2013-11-06up
先月末、中間試験があった。
僕は高校二年のあるクラスでとても低い平均点を取らせてしまった。
しゃれにならない点数だ。
試験を返した授業で、生徒は落胆してフォローの仕様もなかった。
仕様もなかったが二十分くらい語ってみた。
でも、全員うつむいて顔が見えなかった。
次の授業に行くとある生徒が言った。
「先生、私たちをもっと怒って!」
僕は答えた。
「わかった。怒るよ!!! 絶対落第は出さないからな」
そのまま期末試験向けの授業を始めると僕は怒って見せた。
「**さん。顔をあげなさい。俺は今、怒ってんだぞ!!」
「うん。私、今、怒られてる!」
とにかくしゃれにならないから僕も真剣だ。
今日の授業は中間試験のあと三回目だ。
「だらだらするのは許さないぞ。
プリントを両手で持ちなさい。
両足の裏を床に付けなさい。追い読み!」
教材は漢文で、まず現代語訳を覚えるほど読ませる。
七時間目なのによく声が出る。
彼らも僕が真剣なのをわかっているのだ。
現代語訳をコンビで音読させる。一行交代だ。
書き下し文を、九行視写させる。
「競争だ。持って来なさい!」
どんどん♡に○印を付けて返す。
「あ。ハートだ」
と生徒が言う。
「よし。今度は右に振り仮名を振って、持って来なさい」
そのうち生徒が大きな独り言を言う。
「腕がイタァ~い」
「痛くても書きなさい」
「もう手が動かな~い」
「動かないなら、左手で書きなさい。
左手が折れたら口にくわえて書きなさいっ!
センセイは怒ってんだよ!」
「あんまり怖くな~い」
「なに~! とにかく書きなさい!」
小学二年生ではない。高校二年生だ。
何のきっかけか、センセイの誕生日ももうすぐだと誰かが言った。
年内に僕は五十数歳になる。
「*月*日だね」
「違うよ」
「*日だ」
「違うって。まだ覚えてねーのかよ」
「*日!」
「そうだよ。分かってたんじゃん」
「食べ物、何が好きなの」
「うーん。豆腐だな」
「じゃあ、豆腐プレゼントする」
「ありえねえ。それにその日、このクラスの授業ないし」
「先生、学校に来てないの」
「来てるよ、他の授業あるし」
「じゃあ、職員室に押しかけるから」
「怒られるからだめ」
「みんなさぁ、ホントなんか買おうよ」
「ほんとにくれるんなら**がいい。毎日一生使うから」
何度も言うがしゃれにならないのは本当で、何とかしないとならない。
成績に加点できるかどうかわからないが先週かなりの量の課題を出した。
僕が課題イコール宿題を出すのは初めてだ。
授業最後に軽い気持ちで言った。
「もう全員出したね。よくやった」
すると一人の生徒が教卓に歩いて来た。
「あの。やったん、ですけど。うちの、机に置いてきて、しまいました。
金曜日に持ってきます」
僕より背の高い生徒の目から、説明しながら涙がだんだんあふれてきた。
「いいんだよ。いいんだよ。忘れるなんて大人でもあるんだ」
「金曜日に、持って、きます」
「わかった。持って来なさい。金曜は授業がないんだから月曜でもいいんだ」
「持ってきます」
生徒はつかえながらそう言った。
この同じクラスで二か月前にこう言われた。
<お金がないからって、早死するなんて言うな!>
<あきらめちゃダメだよ!>
<ご飯くらい炊くんだよ。傷むなら冷凍するんだよ!>
それから、めっきり外飲みをやめた。
そんなことを言ってくれるのは、今、世界中でこのクラスの子だけだ。
でも、今日久しぶりに外で飲んだ。
数年ぶりに、ギンナンを頼んだ。
もっと久しぶりに、白子を頼んだ。
いつかわからないが、久しぶりに勘定が三千円を越えた。
