ニューズウィーク11/16(水) 10:47
中間選挙でダメージを負っても、2024年大統領選でのトランプ復活の可能性は排除できない。総力取材で「2期目」を展望する(前編)
ドナルド・トランプは大統領への返り咲きを諦めるのではないか――そんな見方は、最近の動向を見る限り打ち砕かれたと言えそうだ。
2020年11月の大統領選で敗れて2年。前大統領は、今も以前と変わらず派手な政治集会を重ねている。
11月8日の中間選挙前には、共和党の候補者を応援するためというのを建前に、実質的には自分が主役のように振る舞い、大統領時代の成果を誇ったり、さまざまな不満をぶちまけたりしていた。
メディアで取り上げられる機会にも事欠かない。この10月には、昨年1月の連邦議会襲撃事件を調査している下院特別委員会がトランプに証言と書類提出を求める召喚状を発した。8月には、機密書類の持ち出し疑惑に関連して、FBIがフロリダ州にあるトランプの別荘マールアラーゴを家宅捜索している。
ほかにも、毎日のようにトランプの法的トラブルが報じられている。
中間選挙で共和党は予想外の苦戦を強いられたが、それでもトランプは11月15日に、2024年の大統領選への再出馬を表明するとみられる。法的トラブルなどどこ吹く風、共和党支持者のトランプ人気は根強く、刑事告発されたとしても、支持はほとんど揺らがないだろう。
FBIによる家宅捜索後の支持者の反応を見ると、むしろ支持がいっそう強まる可能性すらある。中間選挙前のある世論調査は、大統領選が共和党のトランプと民主党のジョー・バイデン大統領の対決になった場合、トランプが勝つ見通しを示していた。
2期目のトランプ政権が発足した場合、大統領に復帰したトランプはどのような行動を取るのか。民主党支持者と無党派層を中心に、有権者の61%がトランプの再出馬を望んでいないことを考えると、多くの人が戦々恐々としながら彼の動向を注視している。
トランプは最近の演説でも、2017年の大統領就任演説さながらに、おどろおどろしい話を繰り返していた。進歩派の民主党員と背後で糸を引く勢力により、アメリカが破滅させられようとしている、というのだ。
「外部の脅威も極めて大きいが、最大の脅威は今もやはり国内の邪悪な連中だ」などと述べている。
トランプが2期目にどのような政策を推進するかは、まだ推測の域を出ない(そもそもトランプが政策に関心を持っているかも疑わしい)。それでも、本誌が過去と現在の側近たちに話を聞いたところ、おおよその方向性が見えてきた。
まず、1期目ではトランプのブレーキ役になり得る人物も一部の要職に起用したが、今度は自分に忠実な人物で人事を固めそうだ。
また、権力掌握を目的に、軍に対するコントロールを強化するだろう。そして、行政サービスを大幅に縮小し、自身の支持層が抱く価値観に沿った政策を打ち出す可能性が高い。
黒人、性的少数者、アメリカ先住民などの投票権をますます制約しようとすることも予想できる。政治的な敵対勢力に嫌がらせをしたり、ひどい場合は投獄したりするために、FBIや軍、内国歳入庁(IRS)などを利用することもあり得る。
対外政策も根本から変わりそうだ。ヨーロッパの同盟国に敵対的な態度を取り、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領との友好関係を復活させるだろう。
一方、大統領を3期以上務めることを禁止する合衆国憲法のルールなど、アメリカの民主政治の骨格を成す規範も崩壊しかねない。
ひとことで言えば、1期目でおなじみのトランプが帰ってくる。ただし、前回より行動がエスカレートし、しかも好き勝手に振る舞うことを妨げる要素は少なくなる。
「1期目が常軌を逸していたと思っているかもしれないが、本当に常軌を逸したことが始まるのはこれからだ」と、反トランプ派の共和党員らが結成した政治団体「リンカーン・プロジェクト」の共同設立者であるリード・ゲーレンは言う。
トランプ派で固める人事
大統領に返り咲いたトランプが最初に行うことは、自分と家族、重要な友人や支持者のあらゆる犯罪について、恩赦を与えることかもしれない。
既に、昨年の連邦議会襲撃事件に加わった人たちに恩赦を与える意向を示している。破壊的な行動や、暴力的な抗議活動、反乱行為を免責することにより、自身の支持層を喜ばせようとする可能性もある。
大統領による恩赦の対象になるのは、連邦法上の刑事事件だけ。州法上の事件は対象外だ。しかし、連邦最高裁判所は、大統領在任中、トランプに対する州法関連の事件と民事事件の裁判を停止しそうだ。「大統領であり続ける限り、法律上の問題からはほぼ完全に守られる」と、サザンアイダホ短期大学のラス・トレメイン名誉准教授(歴史学)は言う。
差し当たり法的脅威を払いのけることができれば、トランプは政府のさまざまなポストを自分のシンパで埋め尽くそうとするだろう。
トランプが1期目で学んだ教訓の1つは、政治的な考え方や経験や能力よりも、自分に対する忠誠心を重視して人事を行うべきだという点だったと、ジョージ・ワシントン大学政治経営大学院のトッド・ベルト教授は指摘する。
1期目の政権では、トランプのとりわけ問題のある行動に歯止めをかけようと努めた人たちもいたが、「そうした高官は少なくなるだろう」と言う。
ひたすらトランプに忠実であり続けた人たちは、国務省、司法省、CIA、環境保護局などの重要官庁で役職を与えられることになりそうだ。
