(1)2013年9月26日、東京電力柏崎刈羽原発の規制基準適合検査申請について、新潟県知事は次の事項を申請書に明記することを条件として承認した。
(a)新潟県との安全協定に基づく協議後に修正申請を行うこと。
(b)今回申請のフィルタベント設備は地元避難計画との整合性を持たせ安全協定に基づく了解が得られない限り使用できない設備であること。
(c)ただし、ベント操作による住民の被ばくが許容できないと明らかになった場合、この承認は無効。
新潟県知事は決して、再稼働を承認したわけではない。
柏崎刈羽原発は、停止していても生きている施設だ。安全確保が必要だ。事業者たる東電が安全確保に自信が持てない状況を放置することは、地元にとって望ましくない。よって、第三者(原子力規制委員会)の適合審査を求めることを条件付きで承認した。
そうした趣旨のものであり、再稼働に向けた措置ではない。
(2)2007年の新潟中越沖地震では、道路が土砂崩れで通行止めになるなど、交通網が麻痺した。
柏崎刈羽原発3号機で葛西が起きたが、道路の渋滞で消防の緊急車両でさえ現場にたどり着くのに時間がかかった。
ゆえに、仮に震災時にベント装置が稼働する原発事故が発生すれば、一般車両も渋滞に捲き込まれて動けなくなる可能性は高い。車中の県民らが被曝するおそれを否定できない。
人間がつくるものには、必ずリスクが残る。だからこそ、政治や行政は事故発生を前提に、あらかじめ対策を講じなければならない。
仮に原発事故が起きた場合、米国ならば原発事業者に加えて州政府や軍が対応する仕組みができている。
スペースシャトルの大事故でも、NASAは組織をあげて問題点を洗い出し、対応した。トップを更迭し、次のステップに進んだ。
(3)福島原発事故では、スペースシャトル大事故におけると同じような検証・総括は行われていない。
事故後にできた原子力規制委員会にしても、原発の性能基準だけを審査している。田中俊一・委員長は、記者会見で、住民の避難計画は所掌外との認識を示した。
だが、それは責任回避だ。設置法第3条は定める。「原子力規制委員会は、国民の生命、健康及び財産の保護、環境の保全並びにわが国の安全保障に資するため、原子力利用における安全の確保を図ることを任務とする」
住民の被曝を避ける対策を抜きに、どう国民の生命や健康を保護するのか?
どう安全を図るというのか?
性能基準だけで再稼働の是非を判断できるのか?
住民の被曝を避け、安全と健康を守る観点から、国際基準にあった厳格な審査ができるのか?
(4)かつて太平洋戦争に出動した米国の艦艇は、被弾するリスクを前提に設計、運用されていた。被害を局限化し、復旧するシステムが整備されていた。だから、ミッドウェー海戦でも被弾した艦艇が短時間で被害を復旧できた。
他方、日本の艦船は一発当たっただけで艦内の爆薬や燃料に引火し、完敗した。
福島原発事故の対応に、ミッドウェー敗戦が重なる。
戦前も戦後も、日本は「安全神話」の上に胡座をかき、リスクを真剣に考えてこなかった。
(5)東電の体質は、福島第一原発事故前も事故後も変わっていない。
3・11の翌日には、福島原発でメルトダウンを認識できたはずだが、それを東電が明言したのは2ヵ月以上たってからだ(5月15日)。その間、誰が、どんな指示を出していたのか。それさえも東電は明らかにしていない。
また、なぜか、汚染水問題も参議院選終了直後に発表された。いまだに情報操作が続いているのではないか。
情報公開なくして、東電の信頼回復はない。
(6)そもそも、東電には住民の生命や安全を守ろうとする姿勢があるのか。
住民ではなく、経営を守ろうとしているのではないか。経営を守るため、コストを下げる。その努力に専念しているのではないのか。
彼らが真実を伝えない結果、どれだけ多くの人が不要な被曝をしたか。その教訓を忘れてはならない。
これだけの被害を出しながら、経営責任をとった東電幹部はいても、事故の責任をとった幹部は一人もいない。
いったい誰が判断を誤ったのか。
あのとき、どうすべきだったのか。
東電はきちんと総括すべきだ。
「嘘をつかない。約束を守る。社会的責任を果たす」・・・・せめて最低限の基本を守ってもらいたい。
過去の教訓に学べない企業に、再稼働する資格があるのか。
(7)知事の最大の職務は、県民の生命、安全、財産を守ることだ。
知事は、知事の最大の職務について妥協することはできない。
福島原発事故の検証と総括なくして、再稼働については議論できない。
□泉田裕彦(新潟県知事)「福島原発事故の検証・総括なくして再稼働の議論はありえない」(『文藝春秋オピニオン 2014年の論点100』、2013)
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【参考】
「【原発】新潟県でフクイチ事故検証開始 ~地震か津波か、全国に影響~」
「【原発】新潟県知事「豹変」の陰に銀行圧力 ~柏崎刈羽原発~」
「【原発】新潟県知事を攻撃する官僚の手口 ~問題点を隠蔽して再稼働~」
