2013-11-17up
高2クラスの冒険
ある日の10分休みのことです。
高2クラスの教室からドドドドドッと生徒が駆け出しました。
女子が叫んでいます。
「早く! 走って!」
ところが、数十人の生徒は間もなくドドドドドッと戻ってきました。
「あー、疲れた。間に合った~」
6時間目の授業は無事に始まりました。
いったい何があったのでしょう。
その日の午前中、高2クラスの教室で言い合いが始まりました。
「今日じゃなきゃダメだよ」
「でも明日授業あるし。そんときでいいじゃん」
年に三回くらい名言を吐く高校2年生の生徒が言いました。
「明日でいいだろうは、馬鹿やろうなんだよ」
それからいくつかのことが決まりました。
みんなで行くこと。
不意をついて10分休みに行くこと。
遠回りだけれど傭兵の座席に近いドアに行くこと。
ドアから全員顔を出して呼ぶこと。
大きな声で歌うこと。
次の授業に間に合うように戻ること。
高2クラス教室と職員室はとても遠くて歩いたら5分かかります。
思い切り走ると、生徒は最後の階段を駆け上がる。
職員室のドアの前で、六、七人の女子が並び始める。
床から天井までまっすぐに、並んで顔を出すためだ。
ドアは職員室に向かって90度横についている。
ドアを開けるまで中の大人には何も見えないし聞こえない。
(あたしが上に登るから。**ちゃん下、**ちゃんもっと前出て)
「みんなも来て・・・あー無理だ。入んない。時間ないっ」
「しょうがない、行くよ。いい?」
他の生徒は階段から踊り場まで立って待った。
数人の高2クラス女子はドアを開けた。そして呼んだ。
「傭ちゃ~ん」
授業の支度をしている教員は、全員サーッと引いている。
ドアには、大きな花のように、笑顔が上から下まで咲いている。
職員室はシーンとしたままだ。
傭兵は無言で立ち上がり、ドアへ歩くと、女子をそっと押し出した。
同時に手拍子で歌が始まる。
「せーの! ハッピバースディトゥーユー、ハッピバースディトゥーユー、
ハッピバースディ、ディア傭ちゃーん、ハッピバースディトゥーユーーー。
お誕生日おめでとう~~~」
それはそれは大きな声と拍手が、踊り場にエコー付きで響き渡った。
「ありがとう。やられた。たいていこういうの気づくのに」
何しろ6時間目の前だ。誰にも予想できない奇襲だった。
拍手。おめでとうの声。
「抱負は?」
「そりゃもういつも通り、一時間でも多くみんなの授業をすることです」
がんばって、と拍手の手を合わせて祈るように生徒が言う。
「53歳だっけ」
「このっ、何度言わせんだっ、52だっつうの」
アハハハハ。
そこですかさず、一人の女子が言う。
「じゃあ、みんな。次の授業に間に合うように走るぞ。オーッ!」
ドドドドドッと高2クラス生徒は階段を降り始める。
その背中に向かって、上から傭兵が声をかける。
「ありがとうー。ありがとー。ホントにありがとねー」
高2クラスの冒険は大成功。
一瞬のうちに終りました。
帰りぎわ、傭兵は周りの二人の教員に言いました。
「明日、もし僕が休んだら、飲み過ぎたと思ってください」
「だめですよ。明日は絶対来なくちゃ。
生徒は何か言ってもらえるのを待っていますよ」
傭兵は黙って、いや、口を開くと別のものがあふれそうで、予習もせずに帰りました。
高2クラスの冒険
ある日の10分休みのことです。
高2クラスの教室からドドドドドッと生徒が駆け出しました。
女子が叫んでいます。
「早く! 走って!」
ところが、数十人の生徒は間もなくドドドドドッと戻ってきました。
「あー、疲れた。間に合った~」
6時間目の授業は無事に始まりました。
いったい何があったのでしょう。
その日の午前中、高2クラスの教室で言い合いが始まりました。
「今日じゃなきゃダメだよ」
「でも明日授業あるし。そんときでいいじゃん」
年に三回くらい名言を吐く高校2年生の生徒が言いました。
「明日でいいだろうは、馬鹿やろうなんだよ」
それからいくつかのことが決まりました。
みんなで行くこと。
不意をついて10分休みに行くこと。
遠回りだけれど傭兵の座席に近いドアに行くこと。
ドアから全員顔を出して呼ぶこと。
大きな声で歌うこと。
次の授業に間に合うように戻ること。
高2クラス教室と職員室はとても遠くて歩いたら5分かかります。
思い切り走ると、生徒は最後の階段を駆け上がる。
職員室のドアの前で、六、七人の女子が並び始める。
床から天井までまっすぐに、並んで顔を出すためだ。
ドアは職員室に向かって90度横についている。
ドアを開けるまで中の大人には何も見えないし聞こえない。
(あたしが上に登るから。**ちゃん下、**ちゃんもっと前出て)
「みんなも来て・・・あー無理だ。入んない。時間ないっ」
「しょうがない、行くよ。いい?」
他の生徒は階段から踊り場まで立って待った。
数人の高2クラス女子はドアを開けた。そして呼んだ。
「傭ちゃ~ん」
授業の支度をしている教員は、全員サーッと引いている。
ドアには、大きな花のように、笑顔が上から下まで咲いている。
職員室はシーンとしたままだ。
傭兵は無言で立ち上がり、ドアへ歩くと、女子をそっと押し出した。
同時に手拍子で歌が始まる。
「せーの! ハッピバースディトゥーユー、ハッピバースディトゥーユー、
ハッピバースディ、ディア傭ちゃーん、ハッピバースディトゥーユーーー。
お誕生日おめでとう~~~」
それはそれは大きな声と拍手が、踊り場にエコー付きで響き渡った。
「ありがとう。やられた。たいていこういうの気づくのに」
何しろ6時間目の前だ。誰にも予想できない奇襲だった。
拍手。おめでとうの声。
「抱負は?」
「そりゃもういつも通り、一時間でも多くみんなの授業をすることです」
がんばって、と拍手の手を合わせて祈るように生徒が言う。
「53歳だっけ」
「このっ、何度言わせんだっ、52だっつうの」
アハハハハ。
そこですかさず、一人の女子が言う。
「じゃあ、みんな。次の授業に間に合うように走るぞ。オーッ!」
ドドドドドッと高2クラス生徒は階段を降り始める。
その背中に向かって、上から傭兵が声をかける。
「ありがとうー。ありがとー。ホントにありがとねー」
高2クラスの冒険は大成功。
一瞬のうちに終りました。
帰りぎわ、傭兵は周りの二人の教員に言いました。
「明日、もし僕が休んだら、飲み過ぎたと思ってください」
「だめですよ。明日は絶対来なくちゃ。
生徒は何か言ってもらえるのを待っていますよ」
傭兵は黙って、いや、口を開くと別のものがあふれそうで、予習もせずに帰りました。