COURRiER 2025.2.10
トランプの「脅しには屈しない」という南アのラマポーザ大統領 Photo by Per-Anders Pettersson/Getty Images
ドナルド・トランプ大統領は2月7日、南アフリカへの支援や経済援助を停止する大統領令に署名した。南ア政府が、少数派の白人が所有する土地を取り上げるなどして「人種差別」しているからだという。
大統領令では、そのように「迫害されている」南アの白人が「難民」として米国へ逃れてくるならば、喜んで受け入れる旨も記された。
「白人差別」は本当か?
トランプが問題視したのは、南アで1月に制定された新法だ。トランプは、「少数民族のアフリカーナーの農地を補償なしに没収できるようにした」と批判している。
アフリカーナーとは、主にオランダ系移民の子孫である南アの白人のことを指す。同国では植民地時代に、白人入植者によって黒人の土地が強制的に奪われた。そこで1994年のアパルトヘイト(人種隔離政策)撤廃後、政府は黒人に土地を再分配して格差是正に取り組んでいる。
米紙「ニューヨーク・タイムズ」によれば、それは白人側から自主的に土地を売却するとの申し出があれば、政府が積極的に買い取るというものだ。しかし、黒人への土地の移譲は思うように進んでいない。そのため政府は、一部のごく例外的なケースでは、当局が補償金を払わずに私有地を収用できるようにする法律を制定した。
事実、アパルトヘイトの負の遺産はいまだ大きい。人口の7%にすぎない白人が、この国の私有農地の約70%を所有しているのだ。
一方、トランプの大統領令に影響を及ぼしたのは、南ア出身のイーロン・マスクではないかとの見方もある。
いまや大統領の最側近となったマスクは、2023年に「白人に対するジェノサイドが公然とおこなわれている」とXに投稿。この2月3日にも「なぜ人種差別的な土地所有法があるのか?」と、南アのシリル・ラマポーザ大統領をX上で批判していた。
「Thanks, but no thanks」
南アの人々はトランプの大統領令をどう受け止めているのだろう?
アパルトヘイト後の土地の再分配について不満を抱いていた一部の白人地主や、極右のアフリカーナーたちは歓迎している。ただ、それでも「米国へ移住するつもりはない」と丁重に断りを入れているという(ロイター通信)。
南ア最大の都市ヨハネスブルクで働く女性は、米紙「ロサンゼルス・タイムズ」にこう語っている。
「彼(トランプ)は実際にここに来て、この国で何が起こっているのか、自分の目で確かめるべきだよ。この国に長く暮らしたこともないイーロン・マスクの言葉を鵜呑みになんかせずにね」
南ア外務省がトランプに一撃
トランプ政権は現在、移民の大量送還と同時に難民の受け入れも厳しく制限している(難民認定プログラムを90日間停止中)。紛争地帯から、政治的迫害から、極度の貧困から死に物狂いで逃れてくる人々を突き返しているのだ。
にもかかわらず、南アの白人は例外的に温かく迎え入れるという大統領令。これに対し、南ア外務省は次のような声明を出している。
「世界の他の国々から米国にやってきた脆弱な人々が、強制送還されたり難民申請を拒まれたりしているのに、南アフリカ国内で最も経済的に恵まれたグループを難民として認めるなんて、なんとも皮肉な大統領令だ」