「【原発】新潟県知事の、「原発再稼働」批判」
(a)新潟県との安全協定に基づく協議後に修正申請を行うこと。
(b)今回申請のフィルタベント設備は地元避難計画との整合性を持たせ安全協定に基づく了解が得られない限り使用できない設備であること。
(c)ただし、ベント操作による住民の被ばくが許容できないと明らかになった場合、この承認は無効。
新潟県知事は決して、再稼働を承認したわけではない。
柏崎刈羽原発は、停止していても生きている施設だ。安全確保が必要だ。事業者たる東電が安全確保に自信が持てない状況を放置することは、地元にとって望ましくない。よって、第三者(原子力規制委員会)の適合審査を求めることを条件付きで承認した。
そうした趣旨のものであり、再稼働に向けた措置ではない。
(2)2007年の新潟中越沖地震では、道路が土砂崩れで通行止めになるなど、交通網が麻痺した。
柏崎刈羽原発3号機で葛西が起きたが、道路の渋滞で消防の緊急車両でさえ現場にたどり着くのに時間がかかった。
ゆえに、仮に震災時にベント装置が稼働する原発事故が発生すれば、一般車両も渋滞に捲き込まれて動けなくなる可能性は高い。車中の県民らが被曝するおそれを否定できない。
人間がつくるものには、必ずリスクが残る。だからこそ、政治や行政は事故発生を前提に、あらかじめ対策を講じなければならない。
仮に原発事故が起きた場合、米国ならば原発事業者に加えて州政府や軍が対応する仕組みができている。
スペースシャトルの大事故でも、NASAは組織をあげて問題点を洗い出し、対応した。トップを更迭し、次のステップに進んだ。
(3)福島原発事故では、スペースシャトル大事故におけると同じような検証・総括は行われていない。
事故後にできた原子力規制委員会にしても、原発の性能基準だけを審査している。田中俊一・委員長は、記者会見で、住民の避難計画は所掌外との認識を示した。
だが、それは責任回避だ。設置法第3条は定める。「原子力規制委員会は、国民の生命、健康及び財産の保護、環境の保全並びにわが国の安全保障に資するため、原子力利用における安全の確保を図ることを任務とする」
住民の被曝を避ける対策を抜きに、どう国民の生命や健康を保護するのか?
どう安全を図るというのか?
性能基準だけで再稼働の是非を判断できるのか?
住民の被曝を避け、安全と健康を守る観点から、国際基準にあった厳格な審査ができるのか?
(4)かつて太平洋戦争に出動した米国の艦艇は、被弾するリスクを前提に設計、運用されていた。被害を局限化し、復旧するシステムが整備されていた。だから、ミッドウェー海戦でも被弾した艦艇が短時間で被害を復旧できた。
他方、日本の艦船は一発当たっただけで艦内の爆薬や燃料に引火し、完敗した。
福島原発事故の対応に、ミッドウェー敗戦が重なる。
戦前も戦後も、日本は「安全神話」の上に胡座をかき、リスクを真剣に考えてこなかった。
(5)東電の体質は、福島第一原発事故前も事故後も変わっていない。
3・11の翌日には、福島原発でメルトダウンを認識できたはずだが、それを東電が明言したのは2ヵ月以上たってからだ(5月15日)。その間、誰が、どんな指示を出していたのか。それさえも東電は明らかにしていない。
また、なぜか、汚染水問題も参議院選終了直後に発表された。いまだに情報操作が続いているのではないか。
情報公開なくして、東電の信頼回復はない。
(6)そもそも、東電には住民の生命や安全を守ろうとする姿勢があるのか。
住民ではなく、経営を守ろうとしているのではないか。経営を守るため、コストを下げる。その努力に専念しているのではないのか。
彼らが真実を伝えない結果、どれだけ多くの人が不要な被曝をしたか。その教訓を忘れてはならない。
これだけの被害を出しながら、経営責任をとった東電幹部はいても、事故の責任をとった幹部は一人もいない。
いったい誰が判断を誤ったのか。
あのとき、どうすべきだったのか。
東電はきちんと総括すべきだ。
「嘘をつかない。約束を守る。社会的責任を果たす」・・・・せめて最低限の基本を守ってもらいたい。
過去の教訓に学べない企業に、再稼働する資格があるのか。
(7)知事の最大の職務は、県民の生命、安全、財産を守ることだ。
知事は、知事の最大の職務について妥協することはできない。
福島原発事故の検証と総括なくして、再稼働については議論できない。
□泉田裕彦(新潟県知事)「福島原発事故の検証・総括なくして再稼働の議論はありえない」(『文藝春秋オピニオン 2014年の論点100』、2013)
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【参考】
「【原発】新潟県でフクイチ事故検証開始 ~地震か津波か、全国に影響~」
「【原発】新潟県知事「豹変」の陰に銀行圧力 ~柏崎刈羽原発~」
「【原発】新潟県知事を攻撃する官僚の手口 ~問題点を隠蔽して再稼働~」
「【原発】新潟県知事の、「原発再稼働」批判」