39%にまで低下した。
 食料の量的確保に係る安全保障の崩壊が、同時に質的な「安全性」保障をも崩す事態を招いている。この事態に、TPPがとどめを刺す。

 (4)TPPについて、もっとも懸念されるのは、食の安全基準が緩和されることだ。
 BSEについては、2013年2月1日、すでに輸入条件を緩和した。
 防腐剤・防カビ剤は、日米2国間協議の重要項目に挙がっている。
 米国のTPPの農業交渉官の一人は、モンサント社(米国の食戦略を握る)の前ロビイストだ。交渉結果は、推して知るべし。
 動植物の衛生・検疫に係る国際基準(SPS協定)では、各国の置かれている自然条件、食生活の違いも勘案し、科学的根拠に基づいて、各国がSPS基準より厳しい独自の条件を採用することも認めている。
 しかるに、TPP交渉官は、「各国が決める権限がある」ことを問題にしている。日本が不透明で科学的根拠に基づかない検疫措置で米国の農産物を締め出していると難癖をつけ、TPPで米国がチェックして変えられるシステムに変更することを目論む。

 (5)わけても懸念されるのは、遺伝子組み換え(GM)表示義務撤廃によるGM食品のさらなる流入だ。
 欧州では、GM作物の安全性がまだ確定しないために、原則として輸入も生産も制限している。
 日本では、GM食品の5%以上の混入について表示義務がある。「遺伝子組み換えでない」という任意表示も認められている。
 しかし、すでにGM食品輸入の世界的大国となった日本では、食用油、醤油、清涼飲料水、菓子類に使用される大豆由来のコーンスターチなど、任意表示ゆえにGM原料由来の食品を気づかずに摂取していることが多い。
 TPPにより、GM表示義務が撤廃されたら、消費者は非GM食品を食べたいと思っても、選ぶことができない。その結果、大豆食品を始め、GM食品がさらに広がっていく。

 (6)食の安全性のほかにも、問題がある。
 GM種子の販売は、穀物メジャーの数社(モンサント社など)のシェアによって多くを占められる。トウモロコシは交配によって作られた新品種の初代(F1種)が多く、大豆は固定種が多い。いずれにせよ、農家はそれまで自家採種してきた種を、毎年モンサント社などの寡占的GM種子会社数社から種を買い続けないと食料が生産できなくなる。
 モンサント社のGM作物の種は「知的財産」として法的に保護されているから、農家がGM大豆の種を育てて自家採種した種を翌年播くと「特許侵害」になる。
 米国でも、違反した農家は提訴され、多額の損害賠償で破産する。農家が生産を続けるには、モンサント社の種を買い続けるしかない。かくて、種の特許を握る企業によって、世界の食料生産のコントロールが強化されていく。
 インドでは、地域一帯の種子を独占した後、種子の値段を引き上げたため、綿花農家に多くの自殺者が出た。
 在来種を保存しようとしても、GM作物などの花粉の飛散で「汚染」されていく。
 世界の食料生産、消費、環境がGM種子で覆い尽くされてしまう事態が懸念される。

 (7)防腐剤・防カビ剤などのポストハーベスト農薬についても、日本の基準が厳しすぎると難癖をつけられ、さらなる緩和を要求されている。
 これらは今、日本では食品添加物に分類されているため、食品パッケージへの表示義務がある。
 米国は、これが輸入食品の販売を不利にする、として、防カビ剤などの分類を「食品添加物」から表示義務のない「残留農薬」に変更することを要求している。
 食品添加物についても、認可されている種類をいまの約800種類から約3,000種類の米国基準に近づけるよう要求している。

 (8)食料については、米国の穀物メジャー、種子・農薬を握るバイオメジャー、食品加工業、肥料・飼育産業、輸出農家などが、例外なき関税撤廃で各国の食料の生産力を削ぎ、食品の安全基準などを緩めさせる規制緩和を徹底し、食の安全を質量両面から崩して「食の戦争」に勝利することをめざしている。
 このままでは、各国の国民の命と健康が米国の企業利益追及の犠牲になりなねない。

□鈴木宣弘(東京大学大学院教授)「TPPで遺伝子組み換え食品が大量に流入する」(『文藝春秋オピニオン 2014年の論点100』、2013)
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