語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【政治】自民党の大罪を継承、拡大する民主党 ~来るべき「失われた30年」~

2012年08月03日 | 社会
(1)日本の政治の近未来
 自民党失政による「失われた20年」の間に、日本は確実に没落の道を歩んだ。自民党の大罪は、(2)のとおり4つ【注】。
 自民党政治に国民がレッドカードをつきつけたのが、政権交代(2009年)だった。だが、民主党はクリーンではなかった。権力を奪取したとたん、既得権グループが陳情に列をなした。彼らの支えで選挙を戦う体制ができて、あっというまに自民党化した。加えて、民主党には労組というしがらみがある。自民党以上にしがらみを背負った結果、民主党の悪政は自民党を上回るに至った。具体的には(3)のとおり。要するに自民党の4つの大罪を拡大する路線だ。
 しかも、官僚のシナリオどおりに進む。政治主導に失敗した理由は、(4)のとおり。
 かくして民主党は 背後霊の官僚の勧めにしたがって、自民党の大罪路線を突き進む。おかげで、自民党は自らの罪を反省するどころか、認める必要もない。それどころか、今や事実上の連立が成立している。公明党も加わり、「民自公大罪連合」の大合唱だ。
 ここから予想されるのは、「失われた30年」だ。いや、日本そのものの喪失だ。

(2)自民党の大罪
 (a)900兆円の財政赤字を積み上げた。そのかなりの部分がシロアリ官僚の生活を守るための資金となった。
 (b)人口増加を前提とした仕組みの抜本的改革を怠り、社会保障の持続可能性をつぶしてしまった。少子高齢化は昔から自明だったのに、「百年安心プラン」のごとき寝言を言い続け、子育て政策も皆無。国民の老後の安心を崩壊させた。
 (c)成長できない日本を作った。世界最高水準の技術と労働力、民間企業にあり余る資金。その上、世界の成長センター(アジア)の中にあって、なお成長できない日本の大きな原因の一つが、新たな成長分野におけるがんじがらめの規制だ。資本主義、自由主義の日本で、3大成長分野(農業、医療、再生可能エネルギー)で企業が自由に活動できない。その背後に、必ず官僚たちの利権がある。
 (d)原子力ムラと原子力神話を作り、福島第一原発事故を招いた。これも官僚の利権が絡み、彼らが支える世界だった。

(3)民主党の大罪
 (a)子ども手当はもちろん、整備新幹線、高速道路建設凍結解除など、自民党長老もびっくりするほどのバラマキで財政赤字の累積スピードは加速した。
 (b)社会保障の抜本改革も、マニフェストを無視して、自民党の微修正先送り路線に走った。
 (c)成長のための構造改革も、できないどころか、郵政を始め、改革とは真逆の政策を繰り広げる。
 (d)脱原発政策の放棄。安全神話復活に手を貸し、原子力ムラの一員になって利権に食い込もうと必死だ。

(4)官僚と戦えない民主党
 (a)政治主導の意味をはき違えた。野党時代、官僚は敵(与党自民党の親衛隊)だったから、政権に就くや敵を排除しようとした。実は、官僚を使わなければ行政はできない。
 (b)官僚に代わって行政を担う能力を欠いていた。それを薄々気づいた民主党首脳は、財務省とは事を構えない戦略をとった。これが命取りになった。
 (c)総理・官房長官・各省大臣を補佐し、官僚と戦えるスタッフを欠いた。(b)の能力を欠いて、サポートスタッフの欠いては何もできない。結局、頭を下げて官僚に頼るしかなくなった。
 (d)実は、民主党にはやりたい政策がなかった。民主党政治はアンチテーゼ政治だ。政権をとるために、自民党政治を否定することしか頭になかった。マニフェスト放棄は、ちっとも不思議ではない。その後は、官僚のあやつり人形となって政権運営するだけだ。

 【注】「【政治】自民党の「4つの大罪」、それを引き継いだ民主党 ~「失われた20年」~

 以上、古賀茂明「自民党の罪を拡大 ~民主解体「失敗の本質」~」(「文藝春秋」2012年8月号)に拠る。
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【原発】意見聴取会における結論誘導の手口~保安院~

2012年08月02日 | 震災・原発事故
 原子力安全・保安院も、当然、官僚が政治家をあやつるテクニック【注】を用いる。「意見聴取会」もその道具の一つだ。

 (1)ストレステストの評価結果の妥当性を判断すべき保安院は、「再稼働の可否は政治レベルで総合的な判断を行う」ものとし、責任を転嫁した。
 ちなみに、保安院が提出した審査書を受ける安全委の斑目春樹・委員長はストレステストの内容そのものに疑問を投げかけている。

