ナショナルジオグラフィック2022.11.01
毎年11月1日と2日にメキシコ全土で祝われるユネスコ無形文化遺産


メキシコ、メキシコシティーで、死者の日の代表的なシンボルである「カラベラ・カトリーナ」に扮して祭りを祝う人々。(PHOTOGRAPH BY TOMAS BRAVO, REUTERS)
毎年11月1日と2日にメキシコで祝われる「死者の日」は、亡くなった家族への愛と敬意を示すお祭りだ。国中の町や村で、パレードやパーティーが開かれ、人々は奇抜なメイクと衣装で歌い踊り、愛する人の墓へ花を手向ける。
死者の日の儀式は様々なシンボルであふれ、その一つひとつに意味がある。その意味を知れば知るほど、色彩豊かなこのお祭りを楽しめるはずだ。そこで、死者の日についてこれだけは知っておきたいこと10選を紹介しよう。
1. その歴史は数千年
祭りの起源は、数千年前にさかのぼる。スペイン人が到来する前のアステカ文明やトルテカ文明、その他のナワ族は、死を悼むことは死者に対する非礼にあたると考えていた。死は長い生のなかで誰もが通過する自然な段階の一つに過ぎず、死後も人は社会の一員であり、他の人の記憶と心のなかに生き続け、そして死者の日に一時的にこの世に戻ってくると信じられていた。
先住民の宗教儀式はやがてスペイン人がもたらしたキリスト教の祭りと融合し、現代にいたる。今は、秋のトウモロコシの収穫時期に合わせ、カトリックのカレンダーで万聖節である11月1日と、万霊節である11月2日に開催されるようになった。
2. ユネスコ無形文化遺産
死者の日は、2008年にユネスコ無形文化遺産に指定された。現在、メキシコではあらゆる宗教的・民族的背景を持った人々が死者の日を祝っている。しかしその中心的な意味合いは、先住民族の生を再認識することにある。
3. 祭壇
祭りの中核を占めるのは、個人宅や墓地に設置される「オフレンダ」と呼ばれる祭壇だ。礼拝ではなく、魂を現世に迎えるための祭壇で、その前には山のような供え物が置かれる。現世へ戻ってきた死者が長旅による喉の渇きをいやす水、食べ物、家族の写真、死者1人につきろうそく1本。そして子どもの死者がいれば、小さなおもちゃも供えられる。
供花には、主にマリゴールドが使われる。祭壇から墓までの道にマリーゴールドの花びらをまき、道に迷った魂を安住の場所へ導く。木の樹脂で作られたお香コパルを焚き、その煙に賛美と祈りを乗せて、祭壇の周囲を清める。
4. カラベラ詩
「カラベラ」とは、スペイン語で頭蓋骨という意味だが、18世紀後半から19世紀前半にかけて、ユーモアたっぷりの短い詩をそう呼ぶようになった。このカラベラ詩はしばしば生きている者への皮肉を込めて墓碑銘に刻まれ、新聞に掲載された。いつしかそれは死者の日の風物詩となり、今では詩集も出版され、テレビやラジオ番組で朗読されるようになった。
5. カラベラ・カトリーナ
20世紀初め、メキシコの政治風刺画家で石版画家のホセ・グアダルーペ・ポサダは、死を擬人化した骸骨にしゃれたフランスの服を着せた絵を石版画で描き、これに「Todos somos calaveras(私たちはみんな骸骨)」というカラベラ詩を添えた。洗練されたヨーロッパの真似事をする当時のメキシコ社会に対し、どんなにうわべを着飾っても中身は皆一緒であると皮肉ったものだ。
1947年に、芸術家のディエゴ・リベラが「Dream of a Sunday Afternoon in Alameda Park(アラメダ公園の、日曜日の午後の夢)」という壁画を制作し、そのなかにポサダの骸骨を描き入れた。リベラはこの骸骨を女性として描き、大きな女性らしい帽子をかぶせ、カトリーナという名を与えた。カトリーナには、スラングで「富裕者」という意味がある。現在、カラベラ・カトリーナは、死者の日の最も有名なシンボルになっている。