「政権最後の1年間は、2期目の政策課題を検討することにほぼ費やしていた」と、トランプ政権のホワイトハウスで内政を統括する「国内政策会議」を取り仕切ったブルック・ロリンズは言う。
現在、ロリンズは、トランプと密接な関係を持つアメリカ・ファースト政策研究所の理事長を務めている。
「2期目の政権が発足した初日から、私たちは、より生産的で、より説得力ある方法で国民に奉仕できていると思う」
ロリンズが新政権で復活しそうな幹部候補として挙げる人物の1人が、1期目の政権で内務長官を務めた元石油業界ロビイストのデービッド・バーンハートだ。
バーンハートは内務長官時代、アラスカ州の北極野生生物国家保護区など、公有地での石油・天然ガス掘削を積極的に許可し、エネルギー産業の規制を緩和し、野生生物の保護を弱体化させた。
そのほかの有力候補としては、1期目のホワイトハウスでトランプのスピーチライターと政策担当の上級顧問を務めたスティーブン・ミラーも挙げることができる。ミラーは、トランプ政権の反移民政策を立案した中心人物として知られている。
国家安全保障担当大統領補佐官を務めたマイケル・フリンも候補者の1人だ。極右系陰謀論勢力「QAnon(Qアノン)」の支持者であり、FBIに偽証したことを認める司法取引を行い、有罪を認めていたが、のちにトランプによって恩赦された。
司法省で次官補を務めたジェフリー・クラークは、トランプが敗れた2020年大統領選の選挙結果を覆す計画に加担した。
国防長官代行の首席補佐官などを歴任したカッシュ・パテルは、政権を離れた後もトランプのために奔走してきた。トランプに批判的なジャーナリストなどへの訴訟を起こすための基金を設立したり、2020年大統領選へのロシア政府介入疑惑に関してトランプの主張を盛り込んだ子供向けの絵本を作ったりしている。
合衆国憲法によれば、閣僚は上院の承認を得なければ就任できない。しかし、共和党が承認プロセスを円滑に進めるのに必要な議席を確保することは難しいとみられている。
そこで、トランプは前回と同様、多くの閣僚職を「代行」のままにしておくだろうと語るのは、ジョン・ボルトンだ。ボルトンは1期目の政権で国家安全保障担当大統領補佐官を務めたが、約1年半で辞任した。
「到底承認されない『追従者』で政権を埋めるだろう」と、ボルトンは言う。
「国家安全保障の専門家で、第2次トランプ政権の一員になろうと考える者は3人もいないはずだ」
仮に何人かが上院で承認されたとしても、1期目の政権の入れ替わりの激しさを考えれば長くは続かないだろうと、ボルトンは付け加えた。
トランプが任命した人物は長官代行として、政府内の大粛清を実行できる立場になる。
長官代行は省庁の幹部クラスに忠実なトランプ派を置き、さらにその人物が忠実なトランプ派を部下にするという形で、連邦政府全体で4000人もの政治任用者を自派で固めることになる。
既にトランプは「ディープステート(国家内国家)」、つまり官僚機構を通じて政府内に浸透し、保守的な価値観をことごとく覆そうと画策している(と陰謀論者が主張する)リベラル軍団の解体計画について、自分の手の内を明かしている。
大統領退任間際の2020年10月下旬、トランプは連邦政府職員に「スケジュールF」という新たな職種区分を設ける大統領令を発令した。この新分類の下では、数万人分の政府ポストが連邦政府の政策形成に関与可能な職と見なされる。
一見昇進のようだが、とんでもない。スケジュールFに分類されたポストはあらゆる解雇保護規制から外れ、政治任用ポストと同様に上司の政治的気まぐれに対して脆弱な立場になる。
バイデンは大統領就任後すぐにスケジュールFを廃止したが、トランプは容易に復活させることが可能だ。その結果、一部の分野で連邦政府の権限と組織が縮小し、「全面的な規制緩和への回帰が起こるだろう」と、ロリンズは言う。
この区分変更は広範囲の連邦職員に破滅的な影響を及ぼすと、最大の連邦政府職員組合である米政府職員連盟のエベレット・ケリー会長は主張する。
「非政治任用職員のシステムは破壊され、政府内部は政権の手先だらけになる」
政府職員への攻撃はより広範な制度解体の前触れであり、メディケア(高齢者医療保険制度)や社会保障制度などの民営化を視野に入れた動きだと、ケリーは付け加える。
だが、ロリンズの見方は違う。
「官僚機構は、米国民への奉仕から、自分たち自身の保身へと目的を変質させてしまった。スケジュールFは、連邦政府のCEO(大統領)が200万人強の自分のチームを動かし、使命の実現に本気で取り組ませるための小さな一歩だ」
別の元政府高官は、スケジュールFへの不満はエリート意識の表れだと批判した。
「役人たちは多くの点で正常な判断力を失っている。専用駐車場を使えなくしただけで、ペットの首が取れたかのように騒ぐ」
※中編:「トランプは同盟に興味を示したことも理解したこともない」2期目トランプの外交・権力強化予測 に続く。
【デービッド・H・フリードマン(ジャーナリスト)】
■2022年11月22日号(11月15日発売)は「アメリカの針路」特集。米中間選挙でバイデン民主党が上院死守の理由。アメリカの政治・外交はこう変わる――
https://news.yahoo.co.jp/articles/b1f3b2bff026dbfaa2e3d7d7f9aa678e9ca17a48