 (2)「ストレステスト意見聴取会」では、大飯原発3、4号機の安全性評価について論点や問題点がいくつも出た。
 にもかかわらず、保安院は途中で議論を打ち切った。

 (3)伊方原発で特に懸念されるのは、基準地震振動の想定の甘さだ。伊方原発の近くには日本最大の活断層である「中央構造線」が走っている(最大1,000km)。にもかかわらず、四電が伊方で地震の評価対象としているのは、その一部(54km)だけだ。
 井野博満・東京大学名誉教授jは、「伊方原発設計の前提となっている基準地震動は過小評価との指摘があるので、東日本大震災の知見を踏まえた見直しをすべき」と訴えたが、保安院側は「地震動評価の見直しは他の意見聴取会で行うのでここではやらない」と逃げた。

 (3)志賀2号機では、津波による浸水を防ぐ「水密扉」が全部で14か所に設置されているが、すべて主導で開閉する仕様になっている。津波に襲われた時、確実に閉めるためにどんな対策をしているかを井野名誉教授が質したら、「開けたらすぐ閉める」旨の貼り紙をした、と回答があった。
 “貼り紙”が津波対策と言えるだろうか。
 これまでの審査を総合すると、電源車や非常用ポンプの配備以外は、新たに施した対策は基本的にないに等しい。
 にもかかわらず、電力会社が出してきた評価結果を保安院は“妥当”とした。その審査書の記述からは、「結論ありき」の姿勢が読み取れる。

 (4)「結論ありき」の姿勢が如実に表れているのが、審査書の“書き方”だ。伊方の審査書は、そのほとんどが、先に再稼働が決まった大飯原発と同じ構成、表現なのだ。
 <例>大飯原発の審査書では「1.8倍の地震」と書かれている箇所が伊方では「1.5倍」に、同様に「11.4mの津波高さ」の部分が「14.2m」と数値部分だけが書き換えられている。大部分は、大飯原発の審査書をコピー&ペーストしたような文章となっている。
 保安院側が結論を変えないつもりであることがよくわかる。
 中身もいい加減だ。
 <例>伊方の審査書では、基準地震動(570ガル)の1.5倍の「855ガル」に耐えられるとしている。その根拠は、「福島第一を襲ったのは基準地震動の1.1倍の揺れだったから、1.5倍くらいを想定しておけばいいだろう」というくらいのものだ。
 しかし、実際は、2007年の中越沖地震で柏崎刈羽原発は最大1,699ガルの揺れに襲われている。855ガルを超えたら「想定外」と言い訳するだけだろう。

 (5)こうした傾向は、保安院が実施している他の意見聴取会にも見られる。設備の健全性を評価する「高経年化(老朽化)技術評価に関する意見聴取会」がそうだ。
 長年の原発運転によって構造物がどれだけ弱くなるかを算出する「脆化予測式」が学術的に誤っていることが判明している。井野名誉教授の指摘に、他の委員も、事実上誤りを認めた。これは設備の規格自体を見直さなければならないほど大きな問題だ。
 にもかかわらず、保安院は「ここは学術的議論をする場ではない」という言い逃れで押し通し、ついに美浜2号機の運転延長の手続きが決定された。

 【注】「【官僚】政策立案の成功が続く最大のからくり ~審議会システム~
    「【政治】官僚が政治家をあやつるテクニック ~財務省による民主党支配~

 以上、井野博満(東大名誉教授)「「大飯の審査書をコピー&ペースト」「いい加減な地震想定」・・・・“ドミノ再稼働”への無責任論議を明かす」(「SAPIO」2012年8月1・8日号)に拠る。

   *

 原子力安全・保安院は、2月13日、大飯原発3号機、4号機のストレステスト審査書を原子力安全委員会に提出した。続いて、伊方3号機の審査書を3月26日に提出し、いずれも事業者のストレステスト報告書は妥当だと結論づけた。
 審査書の結論部分の文言は、「福島第一原子力発電所を襲ったような地震・津波が来襲しても同原子力発電所事故のような状況にならないことを技術的に確認する」。
 これは到底、技術的にみて判断基準と言えるものではない。福島第一原発と大飯原発/伊方原発では、設定されている基準地震動の大きさも違うし、想定された津波の高さも異なる。同じような地震、同じような津波とは何を意味するか、まったく論拠がない。

 (1)津波(保安院の理屈)・・・・福島第一原発で設計時に想定されていた津波の高さは5.5mで、来襲した津波の高さは15mだった。大飯原発では当初の設計高さは1.9mで、その高さに9.5mを足した11.4mの津波に耐える対策を講じてあるので、福島第一原発と同等の津波がやってきても大丈夫。
 9.5mを足すことに何の意味があるのか?  