6. 祭壇への供え物
祭壇に供えるパンを、「パン・デ・ムエルト(死者のパン)」と呼ぶ。普通の甘いパンだが、アニスシードが入っていたり、骨や頭蓋骨の形をした小さな生地で飾られることがある。円形に並べられた骨は命の輪を象徴し、水滴の形をした小さな生地は悲しみを表す。
頭蓋骨の砂糖菓子は、17世紀のイタリア人宣教師たちによってもたらされた砂糖芸術の伝統を受け継いでいる。砂糖を型に入れて押し固めて色を付けた頭蓋骨には、さまざまな大きさがあり、なかにはかなり精巧に作られたものもある。
死者の日の代表的な飲み物には、アガベシロップ(リュウゼツラン科の植物の樹液)から作られた甘い醸造酒の「プルケ」、トウモロコシ粉に未精製の砂糖、シナモン、バニラを加えた温かい粥状の「アトーレ」、そしてホットチョコレートなどがある。
7. 衣装
死者の日には、人々は昼夜を徹して通りや広場で盛り上がる。骸骨の衣装も楽しみの一つだ。あらゆる年齢層の人々が、芸術的な頭蓋骨メイクを顔に施し、カラベラ・カトリーナを真似てスーツやしゃれたドレスを着る。貝殻やそのほか音の鳴るものを身に着けて気分を高揚させ、できることなら死者を呼び覚まして一緒に楽しんでしまおうとさえ思っている。
8. パペルピカド
「パペルピカド」とは、メキシコのレースペーパーのこと。色のついた薄葉紙を何枚も重ねて、金槌とノミで美しい模様に穴をあける。死者の日には、これが祭壇の周囲や町中に飾られる。死者の日限定のアートではないが、パペルピカドは、風と命のはかなさを表す重要な祭りのシンボルだ。
9. メキシコシティーのパレード
今や米ニューヨークなどメキシコ国外でも祝われるようになった死者の日だが、本場の雰囲気を楽しむなら、やはりメキシコの首都メキシコシティーで開催されるグランドパレードを見に行こう。町中のいたるところで、音楽隊の生演奏や自転車乗り、その他のアクティビティを楽しむことができる。
10. 各地の特色ある祭り
メキシコでは各地で死者の日が祝われるが、その祝い方や衣装はスペイン人到来前にその地域を支配していた文化によって異なる。なかでも特に、色とりどりで心を動かされる祭りをいくつか紹介しよう。
パツクアロ:メキシコシティーから約360キロ西へ離れたミチョアカン州パツクアロの儀式には、心を揺さぶられる。村々からパツクアロ湖のほとりに集まってきた先住民たちは、船首にろうそくを1本ともした小さなカヌーに乗り込む。そして、湖に浮かぶ小さなハニツィオ島に向かい、そこにある先住民の墓地で徹夜祭を執り行う。
ミスキック:メキシコシティーの郊外にあるミスキックでは、聖アウグスティヌス修道院の鐘が鳴るなか、ろうそくと花を持った人々が墓地を訪れ、愛する人の墓を清めて花を飾る。
トゥクステペック:オアハカ州北東部に位置する小さなこの町の名物は、おがくずのカーペットだ。死者の日の前、人々は何日もかけて、様々な色に染めたおがくず、花びら、米、松葉などをカーペットのように道路に敷き詰め、美しい模様を描く。伝統的に重要な行列のために作られてきたおがくずカーペットだが、今では死者の日にこれらを審査し、優秀作品を選ぶコンテストが開かれる。
アグアスカリエンテス:メキシコ第2の都市であるグアダラハラから北へおよそ225キロ離れたアグアスカリエンテスは、ホセ・グアダルーペ・ポサダの出生地でもある。ここで開かれる「頭蓋骨祭」は1週間近くにおよび、マデロ通りを練り歩くグランドパレードでフィナーレを迎える。
文=LOGAN WARD/訳=ルーバー荒井ハンナ
https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/22/101900475/