先月末、中間試験があった。
僕は高校二年のあるクラスでとても低い平均点を取らせてしまった。
しゃれにならない点数だ。
試験を返した授業で、生徒は落胆してフォローの仕様もなかった。
仕様もなかったが二十分くらい語ってみた。
でも、全員うつむいて顔が見えなかった。
次の授業に行くとある生徒が言った。
「先生、私たちをもっと怒って!」
僕は答えた。
「わかった。怒るよ!!! 絶対落第は出さないからな」
そのまま期末試験向けの授業を始めると僕は怒って見せた。
「**さん。顔をあげなさい。俺は今、怒ってんだぞ!!」
「うん。私、今、怒られてる!」
とにかくしゃれにならないから僕も真剣だ。
今日の授業は中間試験のあと三回目だ。
「だらだらするのは許さないぞ。
プリントを両手で持ちなさい。
両足の裏を床に付けなさい。追い読み!」
教材は漢文で、まず現代語訳を覚えるほど読ませる。
七時間目なのによく声が出る。
彼らも僕が真剣なのをわかっているのだ。
現代語訳をコンビで音読させる。一行交代だ。
書き下し文を、九行視写させる。
「競争だ。持って来なさい!」
どんどん♡に○印を付けて返す。
「あ。ハートだ」
と生徒が言う。
「よし。今度は右に振り仮名を振って、持って来なさい」
そのうち生徒が大きな独り言を言う。
「腕がイタァ~い」
「痛くても書きなさい」
「もう手が動かな~い」
「動かないなら、左手で書きなさい。
左手が折れたら口にくわえて書きなさいっ!
センセイは怒ってんだよ!」
「あんまり怖くな~い」
「なに~! とにかく書きなさい!」
小学二年生ではない。高校二年生だ。
何のきっかけか、センセイの誕生日ももうすぐだと誰かが言った。
年内に僕は五十数歳になる。
「*月*日だね」
「違うよ」
「*日だ」
「違うって。まだ覚えてねーのかよ」
「*日!」
「そうだよ。分かってたんじゃん」
「食べ物、何が好きなの」
「うーん。豆腐だな」
「じゃあ、豆腐プレゼントする」
「ありえねえ。それにその日、このクラスの授業ないし」
「先生、学校に来てないの」
「来てるよ、他の授業あるし」
「じゃあ、職員室に押しかけるから」
「怒られるからだめ」
「みんなさぁ、ホントなんか買おうよ」
「ほんとにくれるんなら**がいい。毎日一生使うから」
何度も言うがしゃれにならないのは本当で、何とかしないとならない。
成績に加点できるかどうかわからないが先週かなりの量の課題を出した。
僕が課題イコール宿題を出すのは初めてだ。
授業最後に軽い気持ちで言った。
「もう全員出したね。よくやった」
すると一人の生徒が教卓に歩いて来た。
「あの。やったん、ですけど。うちの、机に置いてきて、しまいました。
金曜日に持ってきます」
僕より背の高い生徒の目から、説明しながら涙がだんだんあふれてきた。
「いいんだよ。いいんだよ。忘れるなんて大人でもあるんだ」
「金曜日に、持って、きます」
「わかった。持って来なさい。金曜は授業がないんだから月曜でもいいんだ」
「持ってきます」
生徒はつかえながらそう言った。
この同じクラスで二か月前にこう言われた。
<お金がないからって、早死するなんて言うな!>
<あきらめちゃダメだよ!>
<ご飯くらい炊くんだよ。傷むなら冷凍するんだよ!>
それから、めっきり外飲みをやめた。
そんなことを言ってくれるのは、今、世界中でこのクラスの子だけだ。
でも、今日久しぶりに外で飲んだ。
数年ぶりに、ギンナンを頼んだ。
もっと久しぶりに、白子を頼んだ。
いつかわからないが、久しぶりに勘定が三千円を越えた。