 (2)地震(保安院の理屈)・・・・福島第一原発では600ガルの地震動が設定されていて、実際に襲ったのは1有り程度(75ガル)超の地震だった。よって、福島同様の地震でも大丈夫。
 (1)と同じく奇妙な理屈だ。

 (2)には、奇妙以上の大きな問題が隠れている。それは、福島原発事故では、地震によって設備や機器が事故の引き金になるような損害を受けなかった、ということを前提している問題だ。
 保安院は、これは「福島事故の技術的知見に関する意見聴取会」で審議した結論だ、という。だが、この意見聴取会は、東電と原子力安全機構(JNES)の解析結果だけをもとに議論している。その解析が偏ったものではないか、大いに疑問だ。
 地震による機器や配管の損傷が疑われる(田中三彦『原発を終わらせる』、石橋克彦・編、岩波新書、pp32-34)。
 政府事故調も国会事故調も地震による損傷の可能性を否定していない。

 以上、井野博満(東京大学名誉教授)「市民の常識と原発再稼働 ~安全は誰が判断するものなのか~」(「世界」2012年6月号)に拠る。
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【原発】天下り容認の規制庁人事 ~民自公修正談合~

2012年08月01日 | 震災・原発事故
 (1)国会事故調査委員会の報告書【注1】は、これまでに出ていない新たな事実を数多く明らかにし、併せて政府・国会に対して踏み込んだ提言を行っている点で極めて有意義なものだ。

 (2)ところが、この報告書が出る(7月5日)直前、規制委員会法案に関する民自公の修正協議で、報告書の提言については「3年以内に(見直し)を検討」と条文に書き込んでしまった。つまり、「3年間放置可能」=黙殺をあらかじめ決め込んだのだ。

 (3)国会事故調の提言で実現が特に急がれるのは、(a)原子力規制委員会と(b)その事務局(原子力規制庁)の設立だ。

 (4)(a)について、国会事故調は、委員会の高い透明性を確保する見地から、委員の選定は、まず独立した第三者機関が相当数の候補者を選定し、その中から国会同意人事として、国会が最終決定をする、というプロセスを提言している。
 しかし、この提言については、マスコミでも国会でも何ら議論されていない。
 そして、政府が委員を選考している。しかも、その委員候補者【注2】は、殆どが従来の政府関係の組織に長年所属していた人々で、政府や関係機関とのしがらみを一切断った人選(国民の信頼に耐える人選)だとは到底言えない。
 今のような政府主導のやり方では、民自公の原発推進派の裏取引で候補が選定されてしまう可能性が高い。真に独立した委員会にはならない。

 (5)(b)は、(a)と同じくらい重要だ。原発推進機関(経産省や文科省)から規制機関を完全に独立させなければならない。経産省に戻れないなら出向しない、という職員を大量に受け入れたら、その職員は規制庁の職員である前に、将来戻って一生働く経産省のことを慮って仕事をする。だから国会事故調は、例外なくノーリターンルールを適用すべし、と提言した。
 しかるに、(2)の民自公の談合修正により、規制庁には経産省や文科省から自由に出向者が出て、しかも事実上、自由に親元の省庁に戻れることになった。本人の意欲がなくなれば戻れることにしてしまったので、事実上、ノーリターンルールの原則は完全に骨抜きにされた。

 (6)経産省などの人事当局は、勝利の美酒に酔いしれていることだろう。
 民主党の方針転換で、規制庁への派遣人事が楽になった。それだけではない。規制庁を事実上の植民地にできるから、これまでどおり電力会社への影響力を温存できる。天下り先確保も容易になった。 

 【注1】「国会事故調」のホームページには、ダイジェスト版、要約版、本編、参考資料、住民アンケート [抜粋]、従業員アンケート [抜粋]、会議録を収録する。
 【注2】「【原発】規制委員会委員長候補は「原子力ムラ」の中心人物

 以上、古賀茂明「勝利の美酒に酔いしれる経産省 ~官々愕々第28回~」(「週刊現代」2012年8月11日号)に拠る。
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